第23話 私とハンター

ハロー!! 地球の皆さん!


黒宮 玲です!


ソフィーさんの家で一晩過ごした後私は一度桜木村に帰って渡された“ハンター”への地図について情報収集をすることにしました。


と言っても地図について詳しい人なんて知らないのでとりあえず酒場‘バル’に戻ってトキハさんの所に行きました。


‘バル’の入り口の扉を開けるとトキハさんの元気な声が聞こえてきました。


「いらっしゃー…。玲⁉ 帰ってきたの!?お帰りー!」


酒樽を運んでいる途中だったトキハさんは勢い良く私に飛びついてきました。


その姿はまるで子供の帰りを待ち望んでいた母親のようでした。


大柄な体格から私はトキハさんに押しつぶされそうになっていました。


「トキハさん。苦しい…。」


「ああ!ごめんなさいね。つい嬉しくて…。」


トキハさんは苦しそうにしている私に気が付いてパッと手を放した。


私も思わず一歩下がりました。


私は苦しさから息が完全に上がっています。


「たかだか一晩いなかっただけですよ。」


「それでも寂しかったのよ。」


(この人はどれだけ寂しがりやなんだろう…。)


それでも私はちょっぴり嬉しかったです。


「そういえばご飯はもう食べた?あれだったら今すぐ何か作るけど。」


私は静かに首を横に振りました。


「ううん。大丈夫。それよりもトキハさんに聞きたいことがあるのだけど今少し時間良い?」


トキハさんは少し首をかしげならも

「ええ。良いわよ。何?」

と言ってくれました。


「実は大切な地図を村長さんの知り合いから貰ったのですが私には書いてある場所が分からないので、誰か地図や地形に詳しい人を知りませんか?」


「ああそれなら良い人がいるよ。多分そろそろ来るからここで待っていない?」


「そうですね。それならそうさせてもらいます。」


そう言ったその時だった。


カランカラン。


突然入口の扉が開きました。


私は驚いて慌てて振り返るとそこにはヤートがいました。


「やっほー。暇になったから遊びに来たよー。」


ヤートは無邪気な笑顔を見せながらそう言いました。


トキハさんは苦笑いをしています。


「ヤート…。今はちょっとタイミングが悪いわね。」


それを見てヤートも苦笑いをし始めました。


「えーっと。また、来るよ。」


そう言ってヤートは店を出ようとしたその時でした。



カランカラン



入り口からレオさんが大きな木樽を持って入ってきました。


「おーい。いつものやつ持ってきたぞ。」


「いつもありがとね。」


そう言うとトキハさんは私が来た時に持っていた酒樽とレオさんの持っている木樽を交換しました。


レオさんはトキハさんから渡された酒樽を担いだ時に私に気が付いたみたいです。


「おお。玲帰っていたのか。」


「はい。今さっき帰ってきたばかりです。」


「そうか。」


何気ない会話が終わりかけた所でトキハさんはわざとらしく咳き込みました。


「そういえば玲。レオに何か聞きたい事があったのじゃないの?」


トキハさんの一言に私ははっとしました。


(地図に詳しい人ってレオさんの事だったんだ。)


私は急いで地図を取り出してレオさんに見せました。


「この地図に書いてある場所がどこか分かりますか?」


レオさんは酒樽を下ろし地図を受け取り中を見ると難しそうな顔をしました。


「これは…。」


トキハさんが不思議そうにレオさんの事を見ています。


「どう。あんたなら分かると思って聞いてみたのだけど。」


「ああ。分かるよ。古い地図の書き方で書かれているから分かりにくいけどちゃんと”ライク”の中に存在する場所だ。」


私は恐る恐るレオさんに尋ねました。


「それは…。どこなんですか?」


レオさんは私の方を向いてこう答えた。


「玲が初めてこの世界に来た時のの所だ。」


(!!)


「本当にそう書いてあるのですか?」


「ああ。ところでこの地図は何を示している地図なんだ?使っている文字から考えるに戦時中の”ライク”の時に作られた地図だぞ。」


「まぁ。村長の知り合いに底に行ってみてほしいと言われたので。」


私がそう言うとレオは頷きながら

「なるほど。なら行ってみればいいじゃないか?ヤート。馬車を貸してやれ。」

と言いました。


ヤートはレオさんに呼ばれて驚いていました。


どうやらレオさんに気付かれていないと思っていたらしく名前を呼ばれたときにヤートは飛び上がるように驚きました。


「えーっと。いつから気付いていたの?」


「いつからって初めから気付いていたぞ。」


「あらま~。まぁ仕方がないか。分かった。馬車を出すよ。玲。先に馬小屋に行ってるから準備が出来たらおいでその森まで送っていくよ。」


そうヤートは苦笑いをしながら言いました。


「分かったわ。じゃあまた馬小屋の所で会いましょ。」


私がそう言うとヤートは頷きながら店を出ていきました。


レオさんはヤートが出ていくのを確認してから私に地図を介してくれました。


「ヤートもあんな事を言っているけど、あれでもあいつなりにはお前の事を心配しているのだから悪く思わないでやってくれよ。」


レオさんの言葉で私は不意にヤートが出て行った店の入り口を見ました。


「ほんとあの子ほど名前と性格が似ている子そういないわよ。」


トキハさんは小さな声でそう言いました。


私はその一言にふと気になることが出てきたのでトキハさんに聞いてみました。


「そういえばヤートってどう意味なんですか?」


するとトキハさんはどこか遠くを見るような目でこう言いました。


「ヤートってのはこっちの世界の言葉で、『薬となる無邪気な毒草』って意味があるの。あの子にピッタリでしょ?誰かのために尽くそうとする所も、面倒事には巻き込まれたくないけど仲間を一番心配している所とか。まぁたまにそれが仇となってしまうけど…。」


「そっか。そんな意味があったのですね。」


私の視線は自然と馬小屋の方を向いていました。


すると頭の中でヤートが面倒くさそうにしながらも馬車の準備をしているのが目に浮かびました。


(確かにヤートって名前。あの子にピッタリだ。)


少しの間馬小屋の方向を見ているとトキハさんは1回自分の手を叩きました。


「さぁ!そろそろヤートも準備が出来始める頃だし行ってみたら?」


私はトキハさんの方を見て頷きました。


「そうですね。それじゃあもう行きます。」


そう言って入口に向かっているときにレオさんの横を通るとレオさんは小声で


「いってらっしゃい。」


っと言ってきました。


私は入口の所まで来た時にレオさんの声に気が付きました。


私は入口の目の前で立ち止まるとそのまま振り返り大きな声でこう言いました。


「行ってきます!」


そしてそのまま勢い良く振り返り入口を飛び出して馬小屋の方へと向かって行きました。






馬小屋ではヤートが馬車の準備を済ませて待っている所でした。


私は素早く馬車の荷台に乗るとヤートはそれに合わせて馬車を動かし始めました。




馬車を少し移動させると桜木村の出入り口となっているアーチ状の門に到着しました。


馬車が門を潜り抜けようとしたその時でした。


何気なく馬車の後ろを眺めていると馬車を追い掛けるような人影が見えてきました。


最初は誰が追い掛けてきているのか分からず、よく目を凝らして見てみるとその人影がトキハさんだということが分かり私は驚きました。


そしてすぐにヤートに馬車を止めてもらうように言いました。


「ヤート待って!馬車を止めて!」


ヤートはその言葉に驚き、少し乱暴な形で馬車を止めました。


馬車が完全に止まった時にトキハさんもちょうど馬車に追いつきました。


「はぁはぁ、良かった間に合った…。」


私はすぐにトキハさんの所へ行きました。


「大丈夫ですか!?というか何でかけてきたのですか!?」


トキハさんは息を切らしながらも答えました。


「玲に…はぁ、渡したいものがあったのを…はぁ、思い出してね…。はいこれ。」


そう言って渡された物は一本の紐でした。

色は赤がベースとなっていて所々にオレンジや黄色が入っている不思議な色合いです。


「トキハさんはこれは?」


トキハさんはようやく息が整ったようで背筋をぐっと伸ばしてから答えてくれました。


「それは髪留めの紐よ。玲。来た時よりも随分髪が伸びたじゃない?だからそれを結えるようにって作ったのよ。」


(そういえば、ここに来たときは髪は肩に掛かってなかったのに今はしっかりと肩まである…。)


私は早速、紐でポニーテールを作るように髪を結いました。


「どうでしょう…。似合ってますかね?」


トキハさんはまるで孫の晴れ舞台を見るかのような目でゆっくりと頷きました。


「うん。似合ってるよ。」


「そっか、良かった、作ってくれてありがとうございます。」


「良いのよ。別に。さぁ!渡したいものも渡したしそろそろ行きなさい。」


「はい!行ってきます!」


私はトキハさんにそう言うと馬車の先頭の方へ行きました。


「ヤート、ありがとう。行こ。」


するとヤートは

「分かった。」

とだけ言って再び馬車を動かし始めました。


私は馬車が動き始めたのを確認した後、再び馬車の後方へ行きました。


そこで見えたのは私たちを送り出すために元気よく手を振っているトキハさんの姿でした。


私も元気よく手を振り返しました。


私たちはお互いの姿が見えなくなるまでそれを続けました。


そして、私とヤートは馬車でゆっくりと目的地に向かって行きました。


目的地に近づくにつれて心音は徐々に大きくなっていきました。


(いよいよ。秋音が言っていたハンターと出会える。)


そう思うと気持ちが先走っていきそうでした。


(先走っても意味は無い。今はただ馬車に揺られて目的地に着くのを待つだけ。)



そんな事を考えていると突然眠気が襲ってきました。



(少し眠くなってきた…。)


私は馬車に横になれる場所を作るとヤートの所まで行きました。


「すこし仮眠をとるから着いたら起こしてもらえる?」


ヤートは静かに頷きました。


私はヤートが頷いたのを確認した後にさっき作った横になれる場所に寝ころび静かに眠りました。



そして私はゆっくりと深い眠りに就きました。



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