045 合流
「これで、ゆっくり話が出来るね」
悠斗は仮想剣を消しながら、滝川に振り返った。
滝川の横では、シトリーがパチパチパチと静かに拍手をしている。
これまで悠斗は弓を使った遠距離攻撃をしていた。
それはひとえに自分を撮影するカメラが無く、仮想体とのズレが起きて仕方なくのこと。
しかし、今回は滝川がカメラ役でいたため、問題なく接近戦ができた。
「おいおいおいおい、どんな手品を使いやがった!
俺がやった時は、攻撃なんてまったく効かなかったぞ?
いったい俺とお前の何が違うっていうんだ?」
呆然としていた滝川が我を取り戻し、勢い良く
「まあ落ち着いて。
それは俺が今、リアルアバターをウェア操作してるからだよ。ほら」
悠斗はリアルアバターをズラして見せた。
滝川は二人の悠斗を見て、ポンっと手を鳴らして納得する。
「なるほど!
だからスケルトンがお前に反応して、攻撃したのか。
反応したのは実体の方じゃなくて、仮想体の方だった」
「そう。実体からの攻撃はスケルトンに通じない。だけど仮想体からなら可能。
あとこのエリア内の仮想体は強制的にレベル1に変換されてる。
キャラもスケルトンもみんな等しくレベル1。
だから中級者でも油断すればやられる」
悠斗の説明を聞いて、滝川はシンキのステータスを表示させる。
「マジか? ……たしかにレベル1になってる。
気付かなかったぜ」
「レベル差があればオート戦闘でも問題ないけど。
同レベル帯でのオート戦闘は、運の要素が強すぎる。
ましてやこのエリア内で倒されれば、データが消去される。あまりにリスクが高い。
だから、俺はリアルアバターをウェア操作して、自分で戦うことにしてる。
リアルアバターならデータが消去されても、また作成できるし」
「……八神、お前頭良いな!
俺もお前のやり方を真似させてもらう。良いよな?」
「構わないよ」
悠斗の了承を得ると、滝川はシンキをログアウトさせ、リアルアバターをウェア操作し始めた。
「それで滝川、何か変わったものを見なかった?
このエリアを展開してそうな怪しい人物とか……。
おそらく今の状況を作り出しているのが、Vペット殺しの犯人だと思う」
「そうか。今のこの状況が例のVペット殺し。
良く考えれば、Vペットもこのエリア内なら殺せるな。
となると、このエリアを作り出してるのが犯人ってことか。
てっきり犯人は特別なモンスターを呼び出すもんだと思いこんでたわ」
滝川は、今の状況がVペット殺しと関連しているとは気付いていなかったようだ。
昼休みの時の被害者は一人。だが今は広範囲に何十人と被害者がいる。規模が違いすぎるため、別物だと思い込んでも仕方ない。
「わりぃが、怪しいヤツは見てない」
「そう分かった。ありがとう」
特に期待もしていなかったので、悠斗は残念がる様子を微塵も見せなかった。
ここに来た目的は自分の教室の様子を確認すること。最初から情報が得られるとは思っていない。
悠斗はチラリと教室内に視線を向けた。
教室内で戦闘していたためか、机が乱れている。
その他に変わったことはなく。表面上だけ老朽化した教室があるだけだった。
「お前、これから犯人探しするのか?」
「これからっていうか、もうしてる感じだね。
一応、第二棟は一通り回ったけど、怪しいものは見つけられなかった。
だから、第一棟に何かあると思うだよね」
「そっか、俺も一緒に行って良いか?」
滝川の申し出に、悠斗はシトリーたちに目配せする。
シトリーたちは小さく頷き、滝川の同行を了承した。
「いいよ。一緒に犯人を捕まえよう」
「よっしゃ!
ウェア操作で戦えると分かったなら、こっちのもんだ。
アイテムを偶然拾っただけの愉快犯。
アイテムを盗んだ賊の関係者。
魔王を倒してアイテムを貰ったプレイヤー、魔王殺し。
いったい、どいつが犯人なのか確かめてやるぜ」
滝川は気合と共にやる気をみなぎらせていた。
話がまとまると、廊下の奥から青い鳥がパタパタと飛んでくるのが見えた。
悠斗たちと別行動で偵察に行っていたロビンだ。
「なんだ、この青いのは?」
悠斗の手にちょこんと降り立ったロビンを、滝川は不思議そうに覗いた。
ぶしつけな視線にロビンは不機嫌そうに答える。
「青いの、とは失礼なヤツだな」
「うわあ、しゃべった。ってこれハードアバターか?」
「――汚い手で触るな。無礼者!」
滝川が興味本位で触ろうと指を伸ばすが、ロビンは羽の先でパシッと払いのけた。
「痛っ、なんだこいつ凶暴だな。
これ中身、誰が入ってるんだ?
タグの色は緑。ってことはレプリカか」
「ロボ部の
スケルトンが現れた時、部室で一緒だった。
ロビン先輩は戦えないから、別行動で偵察をしてくれてたんだ」
「八神、言いにくいんだが……。
友達はちゃんと選べ。
バカに付き合ってると、お前もバカになるぞ。
残念だが、バカになったお前を夫には出来ないからな」
ロビンは哀れみの表情で悠斗を見つめた。
「あ? 俺がバカだって?
こいつ、握りつぶしてやろうか?
レプリカなら、かわまねえよな?」
暴言を吐かれた滝川がロビンに顔を近づけて、
滝川の視線を冷めた視線で受け流すロビン。
ふたりの視線がバチバチと火花を立ててぶつかる。
このままでは、面倒くさい状況になるので、悠斗がふたりを仲裁する。
「まあまあ二人とも、じゃれ合うのは後にしてよ」
「――じゃれ合ってねーよ」
「――じゃれ合いではない」
滝川とロビンの声が仲良く重なった。
その様子がおかしくて、悠斗は思わず吹き出して笑ってしまった。
次の瞬間、睨みあっていたふたりの視線がギュンっと悠斗に向けられた。
ふたりから睨まれて、悠斗はばつが悪くなった。
ゴホンとわざとらしく咳払いをして、無理やりに話題を変える。
「それで先輩。何か見つけたんですか?」
「…………」
悠斗の質問に、しばらく無言で返すロビン。
やがて、大きなため息を吐いて口を開く。
「その通りだ八神。第一棟の屋上に怪しい仮想体がいる」
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