026 二人の妹



「ゆにくん、璃乃! そこにいるの?」


 瑠花は小さな窓からミニチュアの家の中を覗き込む。

 そこには三人と一匹のグリフォンの楽しい食事風景があった。


「あー! るねちゃんだー! 窓からおっきいるねちゃんが見てる!」


 璃乃は窓を指差しながらキャッキャと楽しそうに笑った。


「おお、瑠花か。お前もこっちに来て一緒に食べるか? 結構、美味いぞ?」

「二人は小さくなって、いったいこんなところで何してるのよ?」


 トウヤの誘いを無視して、瑠花は呆れた気味に質問を投げた。


「何って、夕食だよ。VAMから来た知り合いがいるから、一緒に飯食ってる」

「VAMから来た知り合い?」


 瑠花が怪訝な表情を浮かべる。

 シトリーは立ち上がると、フランメリーを連れ立って、瑠花から見えやすい位置に移動した。


「はじめまして、私はシトリーと言います。こちらはグリフォンのフランメリーです」


「あなたたちがVAMの知り合い……。

 私は八神瑠花やがみるか。ま、よろしく。

 それより璃乃、私、お風呂入るけど、一緒に入らなくて良いの?

 先に入っちゃうよ?」


 瑠花はシトリーに軽く挨拶を返すと、璃乃へ視線を向けた。


「えー、やだー。一緒に入るー!」

「じゃあ、早くこっちに戻って来なさい」


 瑠花の呼びかけに璃乃は走り出そうとするが、その背中にトウヤが声を掛ける。


「璃乃、久々に俺と入るか?」

「……うん、入る! ゆにちゃんと一緒に入る!」


 璃乃はきょとんとした後、大きく頷いた。

 その様子に、瑠花は驚きの声を上げる。


「なっ!」

「そういうことだから、瑠花は一人で風呂行っていいぞ」


「何言ってるのよ! 璃乃はもう五年生よ。

 家族とはいえ、異性と一緒にお風呂入るのはダメ! 絶対ダメ!」


まだ・・小学生だろ? さすがに中学になったら、マズイと思うけど」

「もう高学年なんだから、ダメに決まってるでしょ!」


「そんなムキにならなくてもいいだろ?

 ここは本人の意思を尊重するべきだ。

 それで璃乃は俺と瑠花。どっちと風呂に入りたいんだ?」


 瑠花とトウヤの視線が、璃乃に向けられる。


「うーん、ゆにちゃんと、るねちゃんと三人で入りたい!」


 璃乃は少し考えた後、無邪気に答えた。

 それをトウヤは受けて、瑠花に問いかける。


「璃乃もこう言ってることだし、昔みたいに三人で入るか?」


「なっ! ば、バカなんじゃないの! 三人で入るなんてありえない。

 バカ! 変態! エッチ!」


 瑠花は顔を真っ赤にして、早口でまくし立てた。

 窓の外で瑠花の巨大な顔が吠えて、璃乃は怖いよと呟いてトウヤに抱きついた。

 トウヤは、璃乃の頭を撫でながら、瑠花をたしなめる。


「ほら、そんなに怒鳴るなよ。璃乃が怖がるだろ。

 俺たちは今、小さいんだ。こっちからすれば瑠花は巨人なんだぞ」


「……ゆにくんが、バカなこと言うのが悪いんでしょ」


 口を尖らせて瑠花は反論するが、その言葉は弱々しい。

 瑠花が静かになったところで、トウヤは再び璃乃に訊ねる。


「それで結局、璃乃はどっちと入るんだ?」

「…………。ゆにちゃん」

「それは、ダメ!」


 璃乃の答えを即座に否定する瑠花。

 口を尖らせて不満げな表情を浮かべる璃乃。

 二人を交互に見て、トウヤはどうしたものかと考え、一つの提案をする。


「璃乃は俺と入りたいが、それを瑠花がダメだと言う。

 このままだと話はいつまでも平行線だ。

 この場はゲームで決めるってのはどうだ?」


「ゲーム?」

「ゲームする。ゲームやりたい!」


 怪訝な表情を浮かべる瑠花とは対照的に、璃乃はゲームという言葉に反応してノリノリだ。


「そこそこの人数がいるし俺チームと瑠花チームに分かれて対戦しよう。

 それで璃乃がどっちと風呂に入るか決める。どうだ?」


「やるやる! 私ゲームやる!」


「……いいわ。やりましょ。

 でも、あんまり時間が掛かるものはダメ」


「わかった。ならスプラッシュSplashルームRoomでどうだ?」


 トウヤが提案する。

 MR世界では、一定の範囲内に特殊なルールを設定することができ、それを利用した様々なゲームが存在する。

 スプラッシュルームは、その中の一つだ。


「うん、それならいいわ。

 じゃあ、私も部屋に戻って仮想体になってくるね」


「別に、そのまま実体でプレイしてもいいんだぞ?」


「……うーん、みんなが小さいのに私だけ巨人ってアンフェアじゃない?

 それにハンデを貰って勝っても嬉しくないし。

 私もみんなと大きさを合わせる。

 エリアはこの部屋なんでしょ?」


「ああ、その予定だ。この部屋が嫌なら瑠花の部屋でもいいぞ?」

「ダメダメ! 私の部屋は絶対ダメ」


 物凄い勢いで拒否する瑠花。


「じゃ、決まりだな。負けても文句は言うなよ。アウェイだったから、とか」

「そっちこそ言わないでよね」


「俺は、別に勝っても負けても、どっちでも構わない。

 だからと言って、わざと負けてやらないからな」


「そんなの当たり前でしょ。手を抜いたらただじゃおかないから。

 それじゃ、私は部屋に戻って仮想体になってくる」


 そう言って瑠花は、悠斗の部屋を早足で出て行った。

 二人の会話をキョトンとした様子で聞いていたシトリーに、トウヤは視線を向ける。


「というわけで、今からみんなでゲームをすることになった」

「ゲーム、ですか?」


「ああ、チーム戦だから、シトリーとフランメリーにも参加してもらう。

 あとファム、お前もだ。人数あわせで参加してくれ」


「ユウトさま。わかりましたニャン」


 ファムは机の上に飛び乗り、窓の外に姿を現した。

 ミニチュアの家に入るには、少しサイズが大きい。

 トウヤは満足そうに頷くと説明を続ける。


「参加者はトウヤ、瑠花、璃乃、シトリー。

 あとフランメリーとファム。

 合計で六名。

 三対三に分かれて、チーム戦をする」


「いったい、何をするんですか?」


「やるゲームはスプラッシュSplashルームRoom

 床や壁にインクをぶちまけて、チームカラーにたくさん塗った方が勝ちってゲームだ」


「楽しそうですね。でも、後片付けが大変そうです」

「ゲームが終われば、元通りになる。だから遠慮はいらないよ」

「わかりました。頑張ります」


 ゲームの細かいルールをシトリーに教えながら、トウヤたちは瑠花が戻ってくるのを待った。


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