第21話 私と小説
サーカス団のショーを見終えた私は酒場”バル”でトキハさんと一緒に夕飯を食べた後そのまま2階の自分の部屋へと行った。
自分の部屋といってもトキハさんが私を看病していてくれた部屋をそのままお借りしただけの部屋だ。
ベットにはサーカス団の団長から貰った本が置いてある。
私はベットに座ると本を手に取った。
タイトルは’昔存在した種族について’と書いてある。
(もしかしたら鬼族の前の種族、精霊系サンタ族について何か書かれているかもしれない…)
私はそんな淡い期待を持ちながら本を読み始めた。
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やあ。私はこの本の作者だ。
今回は昔存在した種族について解説する。
私は前置きを書くのが嫌いだから早速解説していく。
最初に紹介するのは魔王族だ。
魔王族はその名の通り魔族の王に長年君臨してきた種族だ。
高い身体能力に莫大な魔力量、そしてそれを使いこなす知識と知能を持っていて個人戦、団体戦ともに素晴らしい戦果を残している。
例えば昔”
その時の国王は将棋だけで言えば右に出るものは居ないと言われるまでに強かったが、
結果は魔王族の勝利だった。
その時の戦術はわれら人族では考えもしなかったものだった。
魔王族は自分の王将を孤立させてわざと不利な盤面を作り国王の駒を全て攻撃に回させたことにより手薄になった所を王手をして投了だ。
私はこの一戦をもう一度見返してみると面白いことが分かった。
魔王族は歩兵以外の手駒を1回しか失っていなかったのだ。
しかも、その1回も角交換という一番の定石を行うために失ったのみなので実質失った駒は無いと言っても良い。
このことから魔王族はまさに魔王になるべくして生まれてきた才能の塊の種族だった。
しかし、年々他国が戦争に活発になるにつれて魔王族も少なくなっていきいつしか姿を見せなくなったから絶滅したと言われている。
次に紹介するのは…
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それから私は本を読み進めた。
本には色々な種族が出てきた。
そして私が知りたいことは一番最後に書かれてあった。
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さあ今回はこれで最後になる。
実を言うと私はこの種族について解説して良いのかとてつもなく迷った。
理由はもう皆が知っているのとこの種族の過去が壮大過ぎるからだ。
それでも私はこの種族について解説しようと思う。
読者に真実を伝えるために。
さて前置きはここまでにして解説していこうと思う。
最後に解説するのは鬼族、いや正式には精霊系サンタ族についてだ。
この種族については言わずもがな世界一優しい種族であり世界一凶暴な種族でもある。
まずサンタ族は12月25日にどこからともなく姿を現して寝静まった子供たちにクッキーなどのお菓子を配っていた種族で、その姿は赤い服を身に纏ったおじいさんのような姿らしい。
また、サンタ族がまだ起きている子供を見つけたら子供の前に現れ静かに眠れるように子守歌を聞かせてあげるらしい。
そして、子供たちにお菓子を配る時には決まってこう言っていた。
『メリークリスマス』と。
さてここまでの話を聞くとただの優しい種族のように見えるだろう。
しかし、事件は起きてしまったんだ。
今から約10年前の12月25日
その日もサンタ族はやってきた。
しかし、例年とは少し違っていた。
いつもなら赤い服を着ているのにその時は青い服を着ていた。
それだけじゃなかった。
彼らはいつもならすぐにお菓子を配り始めるにその日は空中で一列になり円を描くようにグルグルとずっと回っていた。
その光景は不気味さを覚えさせるような奇妙な光景だった。
そして次の瞬間
空が割れた。
円の上の空がまるでガラスにボールでもぶつけて割れたかのように割れたのだ。
そして、割れた空の中から次々と無数の何かが降ってきた。
私は最初隕石かと思った。
しかし、あれは全くの別物だ。
虫だったんだ。降ってきていたものは。
私たちはその異様さにただ見守ることしか出来なかった。
虫は次々と穴から降ってくる。
しばらくするとサンタ族は空の円を描くのを止めて散らばっていった。
私はハッとして周りを見た。
私は目の前の光景を見て震え上がった。
謎の虫のような生き物が人の中に入っていくのだ。
私は自分の体をくまなく見た。
どうやら自分の体はまだ虫が入っている様子は無かった。
私はすぐにその場を離れた。
必死になってなるべく自分が元居た位置から離れた。
途中で色々な人がいた。
虫の存在に気が付いて虫を取ろうとしている人や、まだサンタ族が円を描いていた場所を眺めている人もいた。
どこからともなく声がすることもあった。
「助けて。」「苦しい。」「殺して。」
そんな悲しい叫びばかり聞こえてきた。
私はただ必死に走った。
他人の命など気にすることなくただひたすらに逃げ、今この時を生きようとしたのだ。
それからの記憶はしばらくなかった。
気が付いた時には病院に運ばれていた。
医者が言うには私は病院の前で倒れていたようだ。
私は病院の中で一人こう思った。
(あれは悪夢だ。この世の理にすら触れてしまいそうな悪夢だ。)
あれから数日が経って私は無事に病院を退院して普通に生活できるようになった。
今ではこうして本も書けている。
その後、各強豪国(”
そしてその条約に基づきサンタ族は鬼族へと名前を変えられ一生全ての種族から迫害を受けることになった。
それから本当の悪夢が始まるまではそう日は経たなかった。
条約が結ばれてから数日が経った時の夜。
皆が寝静まった後、事件は起きた。
あの時の虫が動き始めたのだ。
その騒動に気づいたのはパトカーのサイレンが鳴っていたからだ。
最初は一台のパトカーが鳴っていただけだったが、一台二台と後からどんどん音が増えていった。
私は不信に思い外に出てみるとその光景に私はただ立ち尽くした。
そうあの虫がやってきた時と同じように立ち尽くすことしか出来なくなっていたのだ。
外は辺り一面火の海になっていたのだ。
所々に変な人型の虫が焼けて転がっている。
私は危機を感じてその場を離れた。
ひとまず火のない所に逃げないといけない。
しばらく歩き回って分かったことがある。
さっきの虫が火を吐いて町を燃やしている。
そして、もう逃げ場なんて無い。
どこに行っても火の海だ。
町の外へと逃げようとしても謎の結界で守られていて逃げれない。
どうあがいても逃げれない。
もう絶望しかない。
私はもうあきらめていた。
すると不思議な光景が目に入った。
さっきの結界を瓦礫が通り抜けていったのだ。
私は不思議に思いもう一度結界に触れてみた。
やはり、分厚い壁のようにそこにある。
そこで私は近くにある小石を結界に向けて投げてみた。
すると小石は結界を通り抜けたのだ。
私は微かな希望を見つけ急いで自分の家に帰った。
幸い家はまだ焼け切っていなかったので中に入ることが出来た。
私は家の中からこの本とペンを取り出しさっきの結界の所まで来た。
もう時間が無い。
火の手がすぐ近くまで来ている。
最後の賭けに出るとしよう。
今からこの本を結界に向けて投げる。
上手くいけば本は結界を通り抜けれるはずだ。
だから今ここに全てを書いておく、サンタ族…いや。鬼族が犯した大罪は確かに許してはいけない罪なのだろう。あんな悪夢のような光景はもう二度と見たくはないからね。
…まぁ。もうそんな光景すら見えないのだろうけど。
しかし、私はこの大罪を犯した鬼族と今までのサンタ族は同じ種族とは思えない。
服が赤か青かの違いだけではなくもっと根本的に違うような気がしている。
だけどそれが何か分からない。
だから、君達読者には一つ頼みたい事がある。
私の代わりにこの事件の真相に辿り着いてほしい。
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(ここで終わってる。)
「結局謎が深まるばかりだったな。」
あの空から降ってきた虫とはなんだったのだろうか。
謎が謎を呼ぶ。
だけど
これで何について調べていけば良いか分かった気がする。
「まずはあの虫について調べてみよう。」
この本の内容が本当なら虫について調べていけばそれを放った青い服の鬼族について何か分かると思う。
目標が本格的に定まってきた。
あとはそれに向かって頑張るだけ。
そんな事を考えている時にふと時計を見ると針は20時を指していた。
(ああ。もう寝ないと。)
私はそう思い胸に密かな目標を抱いて眠りについた。
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