大文字伝子が行く99

クライングフリーマン

大文字伝子が行く99

 午前9時。伝子のマンション。

 柳生官房長官が誘拐されて3日が経っていた。EITO用のPCが起動している。

 「長官は、かなり怒ってたけど、総理が『サプライズ』でエマージェンシーガールズが再登場する筈が、事務連絡の不具合で遅れた、と言い訳してくれたから、矛を収めたようだ。大文字君の人徳だね。」理事官は笑っていた。

 「ホントに忘れてたの?伝子。」「忘れてた。だって、お前のことで頭一杯だったから。」

 2人の会話に、「う、ううん。ところで、総子君の援軍について確認してくれたかね?」と、理事官は伝子に尋ねた。

 「昔、『ホワイト』って名前のレディースがあって、総子は更正させた。普通は解散させるんだが、『ボランティア活動グループ』として、再スタートさせた。総長、 詰まり、リーダーを更正させて、子分達がそれに従って、総子のことを『大総長』と呼んでいる。そのグループを、そのままEITOのメンバーにした。当日の『援軍』は、過去に義理のあるレディースが、初出動を祝う積もりで押しかけたそうです。理事官が問題視してSNSの拡散の『喧嘩上等』とか『夜露死苦』とかの法被は、特攻服以外持っていなかったから。こちらのグループ『ブラック7』は、既に解散しています。敵を、です・パイロットの配下を懲らしめただけですが、何とか穏便に処理願えませんか?」と、伝子は懇願した。

 「はっはっはっは。」理事官は声に出して大笑いした。

「事と次第に寄っては、大阪支部に『お仕置き部屋』を作らなければ、と思っていたが、その心配は無さそうだ。そうだ。総子君達は、一体どこで着替えたんだね?」

「彼女達は、普段、早朝にゴミ拾い等のボランティア活動をした後、アルバイトをしています。彼女達の数人が、天王寺動物園で飼育員の下請けアルバイトをしているんです。飼育員室の隅で着替えたそうです。」

 「成程。急ピッチで建設している大阪支部の建物は今月中には出来る。当面は一般公開しないし、トレーニング場も後日建設だ。もう少しの辛抱だな。ところで、久保田警部補が、使い魔の一人を逮捕させたことになっているが・・・久保田警部補は東京を出ていないんだ。」

 「ええっ!!じゃあ、天童さん達が協力した逮捕は・・・。」伝子は言葉を失った。

 「逮捕は無駄にはならない。実際に逮捕死連行したのは、大阪府警の警察官だから。天童さんと松本さんは、オスプレイで現地に飛んで貰った。松本さんが、天童さんからの連絡を受けて、現地の警察官を連れてエレベーターに乗り込もうとした時、久保田警部補と名乗る人物が名刺を出して、自分も一緒に上がると言ったらしい。警察官達がパトカーに乗った時、後で合流すると言って別れたそうだ。横山刑事によると、警察署には現れなかったそうだ。」

 「理事官。天童さん、ベースワンにいるんですか?」と、伝子は確認した。

 「ああ。いるよ。」と言う理事官に、「そこに来て貰って下さい。それと、あつこは?」とイライラしながら伝子が尋ねると、「同じくベースワンだ。渡。二人を呼び出してくれ。」と理事官は言った。

 5分ほどして、あつこと天童は走って来た。

 「あつこ。久保田さんと天童さんは意外と接点が少ない。写真を見せて確認してくれ。」伝子の指示通り、あつこは胸の谷間から、ロケットを出した。

 「あ。大文字さん。私と接したのは、写真と違う人物です。」と天童が言い。「天童さん、警察手帳を彼は見せましたか?」と伝子が更に確認した。

 「いや・・・応援に来たと言われて、てっきり・・・。」天童は言い淀んだ。

 「理事官。それ、その人物は、です・パイロットじゃないんですか?」と、高遠は叫んだ。

 「詰まり、配下の使い魔の共同作戦が成功するかどうかを見極めに、大阪に来ていたのか?では、東京の『シンキチ』に拘る、です・パイロットは、東京から離れられない事情がある訳では無かったことになるぞ、高遠君。」理事官は唸った。

伝子も高遠も唸った。「これが、最終決戦への布石なのかな?」と、また高遠が推理を言いだした。

 「そうだとすると、どう対処すればいいんだろうか?」伝子は、文字通り頭を抱えた。

 午前10時。警視庁に、『地下鉄半蔵門線に時限爆弾をセットしたらしいぞ』というメールが来た。

 久保田管理官は、地下鉄に通報すると共に、テレビのリモート中継で、避難を呼びかけて、機動隊と爆発物処理班を向かわせた。

この報せは、EITOにも、伝子にも知らされた。

 伝子と高遠が準備していると、藤井が入って来て、おにぎりが入ったポーチを押しつけた。「腹が減っては・・・よ。オスプレイの中で食べなさい。」

正午。EITOベースゼロ。会議室。

 「半蔵門線の各駅は、駅員、警備員、警察官でくまなくチェックしているが、まだ発見の報告は来ていない。」と、理事官は言った。

弁当が配られ、伝子はオスプレイの中でおにぎりを食べので、弁当は食べなかった。

「まだ、続きがあるような気がします。」と、増田が弁当を食べながら言った。

「一応、鉄道各社にも、不審な荷物がないかどうかチェックするよう、警視庁から指示が出ているが・・。」と、理事官も弁当を食べながら言った。

 最初に異変を訴えたのは、増田だった。「失礼します。」彼女はトイレに駆け込んだ。

 そして、馬越が「失礼します。」と言って、トイレに行った。

 「みんな、弁当を食べるのを止めろ!」伝子は館内放送のマイクのスイッチを入れた。

 「弁当で体調を崩すかも知れないから、弁当を食べるのを中止してください。」

 理事官は、作戦室に急いで行った。後から伝子が追いかけてきた。

草薙と渡だけが無事だった。他の者は苦しんでいる。

 「河野と遠藤は?」「トイレです。我々も少し食べたのですが?」

いい訳をした草薙に、飯星は「あなた方が、彼らと違う点は?」と尋ねた。

 「すみません。」と草薙はポケットから煎餅を出した。「間食しちゃいました。」

 飯星は、煎餅の匂いを嗅ぎ、「アンバサダー。確かこの煎餅はバターが隠し味だとおっしゃいましたよね。」と伝子に確認した。

 「バターが幾らか中和作用を起こしているのかも。そうだ、救急車を。」

「待て。罠かも知れない。」伝子は、自宅のPCを呼んだ。

伝子は手短に高遠に話した。「伝子さんに賛成。罠です。偽の救急車が駆けつけるかも知れない。池上先生に往診に行って貰いましょう。臨時の看護師さんと一緒に。いや、待てよ・・・副部長達にも手伝って貰いましょう。手順は・・・。」

 30分後。直ちに作戦は開始された。

 EITOベースワン。門の所に救急車が入って来た。守衛が救急隊員に応対した。

 「救急車?呼んでないよ。」「でも、食中毒が出たからって・・・。」

 「食中毒が出たのなら、まず保健所でしょ。お宅の所属は、どこの消防署かな?」

 守衛の横から出てきた橋爪警部補が警察手帳を出し、それを見た2人の救急隊員に 愛宕が次々と手錠をかけた。

 パトカーに偽救急隊員を乗せ、橋爪達は去って行った。守衛は、救急車を駐車場の端に移動した。

 続いて、門に入ってきたのは、大型トラックだった。守衛は、運転する物部に会釈をした。倉庫の搬入口にバックで入ったトラックは10分もしない内に出ていった。

次に、門に入って来たのは、小型トラックだった。同じように入って行く福本に守衛は会釈した。このトラックも10分もしない内に出ていった。

 3番目に入って来たのは、ワゴン車だった。守衛は何か冗談を言った、運転手の依田に会釈をした。ワゴン車も何かを搬入した後にすぐに出ていった。

最後に入って来たのは、乗用車だった。守衛は、何かカードを見せた運転手の服部に握手をして、搬入口に入って行き、誰かを連れて車に乗せ、慌ただしく出ていった。

 EITOベースワンの50メートル先。ワンボックスカーの車内から双眼鏡で見ていた男が、仲間に言った。

 「もう、出てこないようだ。指示を出せ。我々は、さっきのクルマを追う。」

そのクルマは、すぐに発進した。

 その近くで、子供と遊んでいる親子連れがあった。高峰圭二は、側に立っていた、南原に声をかけた。「どうですか?」」「バッチリです。」南原はスマホのLinenの画面に言った。「高遠さん。敵は出発しました。」「了解しました。」と、高遠の声が返った。

 EITOベースゼロ。作戦室。

 理事官は、張り切ってマイクに言った。「ルーフ・オープン!エマージェンシ・オスプレイ・ワン、発進!!」

 「ラジャー!!」と、ジョーンズが応えた。EITOベースワンの2階の屋根が開き、オスプレイが外に出て、地面に着地した。

 EITOベースゼロから、食中毒になった人々をエマージェンシーガールズがおぶって、電動スケートボードで運ばれ、オスプレイに向かった。

 河野事務官を含む通信職員4名、増田、馬越のEITO隊員、EITO事務職員2名、計8名だ。

 運び込んだエマージェンシーガールズはすぐにオスプレイから降りた。

 オスプレイは、すぐに発進した。

 「なかなかいい眺めじゃないか。」守衛に扮した福本日出夫が言った。普段、この 守衛室は使われていない。リモートで済むからだ。今日は、敵を油断させる為に福本の叔父も駆り出された。

 同じ頃。物部が運転する大型トラックは、あおり運転の車が追い越しをする時に、拳銃を見せられた。物部はハンドル近くに置いたDDバッジを押した。

すると、トラックの後部ドアが開き、ホバーバイクが飛び出した。

 エレガントボーイの格好をした青山は、追い越し車の前面に出て、開いている窓目がけて、こしょう弾を投げた。

 車は、急ブレーキをかけて止まった。青山は、車から這い出た男二人に手錠をかけ、「後は頼んだぜ、運ちゃん!」と言い捨て、ホバーバイクで去った。

同じ頃。福本が運転する小型トラックも、あおり運転の車が、トラックを停止するように合図をしてきた。

 福本がDDバッジを押すと、後部ドアからホバーバイクが飛び出し、エマージェンシーガールズ姿の伝子の後ろに乗った松下が、ホバーバイクに設置したシューターのリモコンを押した。

 追い越し車は、パンクし、停止した。車に乗っていた二人が降りて来た。ホバーバイクから降りた、伝子は、やって来た、白バイ隊の工藤に「後は頼む。」と言い捨て、またホバーバイクに乗り、去って行った。福本と松下は後に残った。

同じ頃。ワゴン車も、あおり運転の車が追いかけて来た。

 ワゴン車の右に追いかけ車が並んだとき、その助手席から拳銃がぬっと出てきた。

 その拳銃を、後部座席の窓から、みちるがシューターを投げて落とした。

 車は、ワゴン車の前に回って、急ブレーキをかけ、止まった。

 後部座席の両側から、エマージェンシーガールズ姿のみちると浜田が降り、追い越し車から降りた男達の足をめがけ、シューターを放った。

 男達は、足が痺れて仁王立ちになった。みちると浜田は急いでロープをかけた。

そこへ、ミニパトがやって来た。あつこと江南だった。

 「半蔵門線は?」「もう片付いた。3つも仕掛けやがって。」「手錠持ってる?」 「縛ってあるじゃない。」「念の為よ。」「はいよ。」あつことみちるの会話は弾んだ。

 みちるは、あつこから貰った手錠を男達の片手ずつに嵌めた。

 「依田君。後、頼むわね。すぐ警官隊が来るから。」「了解。」

依田は呟いた。「警視もみちるちゃんも警察なのにな。煎餅でも食べて・・あ、電話しなくちゃ。」

 EITOを出発した乗用車も、あおり運転の車に遭遇した。しかも、2台である。

 「こういう時は、歌は無理だろうなあ。」と言う服部に、「面白い人ねえ。」と、 後部座席の稲森が言った。

 男達が、降りろと要求するので、エマージェンシーガールズ姿の副島と稲森が降りて、稲森が投げ縄で、副島がボウガンで拳銃を弾き飛ばし、あっと言う間に4人の敵を倒した。

 警官隊のパトカーがやって来た。中津警部補は副島に言った。「ご苦労様です。2組で2台ですか。想定外だな。応援を呼ぼう。」

 その頃、テレビ1を通じて、EITOにメールが届いた。

 《藤本2尉の身柄は預かっている。残り3名の『シンキチ』を、お前らのエーアイとかで探し出して、連れてこい。それが交換条件だ。人質の身代金なんか要らない。期限は3日だ。3日目に確認をすることにする。》

 理事官は言った。「賄い担当だった2尉を探し出す手間は省けたな。」

 伝子は言った。「急に休んで、弁当を作り置くなんて、違和感があったんだ。」

渡が、「理事官。無事に池上病院に到着しました。全員、命に別状はない、そうです。」と報告した。

 草薙が、「陸自から連絡です。2尉のアパートだけでなく、実家は蛻の殻だったそうです。」と、言った。

 「藤村警部補のパターンだな。両親を人質に取られたのかも知れない。」と伝子が言うと、「それでも2尉は敵の思うままでは無かった。彼は薬剤師の免許を持っている。実家は薬屋だ。詰まり、毒の代わりの薬を弁当に混入したんだ。」と、理事官は言った。

 午後5時。伝子のマンション。

 「ねえ、伝子。良い知らせと、いい知らせ。どっちを先にする?」そう言った高遠に伝子は自分の右手を高遠の額に当て、自分の左手を自分の額に当てた。

 「熱はないようだな。じゃ、良い知らせ。」「池上先生から、明日の午前中には検査をして退院、みんな午後には職場復帰出来るって。草薙さんがね、弁当の箱の下に化学式みたいな書き込みがあるのを見付けたんだ。みんな弁当のデザインだと思っていたけど、どうも手書きみたいな気がする。暗号かも知れないって、僕に写真を送って来たんだ。ほら、これ。」

 と、高遠はPCの画面を見せた。伝子が「確かにな。」と言うのを聞いて、「それで、池上先生に送ったんだ。池上病院の泌尿器科の先生で、薬剤師の免許もある、発明家の先生の話、以前話したでしょ。」「うん。でも、辞めたんじゃなかったか?」 「うん。最近、その蛭田先生は復帰したんだ。ナットウキナーゼだって。納豆菌のだよ。飯星さんが、弁当食べる前に煎餅食べていた草薙さんと渡さんを見て、煎餅の隠し味のバターかな?って言ってたんだよね。」

 「うん。詰まり、発酵食品が、一種の解毒作用をもたらした、と?そうか。陸自から賄い担当の当番で来た藤本2尉は、薬剤師の資格を持っているから、誰かが気づくことを願って、毒・・・薬を飲ませた犯人に隠れて細工したんだ。よくやった、学。今日は、たっぷり可愛がってやるからな。」「まだ、あるんだよ。いいことの方。雪山で、遭難して亡くなった人の名前が発表された。松前申吉。会社員だ。後残すところ、シンキチは2名。会社員が1名で、学生が1名。」

 「でも、どこにいるか分からない。使い魔の挑戦状では、2尉と、その2名を人質交換だそうだ。」

 「困ったね。」と、高遠が言うと、伝子は予備の部屋、通称お仕置き部屋を覗き、風呂やトイレを覗き、玄関を頑丈に戸締まりし、EITO等のPCの電源を切り、高遠の耳を引っ張り、寝室に向かった。目をギラギラさせて、「来い!」と言って。

 高遠は、抵抗は無駄だと思い、従った。夕食は何にしようか?と考えながら。

―完―














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大文字伝子が行く99 クライングフリーマン @dansan01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ