060 積み木の城
静かな教室。
終業から時間が経ち、スケルトン騒ぎが収まった今、誰も教室には残っていない。
そんな教室で、悠斗はフランメリーと積み木遊びをしていた。
机の上に仮想オブジェクトのカラフルなブロックを思いのままに積み重ねていく。
丸、三角、四角と色々な形のブロックを組み合わせて、悠斗は立派なお城を作る。
隣の机では、てのひらサイズのフランメリーが、見よう見まねでブロックを積み重ねる。
ガタガタに積まれただけのブロック。
見栄えに関しては、悠斗のお城と天地の差があった。
しかし、フランメリーは気にする様子がない。
ただブロックを積むという行為を楽しんでいる。
自分と同じぐらいの大きさのブロックを掴み、パタパタと翼をはためかせて持ち上げる。
そして適当な位置でブロックを落下させる。
ブロックが重なることもあるが、そのほとんどはガシャンと音を立てて崩れてしまった。
悠斗はその様子を微笑ましく思いながら眺めていた。
フランメリーの積み木が何度目かの崩壊をした後、教室の扉が開かれる。
扉を開いた人物は、
鳴海は無表情でスタスタと歩き、悠斗に近づく。
「私と一緒に積み木遊びがしたかった。
それが、呼び出した理由ですか?」
鳴海は積み木の城を横目でチラリと見た後、悠斗を冷たく見下ろした。
「いや違うよ。けどそれは楽しそうだ。
せっかくだから、鳴海も一緒に遊ぶか?」
悠斗はブロックを手に乗せ、鳴海の前に差し出した。
鳴海はそのブロックをパシッと払いのける。
ブロックは乾いた音を立てて床に落ちた。
「ピィ!」
フランメリーが床に落ちたブロックを掴むと、自分のスペースに運んだ。
そして、少し乱暴に落下させる。大きめのブロックだったため、崩れることなく積み重ねることができた。
やったやったとフランメリーは嬉しそうな鳴き声を上げる。
その様子を、悠斗と鳴海は優しい笑みを浮かべて見ていた。
鳴海は自分が笑っていることに気付くと、咳払いをして再び氷のように冷たい表情を作った。
「……積み木遊びには付き合いません。さっさと本題に入ってください」
悠斗との壁を作るように、鳴海は腕組みをした。
「ああ、分かった。もう遅いし早く済ませようか。
単刀直入に、鳴海はバエルと契約をしてるよな?」
「…………」
直球の問いに、鳴海は黙り込んでしまった。
悠斗はその沈黙を肯定として受け取る。
「契約した理由は目的の一致。目的は魔王を殺すこと。
バエルは魔王を殺し、自分が次の魔王になろうとした。
そして鳴海は、魔王を殺しVAMのサービス停止を狙った。
今回の魔王にラスボス設定はされてないから、かなり難しいけど。
二人とも自分の為ではなく、誰かの為を想っての行動。
バエルは自分の世界を想って。
鳴海は月島のことを想って」
「…………」
鳴海の口は堅く閉じられていた。
「月島は今回の事件の真相を知らない感じだった。
もし鳴海とバエルの関係を知ったら、月島はどう思うかな?」
「……私を脅迫するつもりですか?」
「脅迫? そんなつもりはないよ。
月島だって、より詳しい事件のことを知りたいはず。
俺は善意で教えようとしている。
なんせ俺は鳴海の事情を知らない。知らないものは考慮できない。そうだろう?」
鳴海はしばらく黙った後、諦めたように口を開く。
「……事情を話せば、黙っていてくれますか?」
「約束は出来ない。
だけど無駄に波風を立てるつもりはない、とだけは言っておく」
「……分かりました。お話します」
悠斗の目をじっと見つめた後、鳴海は頷いた。
そして、椅子を引いて隣に腰掛けた。
そこは
散乱しているブロックを見つめながら、鳴海は机の端をそっと指でなぞり口を開く。
「春奈はあの仮想世界に、
私はただ春奈を救い出したいだけです」
「囚われている?
楽しく遊んでるように見えたけど?」
「そういえば、あなたは春奈と一緒に、冒険へ行ってましたね。
おそらくレベルが低いから、楽しく遊んでいるように見えたんでしょう。
でも、それは偽り。あれはサブアカウントです。
本来はもっともっとレベルが高い。
春奈は前作のファンタジアから遊んでいます。
ファンタジアプレイヤー、いわゆるFPです」
鳴海はどう驚いた? とでも言いたげに悠斗の顔を見た。
しかし、悠斗は春奈がFPであることをすでに見抜いており、驚くことはなかった。
「あら、驚かないんですね?」
「なんとく分かってたからね」
「それは、あなたもFPだからですか?」
「…………」
「別に、あなたに興味ないですから、答えなくても良いです。
とにかく春奈は前作のファンタジアを遊んでいた。
その頃は私もよく一緒に遊んでいました」
「え?」
悠斗は思わず言葉を漏らした。
「何を驚いているんですか?」
「いや、鳴海は仮想世界が嫌いなんだと思ってたから。ちょっと意外で」
「仮想世界は嫌いです、今は。
でも昔は今ほど嫌いではありませんでした。
現実世界で体験できないことができるのは、悪くないと思っていましたから」
「つまりファンタジアで、嫌いになる何かがあった」
悠斗の予想に、鳴海は頷き肯定する。
「私と春奈はいわゆるライトプレイヤーでした。
あのゲームの主目的は魔王を倒すこと。
ですが私と春奈はあまり戦うのが好きではなかったから、最前線で魔王軍と戦うというよりは、ファンタジア世界を旅して色々な景色を見て回って、スケッチなんかをして過ごしました。
自分たちで手作りの図鑑を作って、お互いのページ数を競ったり。
たまにレアアイテムを拾ったり、魔物に襲われて殺されたこともありましたが。
なんだかんだ楽しかったと思います」
鳴海の表情が和らぐ、きっと楽しかったことを思い出しているのだろう。
ファンタジアの戦場は、死体が山のように転がる悲惨な光景だ。
だが少し戦場を離れれば、そこには自然豊かな山々や森が広がっている。
フィールドを散歩するだけでも楽しめるが、それをするのは少数派。
大多数は魔王退治を目的にゲームをしているため、自然が綺麗かなどは気にしていない。
「スケッチをするだけなら、ファンタジアでなくても良かった。
散歩系、自然観察系VRは、他にもたくさんあります。
でもその頃の私たちは、ただスケッチをするだけに少し飽きていた。
だから、ほんのちょっと現実とは違う要素のあるVRをやろうという話になって。
そんな時に、発売されたのがファンタジアでした。
魔法や魔物の存在が新鮮で、私たちはファンタジア世界にどんどんハマっていきました」
「…………」
「ある時、山奥で小さな村を発見しました。
私たち以外にプレイヤーの姿はなく、私たちがその村の第一発見者でした。
そんなこともあって、私たちはその村に強い思い入れを抱きました。
それからは、その村を拠点にして過ごすようになります。
とても小さな村だったので、色々と人手不足のようでした。
私たちが農作業や狩りを手伝うことで、村人たちとも仲良くなり。
いつしか私たちは村の一員のようになっていました。
ファンタジアの時間は3倍速なので、だいたい二日おきに村へ訪れていましたが、それでもです」
3倍速の場合、現実世界の8時間が、仮想世界の24時間に相当する。
日中に学校や仕事のある人は、毎日ログインしたとしても、仮想世界ではだいたい二日間の時間経過が起きてしまう。
個人用VRなら時間を止めることが可能だが、VRMMOになると自分以外にもプレイヤーがいるため、時間を止めることは出来ない。
この現象を
二日飛ばしならDS2。三日と12時間飛ばしならDS3.5という。
ちなみに『ヴァルキュリー・アルカディア・ミラージュ』はARに対応しているため、時間の進みは基本的に等倍速。
だが倍速が違う世界もいくつか存在する。
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