第5話 私と桜木村

あれから村長の話は日が暮れるまで続いた。

しかし、話の内容はかなり面白かったので飽きずに聞けた。


村長の話をまとめるとこうなった。

・サンタは”ライク”以外の場所では同じサンタ以外にプレゼントを持っている姿を見られてはいけない

・サンタは60%が鬼族、40%はその他の種族だということ

・鬼族は基本的にプレゼントを配れないということ

・プレゼントは基本的に鬼族以外の種族で配るが、緊急時は鬼族が仮面をつけて配ること


やっぱりサンタというだけあって守らないといけないことも多いみたい。


鬼族がプレゼントを配ってはいけないのは昔、鬼の姿だと怖くてプレゼントを受け取ってくれないことがあったらしく。

それで鬼族はプレゼントを配ってはいけないらしい。


一通り話終えた所で村長は外が暗くなっていることに気づいて部屋を後にした。

レオさんも村長さんと一緒に出て行った。

トキハさんは二人が部屋を出て行ってから少しして椅子に座った。

どうやら村長さんが話している最中ずっと壁にもたれ掛かって話を聞いていたみたい。


トキハさんが椅子に座ってから少しの間沈黙が続いたが、それを破ったのはトキハさんだった。


「あのジジイもよくしゃべるねぇ。さてあんた風呂には入れそうかい?」


「え! お風呂あるのですか!? 入りたいです!」


「おお。急に元気になったわね。まぁいいわ今から風呂のお湯沸かすからちょっと待ってて。」


そういうとトキハさんは部屋を出て行った。

下の階から水の流れる音がする。

お風呂は下の階にあるみたいね。


窓から入ってくる月明りだけが部屋を照らす。

少し薄暗いようにも思えるけど、どこか落ち着くような明るさとなっている。


しばらくするとトキハさんがランタンを持って部屋に入ってきて

「風呂の湯沸いたからおいでシャンプーの位置とか色々教えるから。」

と言ってきた。


私はベットから立ち上がってゆっくりとトキハさんの所へと向かった。



それからトキハさんと一緒に部屋を出てすぐ右側の階段を下りて脱衣所まで来た。


脱衣所は入ると前の壁に桶と洗濯板が立て掛けられている。

その上に棚がありタオルが置いてあった。

洗濯板の右側には3段の棚があってそれぞれに竹のようなものでできた籠が置いてある。

そして棚のさらに右側には扉がある。多分この扉の先がお風呂場なのだろう。

床は木でできている。


トキハさんは脱衣所の奥にある扉を開けた。

やはりお風呂場のようだ。

奥には浴槽があり、その手前にはフロアーがある。

フロアーの左の壁には棚があり、ボトルや石鹸が置いてある。



その後私はトキハさんにシャンプーのボトルなどの説明を受けて入浴した。

服は後でトキハさんが持ってきてくれるらしい


浴槽のお湯からは柑橘系の甘い香りがして疲れが取れたように思えた。


お風呂から出てすぐ右側の棚の真ん中の籠の中に服が入っている。

長袖の服と長ズボンが入っていてどちらも丈があっておらず

服は手が隠れてしまうし、ズボンも巻くっても巻くっても足が見えてこない。


そんなことをしているとトキハさんがやってきて調整を手伝ってくれた。


その後、トキハさんが夕飯にパスタを用意してくれていたみたいで私は1階のバーのカウンターでトキハさんと一緒に食べた。


ミートパスタみたいな味がして美味しかった。


トキハさんはパスタを食べながらこう言った。


「明日からあんたもサンタの仲間入りだね。多分明日は村の設備の紹介とかの説明だけになると思うから気楽に頑張りなさいよ。」


そうか私も明日からサンタかぁ。


頑張ろう。





ー次の日ー



まだ朝日が昇りきる前にレオさんが迎えにきた。


「おーい。起きろー、朝だぞー。今日は村の紹介とかするから早く出て来いよ。」


私は泊まる当てがなかったのでバルの二階の私が倒れた時に使っていた部屋に泊めさせてもらった。

レオさんは外で待っているようだ。


私が背伸びをしていると扉の外から声がした。

トキハさんだ。


「あんたが昨日着ていた服が乾いたから持ってきたわよ。中に入っても良い?」


「はーい! 良いですよ!」


そういうとトキハさんは部屋の中に入ってきて服をベットの横にあるテーブルに置いた。


「あと一階で朝食の準備をしておくから着替えたらおりてらっしゃい。多分マールンも…。レオも朝食をとっていないだろうからアイツも一緒に食べるか誘ってみるわ。」


そう言ってトキハさんは部屋を出て行った。


私は着替えて一階に下りた。

昨日は暗くてよく見えなかったけど、一階は酒場と食堂が合わさったような作りで四人ぐらい座れる丸いテーブルが3つとカウンター席が5つある。


レオさんがカウンター席の一つに座っている。


「おはようございます。」


そう言いつつ私はレオさんの隣の席に座った。


レオさんは

「おはよう。」

とだけ言った。


少しするとトキハさんがカウンターの奥にある通路から料理を持って出てきた。

どうやらカウンターの奥に厨房があるようだ。


「ほれ朝食だよ~。たんとお食べ。」


そう言ってトキハさんは朝食とスプーンを出してくれた。

ウィンナー2つとスクランブルエッグ、そしてお茶碗に山盛りになった白いご飯が出てきた。


「わぁ!美味しそう!いただきます!」


私はそういうとスクランブルエッグを頬張った。

出来立てのようで熱くて美味しい。


レオさんも私の後に続くような形で朝食をとった。


その後、私たちは店を出て行った。


お店の外は’村’というよりも’町’と呼んだ方が正しいような賑わいだ。

床がレンガのタイルみたいになっていて所々に石の街灯がある。まるで中世ヨーロッパの街並みだ。


酒場の正面には入口の上に服の看板がある。

服屋みたい。


「こっちだついてこい。」


そういうとレオさんは酒場を出て左に進んでいった。

私は後を追いかけるようについていった。


道中に色々なお店があった。

アクセサリーを売っているお店や精肉店、銭湯まであった。


レオさんは途中で右に入って行ったのでついていった。



急に道が狭くなった…歩きづらい。それにうす暗い。



家と家の間の道だったが途中から完全にあぜ道となっていた。


そのままあぜ道を少し歩くと突然視界が広がった。

あの狭い道が終わったようだ。



眩しい…



突然暗い所から明るい所へと来たから目が眩んでしまった。

だんだんと目が慣れていって辺りが見えるようになってきた。



私は目の前の光景に驚きと好奇心を隠せなかった。

目の前に広がっている光景…

それは…



戦闘訓練所で実際に色々な種族が訓練をしている様子だ。

しかもただの訓練じゃない。


左側で木製の短剣を使った対人戦をしている人が短剣を振った軌道に炎の道が出来ている。

右側ではローブを着ている人が杖を使って杖の先端に氷を出している。


”魔法”だ。

今目の前で行われているのは”魔法”を使った戦闘訓練だ。


「魔法訓練…」


思わず口に出してしまった。


するとレオさんは驚いたように言ってきた。


「なぜこれがだと分かった?魔法を見たことが無いなら魔法に驚くのは分かる。しかし、なぜこれがではなくだと分かったんだ?」


簡単なことを聞かれて驚いたが私は素直に答えた。


「左側で使っている短剣がなのと、右側のローブを着ている人が使っている氷の魔法が杖の上に浮いているだけでどこにもこと。そして極めつけはです。なぜ戦い方の違う人を一緒に戦わせてお互いの弱点を補うことをしないのかな?って思ったから訓練だと思いました。」


全部昔の地球で起きた戦争やらアニメから得た知識で話したから合ってるかわからないけど…


私が説明し終えるとレオさんは驚きを隠しきれてなく唖然としていた。


「凄い…。黒宮の言う通りだ。確かに実践ではの剣をを使うし、こんなにばらけさせない。ましてや1対1なんて絶対にさせない。」


おおー。歴史とアニメってスゲェー。

当たってた。


ん?

ちょっと待てよ


「あのー。なんでなんですか?などの鉱石を使わないのですか?」


そういうと突然後ろから声がした。


「使っているとも、鬼族はな。」


振り返るとそこには茶色の作業服を着た背の低いおじさんがハンマーを片手に持って立っていた。

髭と髪の毛の境が分からなくなるほどどちらも伸びていた。


おじさんが来た途端レオさんは私の後ろに隠れた。

まるでおじさんに怯えているように見えた。


レオさんが小さな声で話しかけてきた。


「あいつはノーム・アカンサス。この村の鍛治職人だ。短気な上に怒らせたら面倒な奴だから怒らすなよ。俺はアイツが嫌いなんだ。」


なるほど

だからレオさんが怯えているように見えたんだ。


ノーム・アカンサスさんは話を続けた。


「鬼族は以降鉄の使用が禁止されている。鉄に触れると触れた部分が熱くなり火傷をしてしまうから鬼族は鉄の使用が禁止されている。」


あの事件…

多分鬼族の種族名が変わってしまった事件のことだろう。

私は事件の名前や内容はゲームのウィンドウみたいな物のせいで全貌は分からないけど種族名だけでなく鉄を使うことも禁止になった。


つまりこの事件とには何か関係があるのかな?


「そういえば自己紹介がまだでしたな。精霊系ドワーフ族のノーム・アカンサスだ。この桜木村で鍛冶職人として武器を作っておる。」


「初めまして黒宮くろみやれいと言います。異世界人で昨日サンタになったばっかりです。」


「話は村長から聞いておる。ほれとりあえずこれを持ってみろ。」


ノームさんは青く透き通った色の玉を差し出してきた。


なんだろうこれ?


不思議そうにしていると後ろからレオさんが説明してくれた。


「物を作るときは材料が必要になるだろう?”クロスワールド”の材料は自我を持たない生物であるを狩って材料を手に入れなくてはならない。そのために必要な武器の形を決めるためにその青い玉を使うのだ。」


レオさんが説明しているとノームさんはようやくレオさんに気付いたみたいだ。


「こいつの案内役はお前だったのかマールン。まぁなんでもいいわ。さぁ早く持たんか腕が釣る。」


私は言われるがままに青い玉を持った。


持った瞬間

心が冷たくなった。

まるで極寒の雪山にいるような寒さを感じた。


次の瞬間

急に温かくなってきた。

布団の中のような温かさと安心感を感じた。



どこからともなく音がする。

私は音をよく聞こうと目を閉じた。


ピアノみたいな音だ。


心が躍るような明るい音だ。


懐かしさを感じるような音だ。



音は連なりやがて曲となった。


ピアノみたいな音と誰かの鼻歌のみたいな音が聴こえる。



ああ

知ってる。

この曲知ってる。


子供の時にお母さんが歌ってくれていた子守歌だ


ピアノを弾きながら歌ってくれていた子守歌だ


なつかしい…


この歌を聴くと心があったかくなる。


嫌な事を全部忘れられる



あたたかい



どこからともなく声がする。

お母さんの声だ。



「玲はどんな楽器が好き?」


また違う声がする。

私の声だ。


「お母さんのお歌!」


「それは楽器でないかな。」


お母さんの苦笑い声が聞こえる。



またお母さんの声が聞こえる



「ねぇ見ているのでしょ?玲?あなたはどんな音が好き?」



私は… 

私は…

私は!



お母さんが歌ってくれた子守歌とお母さんが弾いたピアノの音が好きだった。

寝れない日に聞かせてくれたあの歌が好きだった。

あったかくて優しくて心が落ち着く歌が好きだった。

綺麗な音だけどどこか寂しさの残るあのピアノの音が好きだ!


「答えは出たようね。さぁ目を開けてごらん。大丈夫。私がついているから。」


誰かの手が私の頬に触れた。

お母さんの手だ。



あったかい…



私はゆっくりと目を開けた。


目の前には青いピアノの鍵盤が浮いていた。


持っていた青い玉は消えていた。


私は鍵盤一番右側の’シ’を弾いた。


高くも小さい音は周囲の人の心を掴んで離さなかった。


私もしばらくの間この音の余韻に余韻に浸った。



お母さん…

私、異世界でも頑張るね。

沢山の人を幸せに出来るように頑張るね。



彼女は今一度自分の心にそう決めたのでした。

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