第13話 私と残された子
目が覚めると見慣れない天井でした。
そうだここ”ライク”じゃないのだった。
ここは”
部屋の外から声がする。
私は扉に耳を当てて聞き取ろうとしました。
知らない人だ。
「どうしてなってんだ!犯人を捕まえるのじゃなかったのか!また起きてしまったぞ!」
「うるせぇ!捕まえようにもそっちが情報を渡してくれないから難航してんだよ!」
トカゲが怒鳴ってる。
微かに茜さんの声もする。
「今仲間内で争っても意味がありません。とりあえず一旦解散してお互い…」
聞こえにくくなった。
聞こえるように扉を少し開けてみました。
その時でした。
扉が大きく開いて私は体勢を崩して前に倒れてしました。
「やっぱり起きてたのね。」
見上げるとそこには茜さんが仁王立ちをしていました。
「そんなとこで何してるのかなぁ玲ちゃん?」
「えーっと。ごめんなさい!盗み聞きしてました!」
「はぁ。いつからなの?」
「怒鳴り声がし始めた所からです。」
「そう…。ねぇラン。このことは玲にも行った方が良いのじゃない?」
茜さんはそう言いながら玄関付近にいるトカゲの方を向いた。
トカゲは少し悩んだ後にため息を吐いた。
「そうだな。いいか玲。今から話すことは絶対に口外するなよ。」
「はい。」
『事件はまだ終わっていなかった。』
私はその一言に戸惑いました。
「ドッペルゲンガーが犯人じゃなかったのですか?」
「どうやらそうみたいだ。」
じゃあ、あのドッペルゲンガーは何者だったの?
分からない。
トカゲは話を続けた。
「俺も今回の件が本当に事件と関係があるのかまだ分からない。だから今から現地に行くのだがお前も行くか?」
「はい!行かせてください!」
「分かった。すぐに準備しろ。」
「はい!」
私はすぐに準備しました。
服を寝巻から着替え、トキハさんが準備してくれた肩掛けカバンにコールを入れて準備万端です!
自殺場所には事務所から徒歩15分で到着しました。
現場はロンドンのマンションみたいな赤い石や白い石のレンガで出来ていて外見ではここで自殺が起きたなんて信じられないくらいです。
人も集まっていなくまさに日常で起きた小さな出来事のように思えます。
「中に入るぞ。」
そう言ってトカゲは中に入っていきました。
私も後に続きました。
部屋の中はマンションというよりかはホテルと言った方が良いかのように綺麗で白い壁に大きなベット、その反対側にはテレビが置いてありました。
またベットの横には小さな冷蔵庫があり、さらにその隣には3m程の大きな穴の開いた窓がありました。
そしてベットとテレビの間に首が吊られた状態で人間の死体があります。
死体は20代前半くらいの女性のように見え、服装は白いワンピースに赤い血のような色で『Who am I ? 』(私は誰?)と書かれていました。
私は死体を見た時に不謹慎ながらにこう思いました。
(綺麗な死体…)
そう思ったのは私だけではなくタンさんもそう思ったみたいで、タンさんはまるで一目惚れしてしまったかのような目をしていました。
そんなことをしていると後ろから突然声を掛けられました。
「お前ら!そんなところで何してる!母ちゃんから離れろ!」
その声は小学生くらいの男の子みたいな声で私たちは焦って振り向くと突然…
タンさんの顔面に男の子の強烈なパンチがクリーンヒットしました。
その後男の子はタンさんの顔面を踏みつけジャンプし私たちと死体の間に立ちました。
タンさんは踏みつけられた跡なのか怒りなのか分からないくらいに顔を真っ赤にして言いました。
「何してんだこのクソガキ!泣かしたろか!」
「やれるもんならやってみろよ!そしてそのまま殺してみろよ!お前らなら出来だろ!この人殺しが!このクソッタレどもが!!」
私たちは男の子の放った言葉に驚きを隠しきれませんでした。
この子…
死にたがってる…
そういえばさっき死体の事を母ちゃんと呼んでいた…
つまり…
「この人の子供…」
トカゲは申し訳なさそうにしている。
「さっきはいきなり怒鳴って悪かったな。その人の子供なのか?」
男の子はむすっとしながらこう返しました。
「あんたには関係ないだろ。それよりほら早く殺してみろよ。」
「ねぇ。どうしてそんなに死にたいの?」
「だからあんたには関係ないだろ!」
「お母さんは優しい人だった?」
「あんたには関係ないだろ。」
「そういえば君名前は?」
「あんたには関係ないだろ。」
だめだ。
何を言っても関係ないの一点張りでこっちの話を聞いてくれません。
私が困っているとタンさんは思いもよらない事を言いました。
「分かった。殺してやる。」
男の子は顔を暗くしていました。
「ありがとう。」
「ただし条件がある。」
「条件?」
「お前のお母さんの事を話してくれ。」
交換条件だ…
はたしてそれで話してくれるだろうか?
男の子は少し悩んだ後にコクリと頷いた。
凄い。
こんな簡単に聞き出せるんだ…
その後私たちは近くの公園のベンチに座って男の子の話を聞きました。
男の子は静かに自分のお母さんの事を話し始めました。
「母ちゃんは俺の事を一番に思ってくれていて、毎日一生懸命に働いて俺を学校に通わせてくれてんだ。」
「素敵なお母さんだね。」
「うん!最高の母ちゃんだ!…だけどある日を境に変わちゃった。」
男の子は暗い顔をしました。
「突然家に角の生えた黒いローブを着た女が来て母ちゃんと話したんだ。女が帰った後に母ちゃんは変わっちまった。」
タンさんは真剣な眼差しになる。
「どんな風に変わったんだ?」
「全部…」
「全部とは?」
タンさんがそう聞いた途端男の子は涙目になりました。
「本当に全部だよ。髪の毛も突然丸坊主にするし、鬼の刺青を入れるし、料理は下手になるし、怒りっぽくなるし、男になっちゃうし、本当に全部変わったんだよ。」
言い終えると同時に男の子は大粒の涙を流し泣きました。
「なんで母ちゃんだったんだ。なんで母ちゃんを選んだんだ。なんで母ちゃんは自殺なんてしてしまったんだ。なんで母ちゃんは俺を置いてったんだ。母ちゃんなんて…だいっきら…」
「そんなこと言っちゃダメ。」
「!!」
気が付いた時には私は泣きながら男の子の事を強く抱きしめていました。
「本当はそんなこと思ってないよ。君は今お母さんが突然いなくなって悲しくて辛くて寂しいからそう考えてしまってるだけだよ。」
「放せ!お前に何が分かる!俺の気持ちなんて分からないだろ!」
男の子は藻掻いて逃げようとしましたが私は絶対に放さないようにもう一度抱きしめ直しました。
「分かるよ。痛いくらいに分かるよ。だって私もその気持ちになったことあるもん。」
「え?じゃあお姉ちゃんも…」
「私の時は、私のお姉ちゃんだったんだけどね。お姉ちゃんは私にとってお母さんみたいな人なんだよ。私の食べるご飯を作ってくれたり、一緒にお風呂に入ってくれたり。本当に優しい人だったのよ。だけど、殺されたわ。その時凄い悲しかった。寂しかった。辛かった。これからどうすれば良いか分からなくて凄く怖かった。もう死にたいって思った。だけどね、それだけ大切な人が死んでしまったからこそ私はその分も生きようって思ったのよ。」
「生きる…」
「そう生きるの。生きて生きて頑張って生き続けるの。あなたが大切に思って大切に育ててくれた自分は今こんなに立派な人になれた。あなたが大切に思ってくれたから、あなたが沢山の愛を私にくれたから、私はここまで生きることが出来たんだよって言えるようにするために生きるの。それに君のお母さんもそう願ってると思うよ。」
「母ちゃんが?」
「そう。親は子供が立派に育ってくれる事を願っているのよ。だってその証拠にほら。今までお母さんがしてくれた事をもう一度思い出してみて。そう願ってることが分かると思うから。」
私がそう言うと男の子は遠くを見つめました。
私は男の子を放しました。
それでも男の子はただ今までのすべての思い出を振り返るようにまっすぐ遠くを見つめていました。
そうしてるうちに男の子の目から自然と小さくて誰にも気づかれないくらいに透明な一滴の涙が零れ落ちました。
「そうだった。母ちゃんは俺の事を一番に思ってくれてた。俺、まだ死ねない。」
「だったら自殺なんてやめよ?」
「うん。そうするよ。だけど俺明日からどうすれば良いのだろう。」
たしかに結局自殺をしなくても食べ物が無ければ餓死してしまう。
すると突然タンさんは大きな声で
「そういえば事務所内の書類が片付いてないからまずいなぁ!こんなときには子供だろうが雇いたいもんだわ!」
っと言いました。
男の子はタンさんの肩を持ち前後にぶんぶん振りながら言いました。
「おっさん!俺を働かしてくれ!書類整理だろうと掃除だろうとなんだってやる!だから働かせてくれ!」
タンさんは男の子の勢いに押され戸惑いながらもこう答えました。
「分かった!分かったからとりあえず放せ!」
「あ。ごめんなさい。」
男の子はパッと手を放しました。
「まったく…。とりあえずあの家の状態だと寝ることも難しいだろう。今日は俺の家に泊まって明日からしっかしと働けよ。」
タンさんがそう言うと男の子は大きな声で
「はい!」
っと言いました。
その後私たちは現地で解散し1日を終えました。
今回の事件の手掛かりになりそうなのは角の生えた黒いローブを着た女性が来たことにより男の子のお母さんが急変してしまったことぐらいしか分からなかったので明日からはこの女性について調べていくことになりそうです。
まだまだ事件解決までの道のりは遠いですがそれでもめげずに一歩ずつ確実に歩いていきます!
そうすればきっと事件も鬼族の秘密もお姉ちゃんの事も全部分かるようになると思うから
私は今日を生き明日も生きる。
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