067 魔物の襲撃
村の入り口付近には、武装した
その集団は緊張をした面持ちで、村の入り口に弓を向けて構えている。
入り口は狭くトンネル状になっており、魔物は必ずそこを通って村へ侵入する。
魔物がトンネルを抜けた直後を狙って、一斉に矢を放ち射殺す作戦のようだ。
トウヤたちは邪魔にならないように、後方でその様子を眺めていた。
そんな三人を、後から来た
どうやら、よそ者である三人が事の元凶だと思われているようだ。
元凶はフルーツリザードの罠であり、三人ではない。
しかし、まったくの無関係とも言えず、やるせない気持ちになった。
樹皮が削れ、まるで血がにじみ出るように、樹液が足元を濡らした。
シンキはふと顔を上げる。視線の先には、ぽっかりと空いた村の入り口。
そこに赤い粒子がヒモ状になって不気味に漂っている。
それにプラスして、トウヤたちの足跡が点々と緑色に光っていた。
「……なあ? 俺たちの足跡にびびって、魔物が逃げ帰るってことはないか?」
シンキが希望的観測めいたことを呟いた。
「魔物が単体で冷静なら、牽制の効果は十分にあったと思う。
だけど、今回はその効果を期待できないかな。
おそらく、この罠には魔物を興奮させる効果がある。
冷静さを失って攻撃性の増した魔物の集団には、むしろ逆効果かもしれない」
「そっかー、そりゃ残念」
トウヤに
そこで足元が揺れていることに気付く。
「……ん? 地震か?」
「魔物たちの移動で、樹木が振動してる」
「マジかよ……」
この世界の足元は、全てが樹木でできてる。
そのため物体が一斉に動くだけで、地震のような大きな揺れが発生する。
つまり、この揺れの正体はこれから村を襲いにくる魔物たち。
揺れの大きさから数を想像して、シンキは生唾をごくりと飲み込んだ。
「来るぞ。気を引き締めろ!」
リーダー
緊張が伝染したのか、シンキはオロオロと落ち着かない様子。
「お、俺たちはどうするんだ? ここで見てればいいのか?」
「最初は見てるだけで良いと思う。
へたに手を出すと、邪魔になるだろうし。
もし
「おっけー。わかった」
シンキは少しだけ落ち着きを取り戻した。
その横では、ハルナが無言で足元を見つめていた。
集中しているというよりは、心ここにあらずといった様子だ。
ハルナは、前作ファンタジアの時に親交の深かった村を魔物たちに襲われたという辛い過去がある。そして今も、その呪縛にとらわれていると鳴海は言っていた。
もしかしたら、今の状況と昔を重ねて、思いつめているのかもしれない。
心配になったトウヤは、そっと声を掛ける。
「ハルナ、大丈夫?」
「…………」
「ハルナ?」
「……え? 何か言った?」
ハルナは二度目の声掛けで、ようやくトウヤに気付いた。
「ぼうっとしてたみたいだけど、何か考え事?」
「ああ……、うん、ちょっとね。
別に、たいしたことじゃないから気にしないで。
あとアイテム整理なんかもしてた。
よーし、これで準備OKっと。頑張ろうね」
ハルナは何かを誤魔化すように、無理やりに笑顔を浮かべた。
そして、入り口の赤い粒子がふわりと風に揺れる。
直後、トカゲのような魔物――フルーツリザードが村に侵入してきた。
目が赤く充血しており、興奮している様子が一目で分かった。
入り口を抜けて、壁に張り付きながら移動するフルーツリザード。
その体長は人間よりも大きい。
「放てッ!」
リーダーの掛け声と共に、
何十本という矢が魔物の体を突き刺した。
フルーツリザードは、一瞬のうちに絶命。力を失い落下する。
「なんだ楽勝じゃん! これなら俺たちの出番はないかもな」
あまりにも簡単に魔物を倒したことで、シンキは気を緩めた。
「気を緩めるな。まだ終わってない。次が来るぞ」
リーダー
その言葉通りに、フルーツリザードが次から次へと村に侵入してきた。
しかし、あまりにも数が多いため、数匹を取りこぼしてしまう。
取りこぼした魔物が、
そこからは乱戦が始まった。
戦闘になれた
戦闘に不慣れな
フルーツリザードは長い尾と、伸びる舌で
切られた尾は、魚のように威勢良くピチピチと足元で跳ねる。
尾の先は、何かの果実を模した形になっていた。
そして、突如その果実が破裂する。
破裂とともに中身が飛散、針状のものが近くにいた
辺りに悲鳴が轟く。
「尾の先の果実は罠だ。気をつけろ!」
その後も、魔物たちの侵攻は続いた。
トウヤたちも剣を抜き、戦闘に加勢する。
一匹一匹の魔物はそれほど強くはない。しかし、数が多い。
倒しても倒しても、次から次へとやってきて、キリがない。
怪我をして戦意を失った
そんな
戦闘区域は村の入り口から、村全域へと徐々に広がっていた。
フルーツリザードの罠が発動しているのか、あちらこちらで爆発が起こっている。
「くっそー。数が多すぎる。……助けられねぇ」
シンキが魔物を倒しながら、悔しそうに歯噛みする。
その視線の先では、
「俺たちに出来るのは、目の前の魔物を倒すことだけ。
全員は助けられない」
トウヤは魔物たちの攻撃を回避し、華麗に倒していく。
横をみると、ハルナが魔物に苦戦していた。
トウヤはハルナに加勢し、一瞬のうちに魔物を倒す。
「あ、ありがと。トウヤくん」
ハルナは気まずそうに礼を言った。
FPであるハルナにしては、動きが悪すぎる。
初心者を演じているというわけでもなさそうだ。
「どうしたの? 動きがぎこちないけど?」
トウヤは訊ねた。
「……なんだか今日は調子悪いみたい、あはは」
ハルナは誤魔化すように笑った。
入り口付近にいた魔物をすべて倒し終えて、三人は一息つく。
魔物の侵攻は収まり、時折やってくる程度になっていた。
しかし、多くの魔物が村の中に入り込んでしまった。
被害は村全体に広がり、防衛は失敗したといえる。
三人は燃える家々を見詰めて、自らの無力さに打ちひしがれていた。
そんなとき、入り口から何かの気配を感じた。
魔物が来たのかと、三人に緊張が走る。
しかし、姿を現したのは魔物ではなく、ひとりの人間だった。
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