第2話 落ちて来た星
西暦2067年ー東京
上空20000m
「ぎゃぁーーー止めて止めて〜。」
皆様は、人がギリギリ死なない高さをご存じだろうか。活用するタイミングが来ない事を祈るのが正解ではあるが、海の上ならば75m、地上であれば人は45m以上になるとほどんどの確率で死んでしまうらしい。
もちろん、当たりどころが悪ければわずか数mの高さからでも死んでしまうし、逆に高度10000mの高さから落ちて生き残った例もある。
だが、俺の現在地である高度20000mから無事に生還できた人はいないだろう。
「死ぬーっ!絶対これ死んだやつーっ!」
【なんだ、情け無いやつだな。これぐらい自分でどうにかせい。】
「無理に決まってるいるだろーー。」
【やれやれ、ご自慢の魔法はどうした。反重力魔法ぐらい、さっさと展開せぬか。】
「あ、そっか。反重力魔法、展開っ!」
そう言えば俺、魔法使いだった・・・・・・
こんな単純な事に気が付かなかったとは、我ながらアホすぎる。
【はぁ〜全く、何故こんな奴と契約したんだか・・・・・・】
「わ、悪かったな。久しぶりの地球で色々と記憶が飛んでいたんだよ、こっちは。」
反重力魔法の影響によって、俺の身体に少しずつマイナスの加速度が働いた。この魔法は向こうの世界で何百回、いや何千回と使った魔法だ。今さらこんな所で、俺がミスをするはずがない。
どうやら感覚はそれほど鈍くなっていなかったようで、地面に上手く着地する事ができた。だか、着地と同時に俺の身体に激痛が走った。
「はぁ・・・・・・身体が痛い、魔力切れかよ。やっぱり異世界転移で魔力使い過ぎたな、これ。」
周囲を確認しつつ、今の状況を確認する。
まず、体がちょ~痛い。久しぶりに魔力切れを経験したが、どうやらかなり無理をしたようで体全体に激痛が走っていた。
見慣れた町だが短くない月日が経過したからか、所々違う所もあるが、道順などは同じだ。
「さて、これからどうするかな〜」
もう一度反重力魔法を使って家に帰ろうかとも考えたが、せっかく久しぶりに地球に降りたのだから自分の足で歩いて帰るのも悪くない。自分の家は、ここから歩いて帰れる距離なので、とりあえず自分の家を目指そうと思った直後、後ろから懐かしい魔力を感じ取ると同時に、声を掛けられた。
「もしかして君、健斗君?」
「え?」
懐かしい声が聞こえた。俺は、反射的に後ろへと振り向いた。視界に入った人物を見て、俺はその人物の名前を告げた。
「明日人・・・・・・」
それは、懐かしき友であった。最後に顔を見たあの日から、長い年月経っているためか少し顔つきが変わっているが、所々に面影が残っていた。
気がつくと、明日人の瞳から涙が溢れ出ていた。
「健斗君?健斗君、なのか?」
「あぁ俺だ。俺だとも、明日人・・・・・・」
明日人は、自身のイケメンな顔が台無しになるほど、泣いていた。
俺は、久しぶりに再会した親友と熱い抱擁を交わした。
*
時代遅れな強盗に襲われたあの日、俺は気がつくと全く知らない場所へと転移させられていた。
わけが分からず困惑していると、俺をここへと呼び寄せた張本人と思われる皇女様が、俺がここにいるわけを説明してくれた。
彼女は泣きそうな声で謝罪をし、同時にこの星の事を俺に話した。
この星には魔族を束ねる魔王という存在がいるらしく、このままでは人類が殲滅されてしまうかもしれないらしい。
そこで、人間の国家の一つガラシオル帝国は、古より伝わる禁断の術である勇者召喚の儀式を行い、俺を呼び寄せたそうだ。
ふざけるな、と思った。
今までの生活を奪われた上、勇者となって魔王を討伐して来いと言われたのだ。
後から考えれば、あの時俺は生活を奪われた事を怒り狂い、お願いを拒否してもよかったと思う。何せ、つい先ほども人助けをしようとした結果、このような事件に巻き込まれているのだ。
だけど、俺は頷いてしまった。何故なのかはわからないが、気づいた時には身体が反応していた。何故こう判断したのか、強いて言うならば、自分のせいで多くの人が死ぬのは嫌だったからかも知れない。
それからの日々は、本当に大変だった。
皇女様本人を含めた4人の仲間とパーティーを組んだ俺は、現地時間で4年間ほど修行に勤しんだ。皇女様が勇者パーティーの一員になった事には驚いたが、俺たち4人は良いパーティーであった。
異世界転移には成功したものの、俺は神のような存在には会わなかったし、いわゆるチートスキルのような恩恵は貰えなかった。何故か魔力量だけは格段に上昇していたが、魔力量だけが上昇しても話にならないので、地獄のような訓練をする羽目になったという事だ。
ちなみに、言語の方は地球時代に学んだ、意思疎通魔法があったので何とかなった。
そこからさらに現地時間で4年の月日が経過した。旅は苦労の連続であったが、ついに最悪の元凶であった魔王の討伐を成し遂げる事ができた。
「やはり、行ってしまわれるのですか?」
「あぁ、この世界における俺の役割はもう終わった。魔王が倒されたこの世界に勇者は必要ない。それに、向こうには家族がいる。長い年月が経過してしまったが、お義母さんを1人にするわけにはいかないからな。」
言い訳をした。本当は、もう少し残りたいという気持ちもあったが、俺は帰る道を選んだ。俺を拾ってくれたお義母さんに、まだ何も恩返しができていなかったからだ。
皇女様の後ろでは、一緒に旅をした仲間達やお世話になった人々が涙を流していた。
「ではお元気で、勇者様。いえケント様。できる事ならば、私も其方に行きたかったですが、どうやらそれは叶わないようです。」
「皇女様、いえシーナ。支えていただきありがとうございました。それではさようなら。」
「はい、さようなら。」
別れはもちろん辛かった。
恋愛関係にはまだ発展していないものの、お互いに寸前の所まで来ていたのは事実だ。
だけど俺は、帰る道を選んだ。
このタイミングを逃したら、一生帰れなくなりそうだったからだ。
俺たちは、笑顔で別れた。
またいつか、何処かで再会できることを祈って・・・・・・
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どうでもいい話
今作では1話1話にタイトルを付けようと思います。(この決断が将来の私の首を絞めない事を切に願う。)
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