019 黒桜
「……なぜ止めた?」
トウヤは当然の疑問を口にする。
ナルメアは刀を下ろして、静かに口を開く。
「君、本当に初心者? 切られる瞬間に目をつぶらない人なんて私、始めて見たよ」
「ああ、それか。昔VR格ゲーやってたから、攻撃されると逆に目を開けるクセがあるんだ。
目を開けたままだと切りにくいっていうなら、目を閉じるけど?」
「わざわざ殺されやすいようにしてくれるなんて、君は優しいんだね。
でも、ちょっとイラついちゃった。すごく上から目線なんだもん。
まるで自分の方が強いみたいじゃん?」
「気に
「……自分の方が強いっていうのは、否定しないの?」
「否定するまでもないだろう? 俺の方が強かったら戦ってるよ」
トウヤは肩をすくめた。
ナルメアは、トウヤの言葉に納得していない様子だ。
「ふーん。それにしてもVR格ゲーか。君も私と同じ対人戦大好き人間なんだね。
同志にあえて嬉しいよ。君と本気で戦えたら、きっと楽しいんだろうな」
「レベル差がありすぎて、対戦にはならないだろう」
「ねえ本当に、レベル11なの?」
「何度聞かれても、そうだ、としか答えられない」
「そっか。でも、君をただ切るだけじゃつまらないな。ねえ少し遊ぼうよ?」
ナルメアは、何か楽しいことでも思いついたように目を輝かせた。
それに対して、トウヤの目は死んだように輝きを失っている。
「遊びなら、他でやってくれるか?」
「ふーん。そんなこと言うんだ。
君が遊んでくれないなら、女の子とグリフォン。殺すよ?」
「殺さないって、約束したはずだが?」
「ごめんね。気が変わったの。
君の、そのすかした顔を歪ませたくなっちゃった」
「良い趣味だな」
トウヤは皮肉を言って、ナルメアをにらみつけた。
「いいね。その目、ゾクゾクする」
「分かった。少し遊びに付き合うから、ふたりは見逃してくれ」
トウヤは、ナルメアから距離をとり剣を構えた。
「だから、なんで上から目線なの?
ますます君が泣き叫ぶ顔が、見たくなっちゃったよ。
あのふたりを殺せば、その顔が見えるのかな?」
「いい加減にしろよ」
「あれ? 怒った? いいね! もっと感情を出してよ。その方が倒し甲斐があるし」
「……さっさと、来いよ」
「レベル11のクセに、口だけは強そうな物言いだね」
「口だけかどうかは、すぐ分かる」
「それは楽しみ。それじゃ行くよ。一撃ぐらいは受けてね」
ナルメアは駆ける。
そしてトウヤの目の前の空間に刀を振る。
切った空間に桜エフェクトが舞った。
ナルメアは、走りながらトウヤに横薙ぎで刀を振る。
トウヤは、剣で受け流す。
後ろに回ったナルメアが、上段から振り下ろす。
トウヤは、振り向いて剣を横にして受ける準備をする。
だが刀と剣が交わる寸前に、トウヤは上に大きく飛び跳ねた。
空中で後ろ回転して、そのまま着地。
背中から突き刺そうとしていた黒い刀身を避け、ナルメアの後ろを取った。
トウヤは、ナルメアの横顔に剣を突きつけていた。
「同レベル帯なら、これで勝負ありだ」
「……どうして、私の攻撃を避けられたの?」
「今のはシンキを倒した攻撃と同じだった。
一度見ていたから、予測はできる。
桜の花びらと自分の場所を交換する移動技だろ?」
トウヤは、突きつけていた剣を下ろした。
ナルメアは振り返って、トウヤを見る。
ニヤついた笑顔は完全に消え失せていた。
「私が技を使わない可能性もあったはず」
「そうだな。あのまま上段切りをする可能性もあった」
「ならどうして? もしかして
「いや、技を使うって、分かったよ。
上段切りをするとき、君は俺を見ていなかった。
俺の後ろの花びらを見ていた。
技を使うには、自分と場所を交換する花びらを見なければならないんだろう?
上級者が戦いの最中に、相手から視線をはずすことは基本的にないから。
何かするんだと、すぐに分かったよ」
「……あは、あはははは!」
ナルメアは、突然に大笑いをしだした。
「もう満足しただろう? さっさと俺を殺して、あのふたりは見逃してくれ」
訝しみながらも、トウヤは自分の要求を再度告げた。
「満足? するわけないよ。
こんなにコケにされて、はいおしまいだって?
そんなわけないよね」
「…………」
「剣を首につきつけて、勝負ありだって?
お情けで、見逃してやる?
ちゃんと、切れよ!
本気の殺し合いをしろよ!」
ナルメアは激高する。
「今のは遊びだろ? 何を怒ってるんだ?
それに切ったとしても、ほとんどダメージは入らない」
「……君、名前トウヤだっけ?」
「ああ」
「トウヤ。私はトウヤと本気の戦いがやりたい。
遊びではなく。本気の殺し合い」
「それは無理だ。何度も言ってるけど、レベル差がありすぎる」
「いつまでも、嘘が通じると思わないで。
初心者が
いいや、できない。
トウヤ、君は
「…………」
トウヤは見事に言い当てられ閉口する。
「ねえ、今はサブアカなんでしょ?
本アカに変えてよ。そうすれば本気の戦いができるからさ」
「さあ、なんのことだ?」
トウヤは平静を保ちながら、しらを切った。
「うふふ、白々しいな。まあ、いいや。
女の子とグリフォンを殺す。これは確定ね。
トウヤを殺した後に、殺す。絶対に殺す。
殺させたくなかったら、さっさと本アカに変わってね」
「おいおい、なに一人で勘違いしてるんだ?
本アカとかサブアカとか、それはただの憶測だろう?
証拠は一つもないはずだ」
「証拠なんていらないよ。私がそう思ってる。
それだけで、十分なんだから」
「めちゃくちゃだろう」
「楽しくなってきた。
トウヤがいつ本アカに変わるのか。楽しみでしょうがない。
じゃあ、再開ね」
「まいったな……」
トウヤは肩をすくめた。
ナルメアは、お構いなしに切りかかる。
トウヤはナルメアの攻撃を剣でさばく。
周囲に桜エフェクトが散らばる。
ナルメアは時折、姿を消し視界の外から攻撃をしかける。
しかし、トウヤはそのすべてに反応していた。
「あははは、楽しい! 楽しい! 楽しい! 楽しい!」
トウヤに攻撃を防がれるたびに、ナルメアは笑顔になっていく。
「笑顔で、切りかかってくるな。不気味でしょうがない」
「あははは、だって楽しいんだもん! 早く早く本アカになってよ!」
「だから、そんなもんは、無いっての!」
トウヤの剣がナルメアの頬をかすめる。
と同時に、ナルメアの刀もトウヤの頬をかすめていた。
ナルメアはかすり傷だけで、ほぼノーダメージ。
一方のトウヤも傷は浅い。だがヒットポイントの半分以上を失っていた。
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