第14話 私と戦争

ハロー!! 地球の皆さん!


黒宮 玲です!



連続自殺事件の現場で出会った自殺した人の子供が事務所で働くことになって毎日が賑やかになると思った矢先…


茜さんは小難しそうな顔をして男の子に質問をしていました。



「もう一度聞くよ。あなた名前は?」


「だからダガラ・モーティンだって!」


「だからだから・モーティン?」


「だからじゃない!ダガラ!」


「だからだがら・モーティン?」


「だからはいらない!」


「モーティンだけが名前?違うでしょ?」


「だーかーら!」


男の子はイラついたような顔をしながら地団駄を踏んでいます。


どうやらこのやり取りが繰り返されているようです。



うーむ。


かく言う私も実はさっきから名前を聞いても何か分からないのですよね…


う~む。

どうしようかな…



そんやって頭を抱えていると



カラン。



事務所の扉からトカゲが入ってきました。


「お前らー。仲良くやってるか〜?」


どうやら私達の様子を見に来たみたいです。



そうだ!

トカゲに何とかしてもらおう!



そう思いトカゲに今の出来事をそのまま話すとトカゲは目をきょとんとさせながら言いました。


「紙に書いてもらえば良いだけじゃないのか?」


「「あ…。」」


その一言に私と茜さんは思わずお互いとも見つめ合ってしまいました。


するとトカゲは呆れた顔をしながら

「お前ら…。大丈夫か?」

と言いました。


「「アハハ…。」」


私たちは苦笑いしか出来なくなっていました。



そして茜さんは話を切り替えるかのように紙と鉛筆を持ってきて男の子に自分の名前を書かせました。



男の子の名前はダガラ・モーティンと言うそうです。



茜さんは事件の資料作成のためにモーティン君から事件の内容を聞くと茜さんは愕然としました。


「俄には信じられない話ね。女性が男性に変わるなんて今の”現代ナウ”の科学や魔法では不可能に近いわ。それに死体を検査した結果は女性だったから何らかの幻系の魔法だと思うけど、幻系の魔法だったらそんな長期間も効果が発揮されないはず。一応聞くけど男性になってから自殺するまでずっと男性だったの?」


「うん。死ぬまで男だった。」


「そう…。分かったわ。じゃあとりあえずその話は置いといて、を着た女性について詳しく話してもらえる?」


茜さんがそう言うとモーティン君は暗い顔をしました。


「あいつは本当に突然現れたんだ。宗教勧誘みたいに突然家のインターホンが鳴って母ちゃんが出たらいきなり『あなた今幸せですか?』って聞いてきてそれから母ちゃんはあいつの話を真面目に聞いていたと思ったらいきなりあいつは帰って行ってその次の日に母ちゃんが男になったんだ。」


「そのローブってこんな見た目だった?」


そう言って茜さんはモーティン君に一枚の絵を見せました。


その絵は頭の上に二つの角のようなものがあってその根元には白い円のようなものがある黒いローブでした。


男の子首をかしげて言いました。


「ちょっと違う。ペン貸して書き足したい。」


モーティン君は茜さんから白いペンを受け取るとローブの右胸の所に”B2nd”と書きました。



モーティン君が書いたものを見てトカゲと茜さんは重く緊迫した空気を纏いました。


茜さんは詮索するように慎重に言葉を選びながら言いました。


「本当にその場所にこれが書かれてたのね?」


モーティン君はコクリと頷きました。




そしてトカゲが話そうとしたその時でした。




ゴーン


ゴーン



ゴーン 




お寺の鐘のような鈍く重い音が鳴り響き渡りました。



トカゲと茜さんは何かに怯えているかのような表情になりました。



「ここはまずい。早く転送装置のある部屋に行って!早く!」


茜さんはそう言うとモーティン君の手を掴んで転送装置のある部屋へと急いで向かっていきました。


私も訳が分からなかったので茜さんに従って部屋に行きました。



私は部屋の中の光景にますます混乱しました。


部屋の中にあった転送装置は横にずれて転送装置の下から隠し通路が出ていました。


茜さんは通路の中へと入っていったので私も後に続きました。



通路は狭くコンクリートで覆われた道で、明かりが全くない状態でとても歩きにくいです。


私たちは一番先頭に茜さんとモーティン君、その次に私、そして一番後ろにはトカゲという順番で列を作り通路を歩き続けました。


私は何が起きたか分からなったので茜さんに聞いてみると茜さんは暗い緊張した雰囲気になったまま

「いいから付いてきて。あと静かにして。」

っと言いました。



何があったんだろう…


あの鐘の音は一体何を知らせるものだったのだろう…



その答えはすぐに分かりました。


外からスピーカーからのような声が聞こえてきました。


「…襲…報…ただちに…お願いします。繰り……空襲…………」



よく聞こえない。



もっとちゃんと聞きたい。




そう思ったその時でした。










ドーン








鈍い爆発音と共に物凄い勢いで振動がやってきて私は尻もちをついてしましたした。









ドーン








まただ。


今度は茜さんがその場にしゃがみ込みました。


そのせいでモーティン君もその場にしゃがみました。








ドコーン









もう一度今度は他のと比べ物にならないくらい大きな振動がきました。


トカゲも振動に驚いてその場にしゃがみました。


「今回はいくらなんでも早すぎるぞ!」


トカゲは大声でそう言いました。


茜さんはそんなトカゲの声など気にせず素早く立ち上がりまた歩き始めました。


トカゲもそれに続いてゆっくりと起き上がりまた歩き始めました。



もう何が何なのか本当に分からなくなってきました。




でも


ただ一つだけ分かることがある。




歩かないと死ぬ




直感でそう感じました。


だから私もすぐに起き上がり歩き始めました。





暫くすると一つの広い部屋に着きました。


部屋と言ってもコンクリートに覆われて天井にはランプが一つしかなく薄暗い所です。


部屋の中には木のテーブルが一つありその上にラジオが置いてありました。


また部屋の隅に棚があり、中には水の入ったペットボトルや何かの缶詰が入っていました。




トカゲや茜さんはここに付いた途端

肩の荷が下りたかのようにぐったりとしました。



どうやらここが目的地のようです。



「茜さん。結局ここは何なんですか?」


「防空壕よ。さっき鐘の音がしたでしょあれが警告音。ここに来てる途中の振動。あれは地上での爆撃の振動よ。だけどあそこまでこっちに響いてくるなんて初めてだわ。」



防空壕…



歴史の授業でしか聞いたことのない場所。

それが今ここにあるんだ。


そっか。

それもそうか。


今”現代ナウ”は戦争中だから防空壕の一つくらいあってもおかしくはない。


そういえば"箱舟はこぶね"も地下にあるから防空壕と合体している国のようなものか。



じゃあ実は意外と身近にあったんだ…



トカゲはぐったりとした状態から元に戻しました。


大分楽になったのか顔のこわばりがとれていました。


「そろそろ話したほうが良いのじゃないか?今のこの国の状態を。」


トカゲがそう言うと茜さんは私とモーディン君を見てから少し悩みました。


「分かったわ。話しましょう。今この国がどれだけ危険な状態なのかを。」


それから茜さんは”現代ナウ”の戦争について話し始めました。



「事の始まりは3年前。その頃の”現代ナウ”は平和そのものだった。国同士の争いもなければ、いがみ合いもない。本当に平和だった。」


「じゃあなんで戦争なんて起きたのですか?」


「”現代ナウ”の国王が変わってからよ。すべてが変わったのは…」


「国王が変わった?」


「そう。前国王…は本当に良い人だった。争い事が嫌いで常に国民の事を考えるような人だったわ。それなのに…」


「おいちょっと待て。前国王の名前って黒沢なのか!」


トカゲは話を遮るように言いました。


それに茜さんは少し驚いたような顔をした。


「ええ。そうよ。まさか今まで知らなかったの?」


「ああ。知らなかった。…ということはあの下水道の場所の王様の名前と同じだがなにか関係でもあるのだろうか?」


「それは…今のところ何も分からないわ。」


「そうか。」


トカゲは残念そうにしています。


そんなトカゲを横目に茜さんは話を戻すかのように咳き込みました。


「この国が戦争を始めた理由。それは”ライク”が発見されたからよ。」


「え。それってどういうことですか?”ライク”が発見されてなんで戦争になるのですか?」



分からない。

なんで。

どうして?



茜さんは戸惑いながらも続きを話そうとしたその時でした。



「はい。お喋りはそこまで。全員両手を両手を上げなさい!」



突然出入り口から声がしたので振り返るとそこにはが立っていました。


「あなたはだれなの?」


そう茜さんが聞くとローブを着た人はただ一言こう言いました。


「Who am I?(私は誰?)」


その一言に私たちは背筋が凍り動けなくなりました。




そして



次の瞬間





バンッ。




鈍い発砲音と共に私の足元に丸い何かが転がってきました。



 それはモーティン君の生首でした。



首から上がない胴体が倒れると同時に私は強烈な吐き気と絶望感が襲ってきました。


その瞬間から時間がゆっくりと流れていくのを感じました。



全部がスローモーションになったかのように感じました。




トカゲが何か叫んでる。





「逃げろ!」







茜さんがこっちに来る。







ローブを着た人がいた所を見るともうそこには居なかった。




トカゲの近くに短刀を持ってしゃがんでる。






あ。






トカゲの首が飛んでいった。






ローブを着た人の視線はトカゲではなく私を向いている。



一瞬だけど目が合った。





女性のような目つきで何故か分からないけど懐かしさを感じた。







茜さんが私の目の前まで来た。






茜さんは私のみぞおちを抑えながら何か唱えている。






ローブを着た人は短刀が届く範囲にまで迫ってきている。






それなのに茜さんは何かを唱え続けた。






何を言ってるんだろうか?




上手く聞き取れない。






それよりも早く逃げないと殺されちゃうのに。






グサッ。








あ。




茜さんの心臓に短刀が刺さった。





短刀が抜かれると茜さんは私の方に倒れこんできた。





私にもたれ掛かると同時に私の体に魔法陣が形成された。




茜さんはこれを唱えていたんだ。





ローブを着た人がこっちに来る。





私は茜さんの方を見た。




そしてハッとした。



本当に時間が止まったと思った。




茜さんの姿が変わっていた。



お姉ちゃんの姿になっていた。



「お姉ちゃんなの?」




茜さんは微笑んだ。




「えへへ。ばれちゃったか。そうだよ。ずっと騙していてごめんね。姿を隠さなきゃいけなかったのよ。」


「なんで?なんで隠してたの?」






「質問に答えてあげたいけど時間がないわ。いい?よく聞いて。お願いがあるの。」



「なに?」





「変形型オーブ001番"ハンター"を探して。」



「え。」




「それじゃあよろしくね?」





お姉ちゃんがそう言った瞬間



辺りが光で覆われ始めた。



”#転送てんそう”の時の光だ。




「待って!待ってよお姉ちゃん!嫌だ。嫌だよ!また離れ離れになるなんて嫌だ!もっと一緒にいようよ!お姉ちゃん!」




叫びも虚しく”#転送てんそう”は発動し辺りが光で真っ白になってしまいました。






お姉ちゃんの最後、笑顔でにこっと笑っていました。



そこにあったのはいつも明るくて元気だったお姉ちゃんのあの時の表情がそのまんま映し出されたかのような懐かしい気持ちにさせてくれるそんな表情でした。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る