065 猿人の隠れ里
「追いかけよう」
「ったりめーだ! とうっ!」
トウヤの言葉にすぐさま反応し、石柱から飛び降りるシンキ。
ドシンッと豪快に着地をすると、スパイクが深く足元に突き刺さった。
三人は
だが、
「うぎゃ!」
シンキが変な声をだして、その場に倒れた。
「どうした?」
トウヤが振り返って声を掛ける。
シンキは倒れたまま照れくさそうに、状況を説明をする。
「実は、スパイクがめり込んで、足がぬけねえ。あはは……」
「…………」
「…………」
トウヤとハルナは呆れた表情でシンキを見つめた。
いたたまれなくなったシンキは、慌てて言い訳をする。
「し、しかたねえだろ。高いところから飛び降りたんだし」
「わかったわかった。ハルナも引き抜くのを手伝って」
トウヤは適当にあしらいつつ、シンキの足を掴む。
「うん」
トウヤとハルナは、シンキの足を引っ張ってスパイクを引き抜いた。
「手間かけさせて、悪かったな。
さあ、追いかけるぞって、もういっちまったよな……」
辺りを見回して、諦め気味にシンキが呟いた。
辺りは自然の迷路、一度見失えば追跡はほぼ不可能になる。
数秒の遅れが追跡を致命的にしてしまった。
自分の所為で追跡ができなくなり、シンキは申し訳なさそうに肩を落とす。
そんなシンキとは裏腹に、トウヤは諦めていない様子。
「さあ、追いかけよう」
「追いかけるったって、もう無理だろ? あいつ、すばしっこかったし」
シンキの素朴な疑問に対し、トウヤは意味深な視線をハルナに向ける。
「できるよね?」
「うん、できるよ。追跡」
自信満々に頷くハルナ。
それにシンキが驚きの表情を浮かべる。
「で、できるって、どうやって?
もう影も形も、見えなくなっちまって……」
シンキの疑問に答えるように、ハルナはてのひらを見せる。
そこには円形の小さな入れ物がある。
その中にカラフルな豆粒のようなものがたくさん入っていた。
「なにこれ? お菓子?」
「これはトラッカー。分かりやすく言うと追跡用のアイテム。
入れ物が本体で、中に入ってる小さい粒が発信機。
この二つは魔法の力で結びついている。
発信機を
そう言ってハルナはトラッカー本体のボタンを指で押す。
すると、空中に光の糸がふわりと浮かび上がった。
光の糸は本体に近いほど明るく、離れるほど暗くなっている。
「え? じゃあ、この糸の先に、さっきの
「うん、そういうこと」
「さすがハルナ! よっしゃ、そんじゃ。追跡開始だ!」
シンキは嬉しそうに笑顔を見せた。
三人はトラッカーの表示する糸を辿り、森の中を進み始めた。
複雑に入り組んだ巨大樹の道。
坂道、急斜面、綱渡り。壁を登り、穴をくぐる。
時には植物のツルを使っての大ジャンプ。
まるでアスレチック遊具を遊んでいるかのような険しい道を、三人は進んだ。
そして、天然の立体迷路を抜けた先には、小さな村があった。
「ふう、ようやくゴールか?」
「村だね。おそらく
シンキの問いに、トウヤが答えた。
「まさか、こんな場所に村があるとはな。
辿りつくのにも一苦労だぜ、ったくよぉ。
なんでまた、こんな不便な場所に村なんて作るんだ?」
「隠れ里だよ」
「隠れ里?」
「外敵から身を守るために、わざと見つけにくい場所に村を作る。
大きい村なら、防衛に人員を割けるけど、小さい村だと人手が足りない。
だから、村を隠すことでその人員不足を補う。
この第4世界だと、未発見の隠れ里は割りとあるって話だね」
「なるほどな。
俺たちも
つまり、この村の第一発見者は俺たちの可能性が高い。
村の連中に、めちゃくちゃ歓迎されたらどうしよう」
シンキが何かを期待するように、ニヤリと笑顔を見せた。
「……歓迎されると良いけど」
トウヤは小さく呟き、隣に視線を向けた。
そこには村をみつめたままボーッとするハルナがいる。
もしかしたらファンタジアで魔王軍に襲撃された村のことを、思い出しているのかもしれない。
「ハルナ、どうかした?」
「……ううん、なんでもない。ちょっと考え事をしてただけ。早く行こう」
ハルナは取り繕うようにして、歩き始める。
三人が糸をたどって村の中を進むと、村人たちからの視線を浴びた。
村人は全員が
歓迎している様子はなく、むしろ警戒してる様子だ。
「あれ? なんか思ってたのと違う……」
歓迎されると思っていたシンキは、予想がハズレてとまどっていた。
隠れ里は部外者を嫌う傾向がある。それを知っていたトウヤは特に驚きもしなかった。ハルナも特に反応はしていない。
やがて三人は目的の場所に着く。そこは一軒の木造の家。
「この家だね。この中にさっきの
ハルナがトラッカーの糸を見て、最終確認を行った。
三人は無言で頷き合ってから、家に入ろうと足を進ませる。
だが、それを止める声が後ろから響く。
「動くな!」
その声を合図に、三人は全方位を武装した
「うお、な、なんだ? いきなり囲まれちまったぞ」
シンキは突然の出来事に、困惑していた。
「お前たちは何者だ? 何しにここへ来た?」
リーダーと思しき体格の良い
トウヤが一歩前にでて、その問いに答える。
「俺たちはただのプレイヤーだ。
とある
「追いかけて? なぜ追いかける?」
「俺たちが見つけた黄金の林檎を横取りされた。
だから、それを取り返しに――」
「――お、黄金の林檎だと?」
「あの、伝説の?」
「まさか?」
周囲の
「それは本当か?」
「確かめてみればいい。その家の中にあるはずだ」
トウヤが目的の家を指し示した。
「おい、ターウの家を確認しろ」
リーダー
少しして、部下と一緒に子供の
その腕の中には大事そうに抱きかかえられた黄金の林檎がある。
「ターウ、その黄金の林檎はどうした?
こいつらは、お前が横取りしたと言ってるが、それは本当なのか?」
「…………」
リーダー
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