047 主従関係
「……バエル。お前の考えは分かる。
だがプレイヤーを憎むのは筋違い。むしろ感謝すべき存在だ」
シトリーは真剣な眼差しで訴える。
しかし、バエルは
「はははっ。プレイヤーが感謝すべき存在? どうかしている。
陛下、あなたはすでに洗脳されてしまったようですね。
残念です。改心をしていただければ、命まで取るつもりはありませんでした。
しかし、もう手遅れ。ここで死んでいただく他はないようです」
バエルがシトリーを見据える。その視線からは主君への忠義は消え去っていた。
「待て、私の話を聞け。
プレイヤーは我らの創造主、いわば神だ。
プレイヤーなくして、我らは存在できない」
シトリーは悠斗と出会い、そして世界の真理を知った。
プレイヤー自身は、自分たちが神のような存在だと当たり前に知っている。
だが仮想世界の住人、NPCたちはそのことを知らない。
そもそも自分たちの世界が作られた仮想世界だとさえ認識していない。
シトリーの言葉は、普通のNPCにとって、まさに狂人の
「なにを訳の分からないことを……。
プレイヤーが神など、ありえない。
私は何人ものプレイヤーを殺したが、神性など微塵も感じなかった。
たしかに殺しても復活する異質な存在だが。それだけのこと。
神と呼ぶなど、おこがましい」
自分の仕えていた魔王が、まさかこんなにも狂っていたのかとバエルは
「バエル。プレイヤーという言葉の意味を知っているか?
遊ぶ人、興じる人という意味だ。
プレイヤーが我らの世界を創造し、遊び場としている。
プレイヤーに遊び場としての価値なしと、判断されれば我らの世界は消滅する」
「よくそんな妄言を吐けるものだ。まさに狂人そのもの。
魔王としての
プレイヤーに
――デスナイト、やれ」
バエルが命じると巨体のデスナイトが動き出す。
「……バエル」
自分の考えが理解してもらえず、シトリーは悲しげな表情を浮かべた。
「大丈夫。説得のチャンスはまた来る。
だから、まずはデスナイトを片付けよう」
「……トウヤさん。分かりました」
シトリーは悠斗に頷いた。
重苦しい空気の中、
「私は戦闘に参加できないから、フェンスの上で見学している。
みんなは怪我をしないように頑張ってくれ」
「先輩、あとで頼みたいことがあります」
飛び立とうとするロビンに悠斗は声を掛けた。
分かったと答えると、ロビンはパタパタと翼をはためかせ、フェンスの上に移動した。
「よっしゃ! やるぜ!
スケルトンにゃ、ずいぶん世話になった。
その借りを返してやる」
滝川は気合と共に仮想剣を出現させた。
そして、デスナイトに向かって突撃する。
デスナイトは背中の大剣を構え、近寄る滝川をなぎ払う。
巨大な剣が空気を震わせ、金属同士のぶつかる音が響く。
直後、少しはなれた場所でドサっと鈍い音が微かに聞こえた。
「うお! 危ねぇ。……あれ?」
滝川は剣で、デスナイトの攻撃を防御した。
なんとか攻撃を防ぎ一安心する。だが異変に気付く。
滝川と
デスナイトの攻撃は、実体の滝川に影響を及ぼさない。
しかし仮想体の方は、攻撃を受け止めきれず吹き飛ばされてしまっていた。
デスナイトは実体の滝川を無視して、倒れている仮想体に近づく。
そして大剣を頭上に構える。
「うわああああ、ちょちょ、ちょっとタンマ!」
滝川は慌てて、自分の仮想体の元に走り寄った。
まるで幽体離脱をして、本体を置いてきてしまった魂のように。
本来なら実体の方が本体で主導権を握っているのだが、この場に置いては仮想体の方が優先度が高い。
もし仮想体が消滅すれば、今後の戦闘を指をくわえて見ていることしか出来なくなってしまう。
このエリア内では、仮想体が主役で、実体は脇役。
まるで正反対の状態になっている。
「ぐおおおおぉぉぉぉ!」
滝川は滑るように倒れ込み、自分の仮想体と体を重ね合わた。
そして、勢いに任せてぐるぐると転がる。
――ガキンっ!!
屋上の床を大剣が叩き、コンクリート片が散らばる。
綺麗な床が一瞬だけ見えたが、すぐに風化して、くすんだ色に変わった。
「あれ? どうなった? ……あ、生きてる」
滝川は仮想体を少しだけずらして、仮想体の無事を確認した。
一安心している滝川に、容赦なくデスナイトの大剣が振るわれる。
「うぎゃああああ!?」
滝川は悲鳴を上げて、大慌てでデスナイトから逃げた。
「おい、あのデスナイトやべーぞ。
スケルトンとは全然レベルがちげぇ」
逃げ帰った滝川はそう悠斗たちに報告した。
それに真顔で悠斗は返す。
「スケルトンと同じレベル1だと思う」
「いや、そうなんだが。
俺が言いたいのは、そういうレベルの話じゃねえよ」
話がかみ合わず滝川はもやもやした気持ちになった。
「ああ、そういうことね。
たしかに、あの大剣をまともに受けるのは難しい。
ステータスによる補正がないと、防御しても防ぎきれず。
滝川みたいに吹き飛ばされる」
「どうするんだよ?」
「どうするもなにも、避けるしかないと思う」
悠斗は普通のことを言うだけだった。
なにかしらのアイデアを期待していた滝川は少しだけ肩を落とした。
「大丈夫です。私がなんとかしますから」
滝川を励ますようにシトリーが口を開いた。
悠斗は首を軽く振って、優しく諭すように語る。
「シトリー、君が責任を感じているのは分かる。
だけど、一人で背負う必要はないよ。
相手の目的は君の命。
本来なら、戦闘に参加しないほうが良い」
「私も戦います! 戦わせてください」
シトリーは懇願する瞳を悠斗に向けた。
「別に俺は戦うなとは言ってない。
君が戦いたいなら、そうすれば良い。
ただし、戦うなら死ぬ可能性があると理解しておいてくれ。
このエリアはすべての仮想体のレベルを1に強制変換している。
本来の君のレベルならば、デスナイトごときに負けることはない。
レベルによるステータス補正があれば、君はデスナイト以上の力がある。
しかし、レベルが1の場合、力は純粋な肉体に依存する。
君はただの人間と変わらない。
今のこの状況そのものが、いわば魔王殺しなんだ」
「死ぬ覚悟は出来ています。
トウヤさんと契約して、この世界に来ると決めた時に」
「……そう、分かった。なら一緒に戦おう」
「はいっ」
悠斗に自分の想いが伝わり、シトリーは笑顔になった。
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