第20話 私と笑わえないピエロ
ハロー!! 地球の皆さん!
黒宮 玲です!
今私はとあるサーカス団のサーカスを見に来ています。
先日”
サーカスのテントは赤く、まさにサーカス団という雰囲気です。
テントの周りにはサーカスで使うであろう道具や出店が所狭しと並んでます。
私はポップコーンとコーク(コーラのような飲み物)を買いテントの中へと入り自分の席に座りました。
テントの中は少し薄暗くなっていて、中央にステージがありその周りを囲うように観客席があります。
私の席はステージの目の前です。
しばらく待つと観客でほとんどの席が埋まった所でステージがライトで照らされます。
するとどこからともなく声がし始めました。
「レディースアンドジェントルメン!ボーイズアンドガール!本日はサーカス団’サイドサッド’団にようこそ!存分に楽しんでくれ!え?私が誰かって?いいだろう教えてやろう。私は…」
突然ステージが白い煙幕で覆われそれを振り払うようにして赤いジャケットを身に纏った小太りで笑っているピエロの仮面を付けたおじさんが現れた。
「私は!’サイドサッド’団団長 サイド・フットマンだ!」
その一言に観客のほぼ全員が立ち上がってフットマンに拍手を送りました。
「ありがとう!ありがとう!いやぁ皆様素敵な拍手をありがとうございます!それでは早速ショーの方に移って参りまショー!」
フットマンのその掛け声とともにショーは始まりました。
最初は一輪車に乗った人達がステージを縦横無尽に走りその間をフットマンが走り抜けていきました。
観客はそれを見てフットマンを心配する声が上がり始めました。
そこでフットマンは走り抜けている最中に急に立ち止まり自分のお尻を叩き一輪車集団を煽りました。
それを見た一輪車集団は顔を真っ赤にしながら一輪車ごとぴょんぴょんと飛び跳ねると観客たちは笑いに包まれました。
その後も火を吐く象やフットマンと剣士の人が戦ってみたりなどして観客たちはさらなる笑いに包まれ、いよいよ最後のショーとなった時の事でした。
ステージにはフットマンが中央に立っているだけの状態になった時に彼はこう言いました。
「さぁ楽しい時間というものはあっという間に過ぎていきますね。これが本日最後のショーです!」
そういうとステージ中央にいたフットマンが横にずれて彼がいた所の床が開き中から一人の男の子が啜り泣きながら出てきました。
男の子は髪が腰の所まで伸びていて白いワンピースに似たような服を着ているので女の子のようにも見えるが啜り泣いている声から男の子だと分かった。
「さぁ!本日最後のショーの主役は彼です!彼は先日愛すべき人を亡くした影響で常に泣くようになってしまいそのせいで醜い姿になってしまいました。そこで皆様にお願いがございます!皆様!彼を励ましてください!我らは人を笑わせることしか出来ません。人を救うことなどもってのほかです!なので皆様の力で彼を励ましてあげてください!」
フットマンがそう言い終えると辺りはたちまち静まり返ってしまった。
(誰も声を掛けない…。)
所々で声が聞こえる。
「誰か。助けてあげて。」
「とりあえず誰か言い始めてからでいっか。」
別の所から小声の会話が聞こえる。
「ちょ。お前言ってみろよ。」
「え。やだよ。めんどくさいし、誰か行ってくれるでしょ。」
(皆。声を掛けることに億劫になってる。なんだか今旅人がなぜ必要なのかを見ている気がする…。)
いつしかテントの中には男の子の泣き声のみが聞こえるようになった。
その声はこの先の未来に光が無いかのような暗い泣き声からもう全てがどうでもよくなったかのような泣き声へと変わっていた。
私は居ても立っても居られないなってしまい何も考えずにこう言った。
「前を向いて!生きて!!」
私のその一言は波一つない水面に一滴の滴を落とした時の波紋の広がりのように周りに伝わっていき、一人、また一人彼を励ます声が増えていった。
彼の真横にいたフットマンは驚いていた。
多分こんな結果になる予定では無かったのだろう。
いつのまにか励ましの声は観客全員の声へと変わった。
皆の声の中男の子は前を向いた。
「皆。ありがとう。」
男の子のその一言で観客は大盛り上がりになった。
その後、ショーは無事終わりを迎えた。
観客が次々とテントを出ていくが私はしばらく自分の席に座っていた。
テントの中は最後の観客が出ていく頃には寂しさだけが残っているように感じた。
「お隣よろしいですかな?」
振り返るとフットマンが立っていた。
私ははっとしてすぐに立ち上がった。
「すいませんこんな長居をしてしまい、すぐに退場しますね。」
私はそう言ってその場を去ろうとすると、フットマンは
「待った。今日は少し話をしたい気分なんでね。相手になってもらえませんか?」
と言ってきた。
私は静かに頷いてから元居た席に座った。
「ありがとう。」
フットマンはそう言いながら私の左に席を一つ開けて座った。
仮面は付けたままだ。
最初に話し始めたのはフットマンだった。
「今日のショーはどうでしたかな?」
「とても面白くて楽しめました。」
「それは良かった。私としては今までで一番ハラハラしたショーでしたよ。」
「…何でですか?」
フットマンは少し間を開けてから話した。
「”
そう言われた瞬間私はフットマンを睨んだ。
「いや。面白味に欠けるというよりはこちらが難儀をする客なんですよ。」
「どういうことですか。」
「そうだな。あの人達は表情では笑っているのに心の奥底では全く笑っていないような気がするんですよ。それに行動するのが億劫になっているように感じるんですね。ほら、一番最後のショーの時だって、あなたが声を上げなければあのまま沈黙続きだったんですよ。」
(心の奥で笑っていない。)
確かにそう思う時はある。
それに行動することが億劫になっていると感じることもある。
フットマンは話を続けた。
「だから、我々としては正解が見えないままショーを行っているようなものなんですよ。そうなれば自然と面白味も無くなってしまうものなんですよ。」
「…確かにそうなれば面白いと感じにくいですね。睨んでしまってすいません。」
「いえいえ!睨んでもらっても構いませんよ!なんせ私は観客の’
フットマンは豪快に笑いながらそう言った。
その豪快さに私も思わず笑ってしまった。
その後も今日のショーについて色々と聞かれた。
どれが一番面白かったのかとかどれが見ていてハラハラしたのかなどを聞かれた。
「なるほど。そんな所に興味を持ってくれていたりもするのか…。いやぁ。色々と聞かせてくれてありがとう。おかげで次のショーはもっと面白いものになりそうだ。」
「こちらこそ楽しい時間だったわ。ありがとう。」
「お礼と言ってはなんだがプレゼントしよう。歴史は好きかい?」
「ええ。興味はあります。」
「それならちょうど良かった。少し待っていてくれ何すぐに戻る。」
そう言ってフットマンはテントを出て行った。
5分くらい経った頃だろうか。
フットマンは分厚い本を持ってきた。
「ボロボロで申し訳ないが受け取ってほしい。今日のお礼だ。」
私は本を受け取った。
本は赤色の表表紙で、タイトルは白い文字で’昔存在した種族について’と書いてある。
「ありがとうございます。こんなにボロボロだと歴史的価値のあるような物にも見えるのですが譲っても良かったんですか?」
「私は歴史の本を読んでいると眠くなってしまうのでね。それだったらちゃんと読んでくれる人に渡った方がこの本も喜ぶと思うんですよ。」
「なるほど。ではありがたく読ませてもらいますね。」
「そいつをよろしくおねがいします。では、私はこれで。」
フットマンはそう言ってこの場を去ろうとしたが
「待ってください。」
私は引き留めた。
「…。なんでしょうか?」
仮面を付けているから表情が分からない。
だけど、このまま行かせたら不味いことになりそうだと思った。
「フットマンさんはどうしていつも仮面を付けているのですか?ショーは終わったから外しても良いのに付けたままだわ。それはどうしてなの?」
私がそう問うとフットマンは頭をかいた。
「やっぱり気になります?」
「はい。」
「そうだなぁ。まあ名誉の負傷を隠しているとでも言っておきましょうかね。」
「名誉?それなら隠す必要ないのでは?」
「確かに我々にとっては名誉ですが、お相手様からすれば不名誉ですから隠しているのですよ。」
「けど、それじゃあ観客に表情が伝わらないわ。」
「伝わらなくて良いのですよ。」
「なんで?」
「私は’
私はそう言われた瞬間、ショーの一輪車集団を思い出した。
(確かに観客がハラハラしていた時にフットマンはおちゃらけて観客を和ませた。)
「確かに、必要とされているのは演技の表情かもしれませんね。」
「ですよね。だから…」
「でも…。だからこそ、そこに本当の表情が入ったらどうなるのでしょうか?」
「と言うと?」
「今日のショーであなたは一輪車の人たちに追い掛け回されていましたね。」
「ええ。走るのは得意ではないので疲れましたけど。」
「ではそこに本当に疲れている表情があったらどうなるでしょうか?観客は応援すると私は思います。」
「応援?必要かそんなもの。」
「そんなもの?では最後のショーは何だったのですか?」
「最後のショー…。」
「フットマンさんは言いましたよね?『彼を励ましてください。』と。」
「ええ。言いましたね。」
「それこそ応援なのではないのでしょうか?」
「確かに応援ですね。」
「では想像してみてください。その応援が先程の一輪車の話に混ざったらショーはどうなりますか?」
「…。会場が熱気で溢れる。」
「ですよね!それであなたが見事一輪車から逃げ切ったら…。それこそ会場は大盛り上がりで素晴らしいショーになるとは思いませんか?」
「…。確かに。」
「そうしようとすると仮面は要らないとは思いませんか?」
「ふ~む。」
フットマンは腕を組んで考え込んだ。
だけどその返事はすぐに帰ってきた。
「確かにその案も面白くてぜひ取り入れたいものだ。」
「じゃあ!」
「しかし、それはあくまで顔が整っているのが条件に入らないか?ブサイクがどれだけ努力しようが結局それは嘲笑われるだけになる。それならばこの仮面を付け続けた方がマシだ。」
私は返す言葉がなくなった。
どうやって返そうが返事が決まっているように感じたからだ。
私が悩んでいるとフットマンは私の肩に手を乗せた。
「しかし、この世界にまだ私の心配をしてくれる人が残っていたとはな。この世もまだまだ捨てたものではないな。」
「それってどういうことですか?」
「最近この仕事を楽しいと思えなくなってきているんだよ。誰かの顔色を窺いながら誰かを楽しませようとすることに。だからこのショーが終わったら私は引退する予定だった。だけど、君のような人に出会って私の心配をしてくれる人に出会って思ったんだ。こういう人を笑顔に出来るように頑張ろうって。だから今日は話せて良かったよ。ありがとう。」
フットマンの表情は分からないが会った時よりも明るくなっているのは感じられた。
「こちらこそ。楽しい一時をありがとうございました。」
「さあもう時間も遅い。早くお帰り。」
「そうですね。分かりました。
そういうと私は席を立ちあがってテントを出ようとした。
するとフットマンが後ろから声を掛けてきた。
「そういえば君の名前はなんていうんだい?」
私は振り返って答えた。
「私は黒宮 玲といいます。旅人をしています。」
「そうか玲というか。分かった覚えておこう。」
「では、また逢う日まで、」
「「さようなら。」」
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