079 狼人のアセナ


「……狼人ルプス。もしかしてプレイヤーですか?」


「正解! 第2世界にネイティブの狼人ルプスは住んでおりゃんせん。

 それを知っている主はんは、物知りでありんすな。

 わっちの名前はアセナ。よろしゅう頼んまし」


「俺はトウヤ」

「私はリノン。この子はフランメリーだよ」


 リノンに紹介されてフランメリーはピィと鳴いた。


「ほう、グリフォンでありんすな。

 たしか、この辺りのグリフォンは王国騎士団に狩られたと訊いておりんすが……」


 アセナは、この場にグリフォンがいることを不思議に思っているようだ。


「運よく逃げられたんですよ。逃げた先でたまたま俺たちと出会って仲間になりました」

「それはそれは、不幸中の幸いでありんしたな」


 同情するようにアセナは深くうなずいた。


「アセナさんはどうしてここに? グリフォン狩りがあったことを知っていたみたいですけど……」

「わっちはちょっと調べ事をしておりんす」

「調べ事ですか?」

「……そう言う主はんたちも、グリフォン狩りをしに来たって感じじゃありんせんな?」


 アセナは探るような視線を向けた。表面上はにこやかだが、瞳の奥にはこちらを警戒する鋭さがある。


「俺たちも言わば調べ事ですね。

 グリフォン狩りの原因。

 王国は、グリフォンが街道の荷馬車を襲ったと言っていますが、フランメリーは心当たりがないって言ってます。

 話が食い違ってるから、変だなと思いまして」


「ほうほう、なるほどなるほど。どうやらわっちと主はんたちの目的は同じでありんすな。

 わっちも王国というか、王国騎士団の動きが妙だと思ってまし。

 ここに来る前、近くの街でちょっとばかし聞き込みを行ったでありんす。いちごクレープを食べながら。

 んでグリフォンが荷馬車を襲っていたのは間違いない事実。

 でも、ちょっと気になる話も耳にしたでし」


「気になる話ですか。それは?」


「襲撃が多発する少し前、数匹のグリフォンを連れた人間が森に入っていくのを見た。

 襲撃の様子を木の影から見ている怪しい人影を見た。

 さらに、豚を積んだ馬車が襲われた際、豚はなぜか食われなかったと。

 いったいグリフォンはなんのために荷馬車を襲っていたのやら。

 それこそ、襲うこと自体が目的だった。……そんな感じがしまへんか?」


「グリフォン狩りをするための口実を、王国騎士団が自作自演していた」


「ああ、やっぱり主はんもそう思いまし?」


 アセナは、トウヤが自分と同じ答えにたどり着いて嬉しく思っているようだった。


「王国騎士団は大量のグリフォンを欲しがっていた。

 主はんは、なんでだと思いまし?」


「グりフォン隊を増強したいのなら、堂々とやればいい。

 だけど、わざわざ裏工作したのには何か理由がある。

 ……騎士団は王国の意に反する何かをしようとしている。

 だから戦力増強を王国側に秘密にしておきたかった」


「ふむふむ、そんでそんで?」


「騎士団と王国で、意見の対立があるとすれば、それはプレイヤーとの関係性。

 王国はプレイヤーとの親交を深めたい。

 対して騎士団はプレイヤーを排除したいと考えている」


「ほうほう、主はんはほんま物知りでありんすな。

 政治情勢まで知ってるとは驚きでし。

 もしかして主はん、どっかのセブンスターズに所属してまし?」


「いや、特にそういったギルドには所属してませんね」


 トウヤはアセナの予想を否定した。


「ほなら、わっちらのギルドに入りなんし? もふもふ連合に」

「もふもふれんごう? カワイイ名前」

「そやろ?」


 リノンが反応すると、アセナは嬉しそうにうなずいた。


「もふもふ連合は獣人だけのギルド。……一応セブンスターズでありんす」

「……セブンスターズ」

「あ、わっちはこう見えても、団長でし」


 アセナは少しだけ胸を張ってみせた。


「まさかセブンスターズの団長だったとは驚きました」

「……ぜんぜん驚いたように見えへんよ。薄々感づいとったんやろ?」


「アセナさんも政治情勢に詳しいみたいでしたし。

 セブンスターズの関係者なんだろうなとは、薄っすらと……。

 でも団長だったのは、本当に驚いてます」


「威厳はないけど、親しみやすいとは良く言われまし。

 ま、団長なんて名前だけで、ただの雑用係みたいなもんでありんす。

 そんでギルド、入ってくれるんかや?」


「獣人専用のギルドですよね? 俺、人間なんですけど?」

「転生してくりゃれ」

「お断りします」


 トウヤははっきりとアセナの誘いを断った。


「あはは、はっきりと言うねぇ。わっちはそういうの嫌いじゃない。むしろ好きや。

 ……そか、残念。でも気が変わったら教えて。いつでも歓迎するでありんす」


「そもそも俺のレベルでは、セブンスターズに相応しくないですから」


「レベルの低い高いは関係ありんせん。レベルなんて遊んでれば、勝手にあがりんす。

 重要なのは、わっちと同じ目的と答えを持っていたこと。この一点。

 高レベルと低レベルでは、ゲーム世界の知識、情報量に差がある。

 同じ答えを出したとしても、情報の少ない低レベルの方が優秀でありんす。

 そういった意味で、わっちの中の主はんの評価はますます上がったでし。

 ……でも、わっちの見立てでは主はん。FP、そうやろ?」


「なぜ、そう思うんです?」


「一言でいえば雰囲気。落ち着き具合が初心者じゃないんよ。

 第2世界はプレイヤーが多い分、PKも多い。

 初心者狩りをするつまらん奴が思いのほか多くで、うんざりや。まったく。

 そんで、こんな辺鄙な場所で他のプレイヤーに遭遇したら、初心者さんは相手がPKじゃないかビクビクするのが普通。

 でも主はんは緊張してる様子もないし、すっごく落ち着いてる。

 嬢ちゃんの方は、少し緊張してるみたいやな」


「さすがはセブンスターズの団長。人を良く観察していますね」


 トウヤはアセナの鋭い観察眼に感心した。


「ファンタジアん時はPKなんてほぼおらんかったけど。アルカディアは多いなPK。

 プレイヤーが増えたことは嬉しいんやけど、その分、面倒事も増えた。

 人を観察しないと、やってられんくなったでありんす」


 アセナはしみじみと呟いた。

 慧眼スキルは、好きで身に付けたものではなく、付けざるを得なかったスキルのようだ。


「大変だったんですね」


 アセナの気苦労をひしひしと感じて、トウヤは同情した。


「わっちの懐古厨かいこちゅう発言は置いておいて、話を戻すで。

 騎士団の謎の戦力増強。

 そこから導かれる答え。主はんは何だと思いまし?」


 真剣なまなざしでアセナは、トウヤに質問した。

 その視線をトウヤはまっすぐに受け止める。

 そして、数秒の間をおいて重々しく口を開く。


「……騎士団のクーデター」

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