035 二代目魔王



「犯人が魔王? そりゃずいぶんと大物が出てきたな。

 たしかに、チートアイテムを所有している魔王なら、犯人の可能性はある。

 けどよ、仮に魔王が犯人だとして、なんの為にやってるんだ?

 Vペットを殺して、いったい何がしてーんだよ?」


 犯行には動機が必要だ。滝川は素朴な質問を投げる。

 それに悠斗はぽつりと呟く。


「普通に考えれば復讐、だな」

「復讐? なんの復讐だよ?」


「初代魔王はプレイヤーに殺された。

 二代目魔王は、初代魔王を殺したプレイヤーに恨みを持ち、プレイヤーたちに復讐しようと思った。

 この第1世界はプレイヤーと、プレイヤーに許可されたものしか存在しない。

 攻撃するならこの第1世界が最適。

 第2世界以降は、プレイヤーよりもNPCの方が多いからな」


「なるほど、愛するものを殺された悲しみを、プレイヤーたちにも味わわせてやろうって考えたのか」


 悠斗の説明に納得する滝川。

 そこに春奈が疑問をていする


「でも、おかしくない?

 もし魔王が犯人だとして、プレイヤーに復讐するなら。

 こんな田舎じゃなくて、人が多い東京を狙った方がいいと思うんだけど?」


「きっと、今は実験段階なのよ。

 いきなり大勢に見られてしまったら、噂が広まって対策されてしまう。

 本番のためのリハーサルをしてるの」


「なるほど、大量虐殺のための下準備ってか。

 うわー、やっぱ魔王って、こえぇー」


 鳴海の言葉に、滝川はブルっと体を振るわせるジェスチャーをした。


「あのー、魔王が犯人ということで話が進んでますが、私は違うと思います」


 机の上のシトリーがおずおずと言葉を発した。

 全員の視線がシトリーに落ちる。


「魔王はたしかに特別なアイテムを所有しています。

 しかし、その多くは世界再編の際に、賊に奪われて失いました。

 魔王が犯人と考えるより、偶然アイテムを拾った第三者がイタズラで犯行を行なっていると考えた方が、可能性は高いと思いませんか?」


「……たしかに、そうだな。

 魔王が犯人にしては、しょっぱい事件だしよ」


 シトリーの意見に、滝川はすぐに同意した。


「だから、本番のためのリハーサルをしてるんです」


「……怜どうしたの? なんかムキになってる。

 なんで、そんなに魔王を犯人にしたいって、思うの?

 VAMは好きじゃないって、MRしかやならないのに、なぜだか魔王に詳しいし」


「……別に、私は魔王を犯人にしてやろうとか思ってない。

 なんとなく魔王って悪い奴。だから犯人なのかって……」


 春奈の指摘に、鳴海は声を小さくして弁明した。


「VAMの第2世界以降を遊んでないなら、魔王は悪い奴だって思っても不思議じゃない。

 前作ファンタジアの時は、魔王軍を指揮して人間たちを殺しまくったからな。

 でも、VAMの二代目魔王を、悪者って思ってる人は少ないよ。

 世界が99個に分かれたから、ほとんど人間たちと争ってない。

 プレイヤーの中には、魔王城に特攻する奴がいるらしいけど、そういう奴はプレイヤーたちで結成された魔王護衛隊が城の前で追い払ってるって話だ」


「魔王護衛隊って、プレイヤーの集まりなのか?

 なんでそんなことしてんの?」


 滝川は、悠斗の話が初耳だったらしく驚いた表情を見せた。


「前作のファンタジアにトラウマがあるんだろうね。

 突然、ラスボスの魔王が倒されてゲームが終了したから。

 でもVAMにはラスボス設定がないから、魔王が倒されてもゲームが終了することはないよ」


「八神くん、ずいぶん詳しいね。もしかして前作やってたの?」


 春奈がニヤニヤしながら、悠斗に質問をぶつけた。


「少し興味があって調べたことがあっただけだよ」

「へー、そうなんだー」


 とぼける悠斗、適当な相槌を打つ春奈。

 二人の間に、なんともいえない空気が流れている。

 そんな空気を打ち消すように滝川が話をまとめる。


「まあ、八神の話を聞く限り、今の魔王は悪い奴じゃないっぽいな。

 そうすっと今回の事件、魔王が犯人って線はうすい。

 魔王をはずすと犯人候補は三人だ。

 アイテムを偶然拾っただけの愉快犯。

 アイテムを盗んだ賊の関係者。

 魔王を倒してアイテムを貰ったプレイヤー、魔王殺し」


「いつの間にか、誰かが故意にやってるって話になってるけど。

 一番可能性が高いのは、ただのバグか誤操作による勘違いだと思う」


 冷静に指摘する悠斗。


「それは分かってるよ。

 でもただのバグより、犯人探しの方がなんかワクワクするじゃん?

 それに、もし原因がバグなら、俺らには解決不能。

 運営がバグを取り除いてくれるのを指を咥えて待つしかできない。

 けど、もし犯人がいるなら、そいつを捕まえれば問題は解決だ。

 俺らにとっては犯人がいてくれた方が、都合が良い。

 そうだろ?」


「うん、まあ、そうだね」

「それで、その犯人を俺らで捕まえないか?」


 滝川は良い提案だろと目を輝かせた。

 しかし残りの三人は乗り気ではない。

 代表して悠斗が口を開く。


「ごめんパスで。

 いつ事件が起きるかも、もう一度起きるかも分からない状況で、犯人探しは無謀。

 事件現場に偶然、居合わせれば、犯人を捕まえるチャンスがあるかもしれない。

 だけど、いつどこで犯行が起きるかも、まったく予測できない今。

 俺たちに出来ることは、事件が起きることを祈って歩き回ることしかできない。

 それは時間の無駄だと思う」


「でもよ。俺達は犯人が誰かをある程度しぼりこめてる」


「それは違うよ。しぼりこめたのは犯人像であって、犯人の数じゃない。

 容疑者はこの学校の教員と生徒の全員。

 もし仮想体になって、学校外から来ていたとしたら、容疑者の数はもっと増える。

 何千、何万、何億という容疑者がいる現状は、しぼりこめたとは言えない」


「……そっか、そうだよな。

 なんか一人で盛り上がっちまったみたいで、悪かったな」


 はは、と滝川は空笑そらわらいをして場の空気が悪くなるのを誤魔化した。


「一番良いのは二度と事件が起きないことだね。

 事件が起きたら、そのときに考えれば良いよ」


 悠斗が話をまとめると、ちょうど昼休みが終わる時間になり、会話の場は自然とお開きになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る