048 デスナイト -Death Knight-



「何でもいいけどよぉ。デスナイトがこっち来てるぜ」

「ピィピィピィ!」


 滝川とフランメリーがデスナイトの接近を知らせた。


「それじゃ、みんなでデスナイトを倒そう。

 俺が注意を引き付けるから、みんなは隙を突いて攻撃してくれ」


 悠斗の言葉に、それぞれが返事をする。

 会話をしている間に、デスナイトはすぐ近くまでやってきていた。

 悠斗はデスナイトに向かって駆ける。

 デスナイトの大剣が振り下ろされが、悠斗はヒョイッと横移動して軽々と避けた。

 そのままデスナイトの後ろに回り、注意を引き付ける。


 デスナイトの大剣を受けることは出来ない。

 もし剣で受けてしまっては仮想体が弾き飛ばされてしまう。なので悠斗は大剣を回避し続ける。

 通常ならば剣を回避し続けることは難しい。だがデスナイトは体格が大きいため、動きはそれほど早くない。

 普通の人間でも動きを良く見れば回避できる攻撃速度。ならば悠斗にとっては造作ぞうさもないこと。


 悠斗が注意を引き付けている間に、滝川、シトリー、フランメリーが死角からデスナイトを攻撃する。

 だが、攻撃はあまり効いていない。

 全身を黒い鎧で包んだデスナイトの防御力は硬い。まるで動く要塞だ。


 不意にデスナイトが大剣を振り回した。

 死角から攻撃を仕掛けようとしていた三人が予想外の攻撃に吹き飛ばされる。

 悠斗は三人をフォローする形で、攻撃し注意を引く。

 このままではらちが明かないと思い、悠斗は何か方法はないかと思案する。


 ……このエリアはレベル1に強制変換される。

 なので、レベルを上げて後天的に習得した魔法は使えない。

 先天的に習得している魔法のみが使用可能。

 プレイヤーならば虹の橋ビフレスト道具箱アイテムボックスなどの初期魔法が使える。

 だが、これらは補助系魔法で、直接の戦闘には役に立たない。

 レベル1の状態で攻撃魔法を使うには、アイテムを使用する他はない。


「シトリー! 精霊草を持ってたよね? それを使おう」

「分かりました! 精霊草はたくさんあるので、遠慮なく使ってください」


 シトリーは道具箱アイテムボックスから取り出した精霊草の束をコンクリートの床にドサッと置いた。

 デスナイトの隙を見て、悠斗と滝川がいくつかの精霊草を拾って行く。


「精霊草を使って魔法攻撃か。

 これならあのデカぶつにも効きそうだぜ」


 滝川はニヤリと笑い、剣に岩石草を使用した。


「行くぜ! 脳筋ヤロウ! オラァァァァ!」


 滝川は意気揚々いきようようとデスナイトに向かって行く。

 その気合の掛け声でデスナイトの注意が悠斗から滝川に移る。


「滝川ッ!」

「――問題ねぇ。見てろ!」


 悠斗の心配する声を、滝川は一蹴する。


石柱ストーンピラー!」


 滝川が床に剣を当てる。すると床から石の柱がズズンッと生えた。

 デスナイトが大剣を振る。だが大剣は滝川には当たらない。

 石柱がその大剣を受け止めていた。

 デスナイトの怪力でも、石柱を砕くことは出来なかった。

 石柱に大剣がめり込んで、デスナイトの動きを封じている。


「ははっ! てめぇの攻撃、今度は受けきったぜ。なめんな!

 さらに! 石柱ストーンピラー!」


 ニヤリと笑みを浮かべる滝川は、自分の真下に剣先を当てて叫ぶ。

 石柱が滝川を乗せて、勢いよく足元から生える。

 その勢いに乗って滝川は大ジャンプ。デスナイトの頭上に飛んだ。


「行くぜ! ……て、あれ? なんで?

 うわああああ、しまったぁぁぁぁ!?」


 滝川は自分の間違いに気付いて叫んだ。

 石柱を使ってジャンプ攻撃をしかけようとしたのが、間違いだった。

 飛び跳ねたのは仮想体のみ。実体は仮想物の石柱には乗れない。

 実体と仮想体が石柱によって分断された。

 下に残された実体と、空中で制御を失った仮想体。

 滝川の仮想体は、空気の抜けた風船のようにへなへなとデスナイトの頭に着地した。


「……ははは、冗談だよ。ビックリしたか?

 さあ、仕切り直しと行こうぜ、な?」


 自分の仮想体を頭に乗せたデスナイトに、説得を試みる滝川。

 だが、その言葉は完全に無視される。

 デスナイトは滝川の仮想体を掴んで、フェンスの外に放り投げた。


「俺の体! やめてぇぇぇぇ!」


 滝川の声がむなしく響く。

 放物線を描いて、仮想体が屋上から落下して見えなくなる。

 もうダメだ、と滝川がひざを突いたとき、


「ピィー!」


 フランメリーが仮想体を助けて屋上に戻ってきた。


「おお! マジか! ありがとなフランメリー!

 お前は命の恩人だよぉ」


 滝川はフランメリーの元に駆け寄って体に抱きつく。

 だが、体が触れ合うことはない。

 フランメリーの巨体が滝川の体にはじかれ、スライドする。

 滝川はそのままバタンッと床に倒れた。


「ぐはッ! いってぇ。

 ……そっか、今の俺とお前は触れ合えないんだったな。

 忘れてたぜ、あはは」


 照れ笑いを浮かべる滝川に、大丈夫か? とフランメリーはピィと鳴いた。

 その様子を少し離れた場所で、悠斗とシトリーが見ていた。


「どうやら滝川の仮想体は無事だったみたいだな」

「ですね。フランメリーが間に合って良かったです」


 悠斗の言葉にシトリーが笑顔を見せた。


「それじゃ、こっちも早いところ片付けよう」


 悠斗が視線を向けると、デスナイトが大剣を石柱から引き抜いたところだった。


「私は準備万端です。いつでも行けます」


 シトリーがシルバーロッドを構える。そのロッドには、すでに火の加護が付与されていた。

 一方、悠斗の剣には風と識の加護が付与されている。


「シトリーは、隙を見てデスナイトの鎧の中に、炎波ファイアウェーブを放ってくれ。

 そうすれば、あとは俺がどうにかする」


「分かりました」

「それじゃ、よろしく」


 シトリーが頷くのを確認すると、悠斗はデスナイトに向かっていく。

 デスナイトが大剣を横薙ぎにする。


「……風衣ウィンドヴェール


 仮想剣の剣身に風の膜が形成された。


「……収束コンバージェンス


 剣身を覆っていた風の膜が一箇所に集中する。

 そして仮想剣の中央に暴風の輪を作り出した。

 デスナイトの大剣が迫る。だが悠斗は回避をしない。

 そのまま剣を構え、大剣を受ける。


「……ギリギリでいけるな」


 大剣を受け止めた悠斗は呟く。その体には仮想体が重なったままだ。

 本来ならば、大剣を受ければ仮想体が吹き飛ばされてしまう。

 だが暴風の輪が大剣の威力を弱めたおかげで、無事に受けきることができた。

 そのまま悠斗はデスナイトの注意を引く。

 以前は回避しかできなかったが、今は剣で受けることも可能。

 防御の選択肢が増え、悠斗に余裕が生まれた。


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