073 王国騎士団



「それで、バエルは何か情報を掴んでいるのか?」


 トウヤはバエルにさっそく話を訊く。


「プレイヤー殺しの主犯は、おそらくアルバート侯爵だろう」


 バエルがその名前を口にすると、フェリスは小さく息を呑んだ。

 フェリス自身も同じ人物が怪しいとにらんでいたのかもしれない。

 それを言わなかった理由は、おそらく証拠がないから。

 もしかしたら他にも理由があるのかもしれないが……。


「……アルバート侯爵。フェリスは何か知ってる?」


 トウヤの問いに、ゆっくりとフェリスは口を開く。


「ゴルバン・ハイル・ロン・アルバート。貴族派閥の実力者です。

 アルバート家は創世戦争の時代から代々、王国騎士団を指揮しています」


「なるほど、王国騎士団を率いてる人物か。

 プレイヤーが現れて一番割を食ってるのは、間違いなく王国騎士団だろうな。

 戦いにおいてはプレイヤーの方が上。

 プレイヤー犯罪に対しては自分たちだけは取り締まれない。

 騎士団の面目めんもくは丸潰れ。

 国民の信頼は騎士団から離れ、今はセブンスターズに……」


 トウヤはプレイヤー殺しの動機を推察した。

 NPCにしてみれば100年間、一切姿を現せなかったくせに、いきなり現れて我が物顔をしているプレイヤーは気に食わなくて当然だろう。


「たしかにセブンスターズはプレイヤー中心のギルドで構成されています。

 しかし、その代名詞でもある七星剣を所有しているのは、NPCです」


 フェリスが反論するように言葉を足した。

 それにバエルが補足を加える。


「聖王神器最強とうたわれる七星剣。

 それを持つのはセブンスターズ唯一のNPCギルド・ヘイムダル。

 額面上は王国騎士団と別組織となっているが、実質王国騎士団の下部組織と言っていいだろう。

 リーダー以外のメンバーは王国騎士団から派遣された人員で構成され、定期的に入れ替わる方式をとっている。

 リーダーであるアレス・シフ・ロン・アルバートはアルバート家の人間だ。

 そして、アレスはゴルバンの息子。

 最強の七星剣をNPCに持たせているのは、面目を保つため。

 人間種にしては、なかなかやるようだが実力は他の六人には及ばないと聞く」


「そんなことありません! アレスだって……」


 声を荒げたフェリスに、二人の視線が不意に向く。

 それに気付いたフェリスは気まずそうに口を閉ざした。


「アレスの肩を持つか……。

 それはNPCとしての擁護か? それとも私情か?」


「…………」


 バエルの問いに、フェリスは押し黙ってしまった。

 両方あるが、おそらく私情の方が強い。フェリスとアレスは親交が深いのだろう。

 セブンスターズの取りまとめ役と唯一のNPCギルド。関係性を考えれば当然だ。

 フェリスは国を揺るがす一大事に、私情をはさんでいたことを後悔している様子。


「今は個人の心情を無理にあばく必要はないだろ」


 トウヤはフェリスを擁護した。


「いいや、これは重要なことだ。

 もしゴルバンが主犯だった場合、その息子のアレスも共犯の可能性がある。

 作戦に私情を挟まれて、背中を刺されるのはごめんだからな」


 バエルがフェリスの覚悟を見定めるように鋭い視線を向けた。


「誰が犯人であろうと、私情を優先することはありません。

 フェリス・フィール・アリステン・エル・アルビオンの名において誓います」


 しっかりとバエルを見据えて、宣言するフェリス。

 それを聞いたバエルは満足げに笑む。


「よろしい。最悪、アレスの首をはねることになるだろう。それだけは覚悟しておけ」

「もちろんです」


 フェリスは迷いなく答えた。

 一段落付いたところで、トウヤが話を進める。


「ゴルバンが怪しいのは分かった。でもまだ犯人だという証拠がない。

 オリジナルをゴルバンが持ってるってことでいいのか?」


「アルバート家に出入りしている商人たちが、コピーをバラまいているのは間違いない。

 オリジナルが屋敷にあると私は考えている」


「そこまで分かっていながら、自分で屋敷を捜索しない理由は?

 侯爵家と言っても、常に高レベルプレイヤーが常駐してるわけでもないだろう」


 魔人であるバエルは、かなりの高レベルだ。並みのプレイヤーでは太刀打ちできないぐらいに強い。

 警備兵ぐらいなら、楽々と突破して屋敷内を捜索できる。

 高レベルプレイヤーが増援として来る前に捜索を終えれば問題ない。


「貴様は、私に強盗に入れと言っているのか?

 たしかに強行突破で捜索をすることはできる。

 しかし、間違いなく騒ぎになる。

 もし魔人が犯人だということが露呈ろていすれば、魔人への不信感が高まる。

 それはプレイヤーとの共存を願う陛下の不利益。よって、その選択肢はない」


「なるほど、それが理由か。

 自分の利益よりも魔王の利益を優先すると……」


 トウヤはつい頬を緩めた。


「なにを笑っている?」

「別に……」


 バエルの鋭い視線を軽くいなして、トウヤはフェリスに話を振る。


「フェリス。ゴルバンの屋敷を捜索する方法、何かないかな?

 警備が薄くなるタイミングとか、そういうの。なんでもいいんだけど」


「そうですね……」


 フェリスは少し考えこむと、やがて何かを思い出したように口を開く。


「そういえば、近々アルバート家でパーティーが開かれます。

 私はステラと一緒に参加する予定ですが……」


「そのパーティーに俺とバエルも参加できないかな?」


 トウヤはバエルをちらりと見た後、質問した。


「私の護衛役として一緒に入ることはできると思います」


「よし、じゃあ、俺とバエルもそのパーティーに参加する。

 俺たちは途中でパーティーをこっそりと抜け出して、屋敷内を捜索する。それでどう?」


 トウヤはバエルに訊ねた。


「……分かった」


 少し間を置いて、バエルは頷いた。


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