第3話 テストと私

ハロー! 地球の皆さん!


今私は異世界でサンタになるためにテストを受けています!



ピンッと張った空気の中

今テストが始まります。



「名前は?」

この人はレオ・マールンさん。

鬼族の赤鬼です!



そして私は

黒宮くろみや れいと言います。」


「性別は?」


「女です。」


「見た所異世界人のようだが、異世界では何をしていた? また、どうやってこちらの世界”クロスワールド”に来た?」


「昔いた世界では、高校生として学問に邁進していました。しかし、クラスメイトからいじめを受け、苦しくなって自殺しました。その後、謎の画像に異世界で人生をやり直せるということを教えてもらったので異世界転生して、現在に至るといった感じです。」


「人生をやり直して何がしたい?」


「やり直して、皆を笑顔にしたいです。皆が笑って明るく幸せに暮らせるようにしたいです。」


「確かにサンタっていう職業は皆を笑顔に出来るけど、ものすごく大変な仕事なのだが、それを理解した上での決断ってことで良いか?」


「…大変な仕事とは、どのようなことですか?」

仕事の内容を知らずに挑むより、今聞いておいた方が良いと思って聞いてみた。


「そもそもサンタの仕事は主に3つで、

 1つ目はその年1年間で子供達が良い子にしていたかを見る仕事これは正直大変ではない。

 2つ目はサンタとして子供達にプレゼンを配る仕事これはサンタの数が多いから一番楽できる。

 3つ目は

これが一番大変で一番多くの子供たちを笑顔に出来る。

以上が大まかな仕事の内容だ。」


自殺しそうな子供を救う…

はたして私自身が自殺をして異世界に来ているから自殺しようとしている子供を助けることなど私に出来るのだろうか…


そう考えているとレオさんが

「自分に出来るのだろうかって考えているのだろ? そんなこと考えるだけ無駄だぞ、大事なのは救えるがではなくだ。言ってみろ救う気があるのか?ないのか?」

っと言ってきた。




私は自殺しそうな子供を救う気が…



「ある… あります! 救う気があります! 」


自殺した時の感覚はぼんやりとだけど覚えてる。

とても幸せな気持ちになりながらも怖かった。現状から解放される幸せもあったがこれからのことが分からない事や後悔だらけの人生で終わってしまって怖い方が断然強かった。

こんな気持ちを体験してほしくない。


「分かった。ではこれにて質問を終わりだ。お疲れ様。」


終わった? 正直終わった感覚が無いけど、終わった…



すごく疲れた… 



そう思っているとレオさんは何かの準備をしていた。


なんだろう?

そう思って何をしているのか聞いてみると、


「不安なのだろう? 自分に自殺するまで弱ってしまった子供を救えるのか。だったら今から救って自信をつけろ。大丈夫だ今から自殺しようとしている人は黒宮玲、お前が一番そいつの事を分かっているからな。」

 っと言ってきた。


今からいきなり自殺しそうな子供の所に行くの?

こんな満身創痍な状態で?

まだ何も教えられていないのに助けれないよ!


 だけど、どうしてだろう。なぜか今から会う人がどんな人か分かる気がする…

 だけど、名前や姿が思い出せない。

 思い出そうとすると霧がかかって思い出せない。


なのに、今から会う人にどこか安心してしまう。



そう考えているとレオさんは何か模様の様なものを作ってその上に立っていた。


「準備は出来たか? いくぞ! ”#転送てんそう”」


「え? ちょっと早いよ!」


突然、全身が光で覆われて辺りが真っ白になった。








 少しすると光がだんだん弱まってきて辺りが見えるようになってきた。



どこかの玄関の中のようだ。

壁は白色で

左の壁には下駄箱があり

右の壁には小さな文字で

『まま』

っと書いてあった。

どこか見覚えのあって懐かしい感覚になる玄関だ。

玄関の先には廊下があり、その先に扉があり閉まっていた。


私はこの光景を何回も、 何十回も何百回も見たことがある。


「……ここ、私の家じゃん。」


 覚えてる。壁にある『まま』という文字は私が初めて覚えた言葉でそれを家のどこかに書きたくて書いた文字だ…


 懐かしい…



そんな事を考えていると扉の奥から


「ロープよし!椅子よし!椅子の上に私よし!覚悟よし!」

っと聞こえてきた。


間違いないこの扉の先で今まさに自殺しようとしている子供…



 それはだった…



けど、おかしい私は今ここにいるのだから、この先にいるのが私なはずがない。

だけど扉の奥から聞こえた声は確かに私の声だ。しかも、言葉も私が言った事のある言葉だ。

そうなるとレオさんが言っていた。


「お前が一番そいつの事を分かっているからな。」

の意味が理解できる。

 つまり、レオさんは自分の事は自分が一番理解出来るからこの場所に私を送って私の自殺を止めさせようとしている。


 今なら自分が自殺しようとしている所を助けれる。

 今まで誰も助けてくれなかった自分の事を助けれる。

そう考えていると足は自然と動いた。



廊下の扉の先にいる自殺しそうな私の所へ



「それでは皆さんさような…」


「ちょっと待ったぁぁぁ!!!!」


「え!? 誰…って私!? なんで!?」


間に合った! あと少し遅ければ椅子を蹴って首を吊るところだった!


「まだ自殺しちゃだめ! 生きて! 生きて生き抜いて! まだ何も成し遂げてないじゃん!そんな状態で自殺なんかしちゃだめ! 幸せになって!」


 もう何も考えられなくなっていた。

ただ生きてほしいそう願って頭に思いついた言葉を叫んだ。

叫んでる内に涙が出てきた。


「たしかに貴方は頑張った、今までいじめにも耐えてきた。もうお疲れ様! 今までよく頑張った! だけどこのまま夢を何も叶えられずに死んじゃっても良いの? もう一度考えてみて、このまま後悔と未練で溢れ返っている状態で天国にいっても後悔しない? 悔まない? 貴方のその気持ちを聞かせて。」


全部言ったあの時私がも今の私が

も全部言った。


 いつの間にか彼女はロープを首から外し椅子を降りて私の背中をさすっていた。


「何が起きて私が二人いるのか知らないけど、とりあえず泣くのやめよ?

 私は私が泣き止んで事情を聴くまで自殺しないから。」







それから私は泣き止んでから説明した。

なんで私がここにいるのか

自殺した時の気持ちや自殺した後の世界について


「なるほど、つまり死んだら異世界で鬼(職業 サンタ)と一緒に子供の自殺を止める仕事をすることになるってことか…」


「そう! そういうこと!」


「最高かよ… むしろ天国。」


「そう! 天国みたいな所なのよ~」


「あんた本当に私を説得する気ある?」


「あるよ!」


分かりやすいくらいに呆れられている。

自分に呆れられるって凄い違和感がある。


だけど、どうにかして私を説得して自殺を止めさせないと


「実際今自殺したい気分?」


一応聞いておきたい。本当に自殺する気なのか


「ん~ 分かんない! 今のこの気持ちが何なのか分かんない。自殺の恐怖からなのか、自殺せずに生きていくことについての不安なのか分かんないや!」


意外な一言に驚いていたら、彼女は無邪気に笑った。

私の事だけど本当に笑った時の顔は可愛い

自殺するのがもったいないくらい



そんな気持ちなら今なら自殺を止められる。


「だったらさ、自殺するの止めない?」


「けど、自殺しないとまた明日からまたいじめを受ける事になるよ? 

 ……そんなの嫌だよ。」



そうだ、結局そこに辿り着く。

だけどあの時とは違う今回は相談出来る私がいる。

そして、私だから分かる。

気持ちが整理出来ていている今この時一番言ってほしかった言葉が


「だったらさ、してみよ。やられてるだけじゃなくて今度はこっちがしよう。それも先生の目の前で今までされてきた事を全部言いながら殴ってやろう! 

 そうすればあいつらも先生も自分がしてきた事で私がどれだけ傷ついてきた分かるはずだから!」


「!! そうだね… 何もやり返さないでいたからこうなったならやり返してやりたい!」


「だから、あいつらにやり返すためにも生きよ! 今を生きて明日の自分につなげよう! もし、それでいじめがなくならなかったら学校を辞めよう! 資格も取りにくくなるだけで、取れないわけではないから。だから、大丈夫。自分に正直になろ?」


 ようやく言えた。

あの時私が一番言ってほしかった言葉だ。

ずっと言葉。

ずっと誰かに一言だ。



いつの間にか彼女は泣いていた。誰にも気づかれないように静かに泣いていた。

だけど、私は気づいた。

私だから気づけた。

だって私の事だもん。

だって私が一番我慢していた事だもん。

今まで必死に我慢して涙を堪えていじめにも試験勉強にも耐えてきたから分かる。

どんなに辛くても泣けなくなっちゃった事が分かる。



「今ここには私達二人しかいない、今なら大声で泣いても良いよ。」


そう言うと彼女は泣いた。


大きな声でゆっくりと今まで溜めてきたものを吐き出すかのように泣きじゃくった。


「…だ …やだ 嫌だ、死にたくない。まだ、死にたくない。怖かった。私を殴っている時のあいつらの顔が怖かった。私を玩具のように見るあの目が怖かった。逃げ出したかった。だから、死にたかった。だけど、今は違う。あいつらにやり返したい。やり直したい。今度こそ自分に正直に生きたい!あいつらに、先生に、お母さんに私の今の気持ちを伝えたい!」


彼女は泣きながら今まで内側に溜めていた言葉を全部言った。


「うん、うん、そうだね。」


私はただ相槌を打っていた。

私はただ私の話を静かに聴いていた。





しばらくして彼女は泣き止んでそのまま寝てしまった。

まるで、嫌なことから全部解き放たれたかのように


何はともあれ、自殺は無事に止めることが出来た。

良かった。


そう思っていると、突然全身が光に覆われて辺りが真っ白になった。


この家に飛ばされた時と同じ光だ。



どうやら、お別れの時間みたいだね。



「じゃあね。元気でやっていくのだよ、私。」



言った時に私は泣いているのに気が付いた。



{そう言った瞬間、彼女は姿を消した。音もなく突然と…

 一粒の涙を残して…}


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