第4話 波乱の下見
かつての星間戦争は、我々人類に新たな秩序を創造する権利を与えた。
『魔法』という物理法則を超越した新技術は、コンピュータやAIと並びこの世界に革命を引き起こした。あの日から66年が経ち、66歳以下の全て人類が魔法を使えるようになった結果、医療や通信など、あらゆる分野に魔法が組み込まれ、人類は更なる魔法社会へと発展していった。これによって、エネルギー問題や環境問題はほぼ全て解決され、人々の生活水準は爆発的に高まっていた。
しかしもちろん、課題も残った。
まず、魔法の技術力の高さによる格差社会が形成された。魔法が上手な者が魔法を苦手な者を見下すような社会となり、犯罪やテロが増えた。
人体や機械の魔力回路に負荷をかけて魔法の使用を抑制する装置が作られたが、操作が難しく魔法をかける対象の選択ができないといった問題点があったためあまり普及せず、無法地帯となってしまった地域もあった。
また、政治面も大きく変わった。
いざという時に自分達を守ってくれる、強くてリーダーシップがある者が頂点に立つべきという考え方が広まり、地球上の魔法を管理する機関『ジルトレア』が設定した魔法師としての強さランキングの上位10名が、人類の意思を決める最高機関である会議に参加し、国際法などを審議するという体制がとられた。
当然、反対も多かった。しかしそのような人々の多くは魔法が使えない人たちで、異星人達から自分達を守り、戦争で活躍する魔法師に憧れを抱いた現代人の多くが賛成した。
何が正義で何が悪なのか、それは時代によって大きく変わる。
例えば、平安時代に流行った短歌や俳句を現代で熱愛している人は極少数だろうし、現代人が愛して止まないインターネットが馬鹿にされていた時代もあった。
つまり、価値観が違えば、何を大切にするかも変わるという事だ。
*
「・・・・・・思ったよりも大きいな。」
「そりゃあもちろん、日本一の学校だからね。やっぱりすごい所だよ、ここは。」
翌日、日曜日という事もあり授業が無かったため、明日人が学校を案内してくれた。4年ぶりという事もあり、最初の内はお互い何を話していいかわからず緊張したが、元々親友だった事もあり、今ではすっかり打ち解け元の関係へと戻ろうとしていた。
教室や食堂、魔法の練習場、職員室などを順番に回っていき、少しずつ頭に叩き込んでいく。無駄にでかい島内には今日周った所以外にも色々な施設があるらしく、おしゃれなカフェや映画館などもあるそうだ。
そして最後、俺はこれから卒業するまでの3年間住む事になる自分の寮へとやって来た。ちなみに、魔法師育成学校は4年制かつ全寮制で、特別な事情が無い限り寮に通う事になっており、俺も入寮する事となった。
「健斗の部屋はここだね。じゃあ僕は依夜の所に迎えに行って来るから、後は自分で頑張ってね。」
「お、おう。」
明日人に案内されてやって来たのは、寮の5階の一番奥『501号』の部屋だった。寮は、基本的に2人1部屋なので俺は今から、俺のルームメイトとのご対面という事になる。おそらく明日人は、気を利かして席を開けてくれたのだろう。
昨日、結人さんから受け取ったカードキーを取り出した。
「ここにかざすのかな・・・・・・お、開いた。」
初めて見る形式であったが、苦労せずに開ける事ができた。
「入るか・・・・・・」
いったいどんな奴が俺のルームメイトなのだろうか、少しワクワクしながら中へとはいった。お、意外と広いじゃん、と思いながら奥へと進む。
そして俺は、見てしまった。
輝くような美しい金色の長い髪に、まるで初雪のように白い肢体。
それに、真紅のレース地のランジェリーに身を包んだ、美しい少女を。
「へ?」
間抜けな声を出してしまった。
慌てて口を塞いだが、時既にお寿司・・・・・・
気付いた時には、少女とばっちり目が合ってしまった。
「え?」
彼女の可愛らしい顔が、見る見るうちに赤くなっていくのがわかった。彼女の瞳から、うっすらと涙が零れるのがわかった。
う~む、嫌な予感しかしない。
俺は、瞬間的に昔の癖で、すぐさま警戒心を強めた。
「きゃぁぁぁああ!」
来るっ!
「ちょっ!どうして避けるのよ!」
「あっぶね~いきなり殴んなよっ!」
悲鳴と共に飛んで来た、魔力が籠った彼女の右ストレートが俺の頬を掠めた。同時に俺は、一歩後ろへと下がった。当たっていたら、数mほど後ろに吹き飛ばされて、当たり所が悪ければ死んでいただろう。
まぁこのぐらいは、異世界で出会った魔族たちの攻撃に比べたら対処は簡単だ。
できるだけ、自分の心を落ち着かせようと試みる。
慌てて大事な部分を隠すようにしゃがんだ彼女は、殺意が籠った琥珀色の瞳でこちらを睨みつけた。
「あ~えっと、これには理由があってだな・・・・・・」
「決闘よ。」
「え?」
「貴方もこの学校の生徒なら知っているでしょ?決闘を。」
「いや、俺は・・・・・・」
どうやって誤解を解こうか考えていると、まるでタイミングを見計らったかのように後ろの扉が開いた。そして、よく知る友人が中に入って来た。
「おやおや?面白い事になっているみたいだね~」
「お、明日人っ!良い所に。」
「丁度良い所に来たわね、明日人」
俺は、明日人が来てくれた事に対して、深く安堵した。頭の良い明日人なら、この問題を解決してくれると思ったからだ。
「その決闘、僕が見届けて人になるよ。2人ともそれで良い?」
「頼むわ。」
「あ、あぁ、俺もそれで良い。」
いつの間にかバスタオルで身体を隠していた少女は、明日人に対してそう答えた。2人の言う決闘というのが、どう言ったモノなのかさっぱり分からなかったが、俺は明日人を信じてとりあえず頷いといた。
この選択が、俺にどのような影響を与えるのか知らずに・・・・・・
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どうでもいい話
お寿司〜は、誤字ではありません。
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