第3話 決められた道

「ここだな・・・・・・」


 今俺がいるのは、異世界に召喚される前の俺の家の前だ。そこは間違いなく自分の家であったが、少し緊張したのでインターフォンを押した。しばらくすると、見知った顔の女性が出てきた。彼女は俺の顔を見ると思わず驚きの声を漏らした。


「嘘っ・・・・・・」


 子供の頃から何度も見たその顔は、最後に見た時と比べて少し老けており、何処か元気が無いように見えた。だが、俺と目が合った直後、彼女の顔に光が戻った気がした。


「・・・・・・」


「け、健斗~」


 久しぶりの再会に、俺はなんて答えればいいか分からなかった。俺が何も言えず玄関で棒立ちしていると、お母さんが俺の胸の中に飛び込んできた。一瞬対応が遅れたせいで、少しバランスを崩したせいで抱きしめられる形となった。


「た、ただいま、母さん・・・・・・」


「言いたい事はたくさんあるけど、まずはこれから言わせて。」


 昔はほとんど変わらなかった身長が、いつの間にか俺の方が高くなっていた。俺も、精一杯母さんを抱きしめ返した。


「帰ってきてくれてありがとう、健斗」


 その言葉を、そのたった一言を、どれだけ聞きたかった事か・・・・・・。

 知らなかった、久しぶりの再会がこんなにも俺を安心させるとは・・・・・・。

 帰ってきて、本当に良かった。


 その日の夜、俺は母さんにこの4年間の出来事をすべて話した。秘密にして、母さんに心配をかけるような事はしたくなかったからだ。お母さんは、そんな俺を受け入れてくれた。


 母さんの優しさが変わっていなくて、本当に良かった。



 *



「ここが・・・・・・。」


 目の前に聳え立つ、まるでお城のような建物に俺は言葉を失っていた。異世界で俺が数十日ほど暮らしたお城や魔王が暮らしていた魔王城よりも幾ばくか大きい。東京湾のど真ん中に浮かぶ人工島に、俺が今日から通う事になる学校があった。

『国立日本魔法師育成学校東京校』

 日本に8校しかない未来の魔法師を育てる為の学校で、この学校に入れるのは全国を見ても一握り。また、世界を見ても5本の指に入るレベルのトップ校で、世界各国から多くの留学生を受け入れている。

 まさか俺が、編入とはいえ日本トップクラスの魔法学校に入学する事になるとは、昔の俺は想像もしていなかっただろう。


 話は、1週間前に遡る。


「君には、明日人や依夜と同じ『国立日本魔法師育成学校東京校』に編入してもらおうと思う。」


「え、は?え?俺が、あの魔法学校に?!」


 地球へと帰還した翌日、俺の家に明日人と依夜のお父さんである結人さんが俺の家へとやって来た。彼は俺の中学時代の担任で、俺のこれからの生活についての相談相手になってくれた。異世界では現地時間で8年間の月日が流れていたが、異世界の2日は地球での1日に相当したため、地球では4年が経過していた。精神的にも肉体的にも高校生となっていた俺は、元いた中学校に通うわけにも行かず、この後自分がどうすればいいのか分からなかったため、頼りになる先生に相談してみる事にしたのだ。

 先生は、俺にルートを用意してくれた。


「多分だけど、君が想像している通りの学校だよ。君は明後日の月曜日からそこの2年Aクラスの生徒として通ってもらう事になったから心の準備をしといてね。」


「えっ?!明後日からですか?!」


「うん、何か問題あるかな?」


「いや、ほら、そのいきなり過ぎるというか・・・・・・あ、編入試験のようなものとかはないんですか?」


「普通ならあるんだけど、君は月詠中学校を卒業後、ドイツに留学していた事になっているから。その実績を使って編入した事になっているよ。まぁ、実を言うと少しだけ強引な手を使ったらしいんだけど、そこは秘密にしてね。」


「は、はぁ・・・・・・」


 ドイツ留学なんかしてね~よ、と言いたいところだが、ぐっと踏み留まった。

 昨日母さんに聞いた話によると、俺の失踪事件はドイツ留学として処理されたそうだ。俺が消える瞬間が、コンビニの中とは言え、公衆の面前でしかも監視カメラにバッチリと映っていたらしく、全く新しい魔法なのでは、と政府や魔法省のなかで騒ぎになったらしい。

 幸い、母さんの勤めている『ツクヨミ社』が動いてくれた結果、ツクヨミ社が新しく開発した魔法の実験であったという事になったそうだ。一歩間違えれば大変な事になっていたかもしれないが、俺の知らないところで情報統制が行われた結果、俺の失踪事件は無かった事となったそうだ。


「じゃあそういうわけだから、特に問題が無いならこのまま話を通そうと思うけど、いいかな。」


「あ、はい。大丈夫です。」


 こうして、俺の編入が決まった。

 あまりにもスピーディで、途中からついていけなくなったが、ともかく色々な書類を書かされる事になった。編入手続きや、俺がこれから住む事になる寮の入寮願いなどを書いた。

 怪しいものは書かされていない、はずだ。


 結人さんが出て行った後で、俺は深刻な問題に気がついた。

 そう、勉強だ。

 はっきり言って、高2の勉強についていける気がしない。

 そういえば俺は、高校生の学習内容はおろか、中学1年生で異世界に飛んでから全く勉強をしていない。とりあえず、高1の教科書を眺める事にした。



 もちろん、内容はさっぱりわからなかった。

 うん、勉強は捨てよう。

________________________

どうでもいい話


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