殺意の謎
土田は新菜出生の秘密を知り、宿に帰るとよく知る二人の警部に電話をかけた。
そして、その警部に速達である写真を送った。
この作戦が成功し、連絡が土田のもとに届けは全てのピースは揃った事になる。
土田は資料の山の中で横になった。
天井を見上げこれまでの事件を思い出した。
ボートの水没に遭遇した事に始まり、殺人を起こさせないようにする遺言状。命を狙われる清照、清武、清智。清照は2度の入れ替わりがあり、二人目に入れ替わった黒部幸造は進之助を殺害し、まもなく何者かに殺害されてしまった。氷佳琉は殺人未遂で捕まっている。そして、新菜の出生の秘密が明かされた。
土田は混乱する頭を空っぽにしたくて、目を閉じた。
翌日。土田は最後のひと仕事として、静ヶ原の町を回った。
噂が数時間で知れ渡るような密なコミュニティでは素晴らしい情報の所有者がたくさんいることをよく知っていたからだ。
証拠と情報。そして今回の事件の場合は先入観とそれを捨てること。これが一番大切なのだ。
その日の昼過ぎ。
昨日送った写真について決定的な証言が得られた。
土田は立華警部に電話をかけると、事件の関係者を阿座上家に集めるように指示を出した。
電話で立華は興奮した様子だった。
謎解きが楽しみなのだろう。土田はこういう謎解きが得意では無い。本来は探し、聞いた資料を積み上げて、その事実を順番に並べて結論に辿り着いたのだ。
土田はゆっくりと阿座上家に向けて歩き始めた。カバンには大量の資料が詰められている。
そして、犬神家の一族も忘れずにカバンにしまいこんだ。事件はついに集結するのだ。
儀兵衛の遺言状の奇怪さに思わず誰もが混乱し、踊らされていた。そんな歪な舞踏会も終了の鐘が打たれようとしていた。
阿座上家の大広間は爆発で吹き飛んだが、仮工事は終了しており、人が集まっていた。
あの遺言状読み上げの時のは人物と様相が異なっている。
まず、清照は能面などしていない。
信一は清照の少し後ろに座っている。
清武の席は空席であり。父の進之助はこの世にいない。
七清の猫は毒を舐めて死んでしまい。
清智は火事でおった傷が残っているため、顔に絆創膏を貼っている。
また、女中の曽野泉美も同席しており。
寅丸も呼んだはずだか今は姿が見えなかった。
新菜はあの時のようにまっすぐ澄んだ瞳をしている。
いよいよ話始めようとした時に、立華が萩屋氷佳琉を連れてきた。
清照は真っ先に反応し、立ち上がろうと下が、周りの静寂と氷佳琉に対する敵意の視線を強く感じて座り直した。
氷佳琉は土田に一瞬視線を向けたが、すぐに俯き、離れた場所に座らされた。
「では、様々な証言と情報から得られた結論とそれに至る過程について僕からお話させて貰いたいとおもいます。もし反論したければ遠慮なくお願いします」
土田は紙の資料を畳に広げると、そのうち一枚を掴み話を始めた。横にいる新館はその字の汚さに驚いた。
「まずはおさらいと言う事になりますが、阿座上進之助さんの殺人から説明させてもらいます。進之助さんを殺害したのは、黒部幸造で間違いないと思います。動機は名古屋工場の火災。黒部は妻と同僚数人が死亡し、火事の責任を押し付けられました。また、ある理由で火事の発生直後、進之助は消防に連絡をしませんでした。その事については後でお話します」
この話はだいだいの人が知っていた。
土田は資料を持ち替えた。
「では次に、6つの悪意ある殺人未遂についてお話します」
その時だった。ふすまが勢い良く開かれた。
現れたのは全身を包帯で巻かれた清武とその肩を支える寅丸の姿だった。
二人には友情にも似た何か熱い絆を感じるほど、それぞれがいい笑顔をしていた。
「待ってくれ土田さん。俺を襲った犯人を知りたい。参加させてくれ」
寅丸は清武を座布団にゆっくり座らせると、新菜の少し後ろに移動した。
「納得行かねぇんだよ。犯人が見抜かれて泣き喚く様を見るまではな。だから病院は無理やり退院してきた」
狂気じみた声でそう言うと。黄名子と七清は心配そうに清武をみつめた。
「母さん。七清。心配しないでくれ。話を聞いたら帰るさ」
「ならいいけど。むちゃなさって」
七清は心配の表情は変わらないが、言葉には優しさが滲んでいた。
「そうですね。清武くんも来たのでちょうどいい。味噌汁の毒、コルクの毒針、ピアノ線、爆弾、清武くんを襲った暴漢、そして氷佳琉さんがなぜ刃物を持ちあそこに現れたのか。これについては決定的名証拠があります。皆さん、右腕の服を肘までまくり上げて頂けますか」
清武以外の人々は腕まくりを始めた。正直すぎる立華と新館もなぜが腕まくりをしている。
しかし、一人だけ腕まくりをしない人物がいた。
「泉美さん。どうしましたか」
「いえ。ただ昔の火傷あとがあって恥ずかしくて見せられません」
「えっ。そうなんですかそれは仕方ないか」
土田が突然対応を変えた。
立華は焦った。確かに土田は刑事には向いていない。
「待て待て。土田くん、俺が確認する」
すると立華は泉美の目の前に移動した。
「失礼しますよ」と一声かけると右腕の袖をまくりあげた。すると新しい包帯が巻かれていた。「これはなんですか」と立華が聞く。
「ですから、火傷後を隠しているのでございます」
泉美はなんとなく焦っていた。
「俺の歯型があるんだろ。見せろよ!」
野次を飛ばしたのは清武だった。
すると、泉美は膝の力が抜けてその場に座りこんでしまった。
無抵抗になった泉美の包帯を立華がとる。するとそこにはクッキリと歯型が残っていた。
清武の言った通り、かなりの力で噛んだのだろう。傷は深く痛々しかった。
「曽野泉美。清武くんへの傷害事件について話を聞かせてもらおうか」
立華はドスの聞いた声で泉美に言った。
「私は、どうしても。守りたい…」
泉美は涙を浮かべると消えそうな声でそういった。
土田は間を埋めるために泉美の言葉を代弁することにした。
「泉美さんと氷佳琉さん、そして6つの悪意ある殺人とは関係がありませんが寅丸くんは南信の桜谷地区にある桜谷孤児院の出身です。現状を言うとかなり劣悪な環境で子ども達が生活してました。それに、氷佳琉さんの話では当時は暴力があったり、孤児達の中でも厳しい上下関係があったと言います。泉美さんは氷佳琉さんとは5つほど歳が上です。おそらく、孤児院時代の二人は先輩後輩の関係だったんでしょう。二人は、儀兵衛さんに女中として招かれて、生活をする中でも桜谷孤児院への強い思いがあったのだと思います」
そこまで言うと、氷佳琉は泉美のもとに駆け寄った。
「泉美さん。ごめんなさい。私が捕まったせいで泉美さんの夢が叶わなくなってしまって」
氷佳琉は懸命に謝った。つまり、氷佳琉は泉美の言いなりとなりある程度の事件に関わっていたのだ。
「いいの。あなたは悪くない。全て私が命令した事なの」
泉美はあの冷淡な性格からは考えられないほど憂いに満ちた声で氷佳琉に話しかけている。
「まず、味噌汁の毒ですが。泉美さんが入れたことを知っていて運んでいた氷佳琉さんはわざと味噌汁をこぼし、泉美さんの計画を失敗させました。
次に、コルクですが。町の本屋でコルクに毒針が刺さっている凶器が登場する『Xの悲劇』と言うミステリー小説を氷佳琉さんが購入している事はわかりました。泉美さんはその本を読み、凶器として利用したと思われます。
そして、ピアノ線についてですが、あの事件が起こった時女中二人は部屋にいたと証言していますが、違いました。ボートを漕いで高那神社に向かうあなたを漁師が見ていました。氷佳琉さんは、泉美さんを庇うために嘘のアリバイを言ったと思います。
爆弾について。あれは僕も吹っ飛ばされてかなり驚きました。どんなルートで特殊な爆弾を手に入れたかは後で説明するとして、この時は泉美さんにとって不測の自体が起きました。氷佳琉さんが清照くんに爆発時刻を教えてしまったんです。それと、あの日13時に取り調べがあると皆さんに伝えたのは女中の二人です。しかし、警察は取り調べの予定などありませんでした。
そして、清武さんが襲われました。この事件は歯型を見れば一目瞭然ですね。
最後の、氷佳琉さんの捕まった事件については、我々が罠をかけて9時に阿座上家を出発することを知っていたのは女中二人と寅丸くん、七清さんだけでした。あの事件だけは、氷佳琉さんに行かせたんでしょう。泉美さんの命令に氷佳琉さんは従い。警察に捕まってしまったというわけです。
つまり、とても歪な共犯関係があったわけです」
立華はここまで聞いて驚いた。
警察がまだ掴んでいない情報も含まれていたからだ。
ピアノ線事件のあと、犯人捜索に時間をかけたため周辺の聞き込みは疎かになっていたのだ。
「泉美さん。あなたが人を殺してまで大金を手に入れて叶えようとしていた夢はなんですか」
土田が鋭い目で質問した。
「それは。あの最悪な孤児院を自分達のものにするためです。作戦が成功したら私と氷佳琉はここを辞めて孤児院で働こうとしていました。今の体制を完全に変えて、建物も一新する計画でした。私たちのような酷い子ども時代を過ごして欲しくなかった。私たちの孤児院時代の友人には、裏社会の仕事に手を染めているもの、詐欺をして生計を立てている人もいます。それは全てとは言わずとも、孤児院での体験があったからです」
この話を聞いている寅丸の表情もかなり苦しいものになっていた。彼も酷い子ども時代を送ったのだろう。
「もし私が捕まっても、氷佳琉が計画を引き継ぐはずでした。でも、氷佳琉が味噌汁をこぼした時に、彼女に人殺しは出来ないと思いました。だから、清照様、清智様、新菜様が阿座上家をひっそり抜け出すと聞いた時は、彼女に覚悟を持たせるチャンスだと思って氷佳琉に行かせたんです。今思えば失敗でしたが」
誰もが泉美と氷佳琉にどんな感情を持っていいか分からなかった。
命を狙われた4人も言葉に出来ないと言う様子だった。
そんな中、清武が声をあげた。悪態を着くのではないかと皆が見守った。
「おい!そんな事なら相談してくれよ。俺たちは同じ家にいるんだぜ。氷佳琉なんて15歳のひよっこの時から知ってる。それなのに清照様、清武様って気を使いやがって」
そこまで言うと、清武は少し落ち着いたように深く呼吸をした。
「いや。違うな、俺たちが泉美と氷佳琉について知ろうとしなかったのがいけねぇ。悪かったよ」
命を狙われた4人の中でも意識不明の重体になった清武が先陣をきって謝ったのだ。
これには皆驚いた。
その言葉をを聞いた女中二人は手を握り合い大粒の涙を流した。
新館は、まだ事件の半分も解決していないと思った。
ボート、ブレーキ、マムシ、火事。について、それに肝心な黒部殺しについてこちらについて知りたかった。
すると、その願いが伝わったように土田は次の資料を持った。
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