第16話 私と訓練
あれから何日過ぎたのだろう。
秋音の戦闘訓練のスケジュールはかなりハードなもので、体感2日ほど休憩無しで戦い続けてる気分です。
だけどここが夢の世界なだけあってこれだけ戦い続けても疲れることがありませんでした。
それどころか戦えば戦うほどに秋音の動きが分かるようになっていきました。
秋音の訓練では思いもよらないものを武器として使うことが多々ありました。
例えば空き瓶の底を割ったものやどこにでもありそうな木の枝、一番ひどい時には石ころ一つだけの時もあった。
これならまだ素手の方がマシでした。
そういえばこれまでこれだけ変な武器を渡されたことはありましたが未だに訓練でコールを使ったことがありません。
(なんでコールを使わないのだろう…)
そんな事を思いながらも訓練をしています。
ある時突然秋音は訓練を止めてこう言いました。
「基本的な武器の使い方はだいたい出来るようになりましたね。では次のステップに移ります。コールを渡すのでそれで状況に応じて武器を作って戦ってみてください。」
秋音がそう言うと地面からコールが出てきました。
そして私の準備を待たずして秋音は突っ込んできて私の顔面にパンチしてこようとしました。
「!!?」
ぎりぎりの所でガードが間に合いそのまま勢いに任せて後ろに下がり間を作ることが出来ました。
「いきなり何するのですか!?」
秋音は眼の光を消してこう答えた。
「敵が合図して襲ったことはありますか?そういうことです。」
そう言うと秋音は突然身長以上ある斧を出してそのまま縦振りしてきた。
「危なっ。」
ギリギリの所で避けれた。
しかし避けた瞬間斧は黒い液状の球体となり
次の瞬間
黒い球体から棘が飛び出してきた。
「やばっ。」
棘は私の右頬を掠った。
掠った部分から血が出てきた。
まずいこのままだと本当に殺される。
こっちから攻めないと
私は秋音の方に走りながら想像した。
今の私が一番扱える武器となるものを
すると何故だろうか不思議な物が思い浮かんだ。
今のこの状態とは無関係のように思えるのにソレはふと頭の中に出てきた。
(もう時間が無い。今はこれに懸けるしかない。)
「”#
私がそう叫ぶとコールは蒼く光りだして大小合わせて88枚の白黒の板に姿を変えた。
他の人が見てもそれはただ白黒の板が交互に置いてあるだけに見えるかもしれない。
だけど私にはそれが何なのか分かる。
それはピアノの鍵盤だ。
しかもただの鍵盤じゃないことも分かる。
昔まだ異世界に来てない時、お母さんが普通だった時によく使っていたピアノの鍵盤だ。
一瞬秋音の方を見ると秋音は拳銃のようなものを私に向けていて発砲する寸前だった。
私は鍵盤の中で一番低い音のドを一回だけ弾いた。
すると突然秋音が後ろに大きく吹き飛ばされた。
どうやら音が反響して衝撃波になったみたいだ。
秋音はよろけながらもすぐに次の攻撃の準備をした。
(今回の攻撃の動き…。さっきまでと全く違う。本当に本気なんだとひしひしと伝わってくる。)
秋音は短剣を二つ両手で構えた。
そして次の瞬間。
秋音は私のすぐ目の前にいた。
鍵盤を弾こうと腕を伸ばそうとした時に気が付きました。
秋音は私の腕を鍵盤の届かない範囲にまで蹴っていました。
もう駄目だと思い秋音の顔を見たら、秋音は笑っていました。
その笑い方は勝ちを確信した笑い方ではなく、次にどんな方法で攻撃を防いでくれるのか無邪気に楽しそうにしている。
そんなような笑い方でした。
また、その表情はまるで完全に諦めかけていた私を鼓舞するかのような表情にも見えました。
(ここで終わったらいけない。まだ諦めれない!)
そう思い私は必死に体を後ろにそらせてギリギリの所で秋音の短剣を避けました。
秋音は短剣を避けられるとそのままの勢いで体を一回転させて今度は足を振り下ろそうとしてきました。
私はその一瞬を見逃しませんでした。
短剣を避けるときになるべく腕を鍵盤付近にまで寄せていたので私は力一杯鍵盤の中で一番高いシを弾きました。
すると突然後ろから秋音の方へと冷気が流れ次の瞬間私と秋音の間に大きな氷の板が現れました。
秋音はそのまま足を振り下ろして氷を割ろうとしましたが氷は割れませんでした。
秋音は氷が割れないことに驚いたのか一度体勢を整えるために離れました。
(その位置。その場所。全部が丁度良い所!これは…)
「もらったぁ!!」
私がそう叫んだ瞬間
ピアノの鍵盤は分解されて88枚のただの浮遊する板となった。
しかしこれはただの板じゃない。
私は秋音に向かって板を1枚飛ばした。
秋音は不意を突かれ板がクリーンヒットし、そのまま後ろに倒れた。
その瞬間突然夢の世界は真っ白で何もない空間へと移り変わった。
そこには先ほどまで満身創痍だった秋音が傷一つない姿で立っている。
「お疲れさまでした。無事訓練が終了しました。」
「え?どういう事?」
(訓練が終わった?つまり私は秋音から…)
秋音は悔しそうにしながらこう言いました。
「だから、負けたんですよ。本気の私が玲に負けたんです!」
「勝った?本当に?………やったぁぁ!!!」
私はその場で両手を上にあげた。
(やった!ようやく勝った!秋音に、本気の秋音に勝った!)
「本当玲の発想力には驚かされました。最後に使ったアレって…」
「そう!レオさんがコールを使っていた時の技!」
「よく即興で出来ましたね。」
「実はあの使い方はもうすでに教わっていたんだよ。レオさん本人から。」
「なるほどだからあそこまで綺麗に出来たのですね。」
「へへへ。凄いでしょ。」
私は自慢げに秋音にピースをしてそう言った。
秋音は本当に驚いてるような表情だった。
「さて、玲。あなたはこのまま夢の世界から解放されますが忘れないでください。ここでの出来事。そして私がいつもそばにいるってことを。」
「うん。分かった。絶対忘れない。」
「そうですか。では時間も迫っているのですぐにこの夢に世界を終わらせます。」
「秋音。待って最後に一つ言わせて。」
「?。何ですか?」
「私を強くしてくれてありがとう。」
秋音は笑顔でこう返してくれました。
「こちらこそ楽しい時間をどうもありがとうございました。では、”#
秋音がそう言った瞬間目の前が真っ白になった。
なんだか秋音にはもう会えないような気がするけどそれでも今はこの言葉を最後に言うよ。秋音。
「またどこかで会おうね。」
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