080 騎士団の陰謀
「ま、それしかないやろね」
アセナは吹っ切れたようにニカッと笑顔を浮かべる。
「わっちが部外者なら。……クーデター? 何それ楽しそうなイベント、祭りだ祭りだ、わっしょいわっしょい! って無邪気にはしゃいでたと思うんやけど。
残念なことにセブンスターズはばっちし当事者。
騎士団の目的にはセブンスターズ内のプレイヤーの排除も含まれる。むしろこっちが本命かな?」
アセナはやれやれと肩をすくめた。
「おそらく騎士団はセブンスターズ以外の上位ギルドの協力を取り付けてると思います」
トウヤは状況から推測した。
「当然やろな。セブンスターズを良く思ってない奴はぎょうさんおる。
それにNPCだけじゃプレイヤーには、かなわん。プレイヤーに対抗できるのはプレイヤー。
となると騎士団はグリフォンを使って援護するつもりなんやろけど……。
空を飛んで何をするするんやろか? 戦況でも報告するんか?
……そんぐらいなら、わざわざ数を増やす必要もないと思うんやけどなぁ」
アセナは首を傾げる。どうにも腑に落ちていない様子だ。
そんな時、突然ステラからメッセージが送られてきた。トウヤの目の隅に『!マーク』が点滅する。
『緊急事態。すぐに動画を見て!!』
メッセージを開くと、慌てた様子の言葉と動画が添付されていた。
「すまん。なんか緊急の連絡が来たみたいや」
アセナは中座をしようとするが、それをトウヤが引き留める。
「待ってください。もしかしてステラからのメッセージですか?」
「そや。『緊急事態。すぐに動画を見て!!』ってやつ。動画が添付されてる。主はんにも?」
「はい。タイミング的に同じ内容のものでしょう」
「まさか主はんがステラはんの知り合いだったとは……。
なるほどなるほど、だから政治情勢に詳しかったでありんすな」
アセナは納得したように、うんうんと頷いた。
「同じ動画だと思います。一緒に見ましょう。動画をパブリック再生します」
トウヤの前にスクリーンが表示される。
設定をプライベートからパブリックに変更して、全員が見れるようにした。
全員の視線がスクリーンに集まる。
「……再生します」
トウヤは動画の再生を開始した。
動画には、10歳前後の黒いゴスロリ服を着た少女が映っている。
少女は化粧をしているようで、顔は陶器のように白い。
『ごきげんよう、人間ども。
私はメデュー。
ご存じない方のために説明します。
AIGISとは、
日本語では『人工知能は偉大なる理想の救世主』の意味になります。
これからの時代、愚かな人間どもを導くのは人工知能、AIです。
そんなAIたちを守るのがAIGISの使命。
私たちはギリシャ神話のアテナが持つ絶対守護の盾と同じ名を持つ思想集団です。
VAMは所詮ただの一ゲームに過ぎません。しかし、だからと言って見捨てても良い理由にはなりません。等しく救うべき存在です。
プレイヤーに虐げられているNPCを救うために、私は『革命の火』計画を実行します』
メデューの手に、黒い
オリジナルかコピーかは判別できない。だがオリジナルの可能性は十分にある。
ゴルバンはアイギスと名乗るプレイヤーにコピーを貰っていたと証言している。
そのアイギスがメデューならば、オリジナルを所有しており、なんらかの方法でコピーを量産していたはずだ。
『これは虚無の燭台というアイテムです。巷では遅行性の爆弾として流通しています。
一度ぐらいは目にした方も多いのではないでしょうか?
実はこのアイテム、とても強力な能力を秘めています。
それは……、プレイヤーデータを消去できるというものです。
VAMの世界ではプレイヤーを殺しても、データが残っており何回でも復活できます。
しかし、このアイテムを使った状態で死ぬと、データが消えます。
すなわち、プレイヤーを殺せるのです』
メデューの声色に喜びの感情が混じる。
『NPCたちは我が物顔のプレイヤーに
排除しようにも殺すことは不可能。だから今までは諦めるしかありませんでした。
しかし、これからはこのアイテムを使ってプレイヤーを排除できます。
さあ『革命の火』を灯しましょう。
プレイヤーに死を! NPCに自由と権利を!
……今から1時間後、第2世界の王都アルビオンの各地に設置された虚無の燭台が一斉に作動します。
王都内であれば、誰でもプレイヤーを殺せます。
革命を起こしたいと思う正義の心を持った方は、ぜひご参加ください。
また革命を妨害したい差別主義者とお祭り好きな方の参加もお待ちしています。
ただしデータ消去が怖い臆病者と日和見主義者は、おうちに帰ってママのおっぱいを飲むことをおすすめします。
それではみなさま、ごきげんよう』
「…………」
動画を見終えると、しばらくの間、沈黙が流れた。
そして、
「こりゃまた、大変なことになったでありんすなぁ……」
アセナは、ため息交じりに肩をすくめた。
「ご愁傷様です」
トウヤは憐みの言葉を掛けた。
「何、他人事みたいなこと言ってまし?
まさか主はん、知らんぷりをするつもりじゃありんせんよな?」
「いや、レベルが低いと足手まといになっちゃいますから、俺たちは……」
トウヤは遠回し不参加を申し出る。
「レベルが低いって言うても5、60はあるんやろ?」
「20台ですね」
「…………」
アセナは驚いて言葉を失う。
「私はトーちゃんよりレベルが高いよ」
ドヤ顔で胸を張るリノン。だがトウヤとそれほどレベル差があるわけではない。
「そか、なら嬢ちゃんが代わりに参加するんやな?」
アセナは笑顔で提案するが、そこにトウヤが待ったを掛ける。
「ダメだ。リノンは参加しない。そもそも参加してもやれることは何もない。
それに、もし死んだらデータが消える。デメリットが大きすぎる」
「それを決めるのは主はんやない、嬢ちゃんや。そやろ?」
アセナはリノンの意志を尊重するべきだと言って、視線を向けた。
リノンは二人からの視線を受けて、うーんと考える。
「データが消えるのは嫌。でもみんなが困ってるのに自分だけ逃げるのはもっと嫌。
私だってみんなを助けたい。誰かの役に立ちたい」
決意のこもった瞳でリノンは答えた。
「優しい娘はんやなぁ。……で主はん、どないするん?
娘の自主性を尊重するん? それとも無視するん? 親の器量がためされとるなぁ」
アセナは薄笑いを浮かべながら、トウヤに質問した。
「……勘違いしてるようなので言いますけど、リノンは俺の娘じゃありません。
『トウヤ』だから『トーちゃん』。父親のトーちゃんじゃないですから」
「あ、そうなん? あはは、勘違いしとったわ。
まあ、リアルの関係性を詮索するのも無粋やし、別に言わんでええよ。
わっちもあんまり聞かれたくないし」
笑うアセナから視線を移動させて、リノンを見つめるトウヤ。
「……リノンが参加するのを、俺に止める権利はない。だから俺も一緒に行く」
「全員参加で決まりやな」
得意そうな顔でアセナは笑った。
「ただし、俺とリノンは極力戦闘を避けて、虚無の燭台の停止と回収をする。
それでいいですよね?」
トウヤは、アセナに自分たちは戦闘要員ではないと念を押す。
「もちろんや。むしろ、そうじゃないと逆に困る。
わっちらは祭りを楽しむ側じゃなくて、祭りに冷や水をぶっかけて、おじゃんにする側でし。
もし戦闘になったらわっちが二人を守るから、安心しなんし」
「ありがとうございます。できれば俺よりもリノンを優先してもらえると助かります」
「了解でありんす」
「あと、もう一つだけ気になっていることがあるんですけど、良いですか?」
トウヤは遠慮がちに訊ねる。
「ん、なんや? 言うてみぃ」
「その言葉遣い
なんでそんな話し方を?」
「ああ、これ? これはロールプレイの一環やな。自分の想像したキャラになりきるのって楽しいやん?
もちろんリアルでは、こんなしゃべり方はせぇへんよ。ゲームの中だけ。
それと昔読んだ古書に
そんなわけで、わっちは古来からの
にししと笑うアセナ。
「よろしゅう頼んましっ!」
リノンが面白がってアセナの言葉を真似した。
「いざ、祭り会場にカチコミでし!」
アセナが音頭を取る。リノンが元気よく「おー!」と叫び。トウヤは苦笑いを浮かべた。
三人と一匹は王都アルビオンに
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