017 プレイヤーキラー -Player Killer-
「――ピィィィィ!?」
上空からフランメリーの鳴き声が聞こえた。
フランメリーはギリギリのところで、飛んできた
グリフォンでも、直撃すれば一撃でやられかねない程の高威力魔法。
直撃を避けたとしても、多少のダメージを受ける。
フランメリーは少しふらついたが、すぐにバランスを取り戻した。
「シトリー、ウォーグを止めるんだ。ゴブリンも止まれ」
「はい」
「ワカッタ」
トウヤの指示に従い、ウォーグは足を止めた。
「フランメリーも地面に降りるよう言ってくれ」
「わかりました。――フランメリー! 降りてきて!」
「ピィー」
グリフォンであるフランメリーが降りると、ウォーグは身を縮ませて怖がった。
しかし、それを気にしている場合ではない。
シンキは状況が分かっておらず、のんきに質問をしてくる。
「で、なんで急に止まったんだ? なにかあったのか?」
「フランメリーが攻撃された。おそらく集落に冒険者がいる。
それもかなりレベルが高い奴だ」
「え? それってまずくねーか?」
「ああ、だから――」
……俺とシンキの二人で様子を見に行く。
そう言おうとしたが、その前にゴブリンは動き出していた。
「――オレ、仲間、助ける!」
「待て! 行くな!」
トウヤの制止を無視して、ゴブリンはウォーグに乗って、集落に向かっていった。
もう一匹のウォーグも、ゴブリンの後を追って走っていく。
二匹のウォーグが走り去っていったため、トウヤたちはその場に残されてしまった。
「あーあ、行っちまった」
「俺たちも、急いで行こう」
そう言って、トウヤたちも走りだした。
ウォーグに乗って移動していた時より、かなり速度は落ちていた。
先に行ったゴブリンたちから遅れて、トウヤたちは集落に到着した。
とても静かだった。
木々の葉が、風で揺れる音だけが流れている。
空は日が落ち始め、茜色に染まっている。
とても綺麗な赤だ。
本来ならば、トウヤたちの報告を待ちわびているゴブリンたちが、騒がしくお出迎えするはずだった。
そして、魔物を追い払うことに成功したことを知って、喜び合うゴブリンたち。
そんな姿が、簡単に想像できた。
だが、その光景は永遠に失われた。
ゴブリンの集落には、ゴブリンたちの姿は一切ない。
一緒に暮らしていたウォーグも同様に。
あるのは、あちこちに落ちている赤いクリスタル。
血を凝縮したような真っ赤な色。
クリスタル一つ一つが、かつてゴブリンだったもの。
「なんだよ。……これ」
「……ひどい」
シンキもシトリーも、言葉を失っていた。
「やっと帰ってきた。私、待ちくたびれちゃったよ」
けだるそうな女の声が奥から聞こえた。
姿を現したのは着物のような和装をしている女だった。
黒を基調としたその姿は、死神を思わせた。
容姿は非常に美しく、女性的な魅力を漂わせている。
「なんだお前! お前がこれをやったのか?」
シンキが女を問いただす。その声は怒りで震えていた。
「ああ、落ちてるクリスタルのこと?
うん、私がやった。
もしかして、君たちの獲物だったのかな?
ごめんね。暇つぶしに
全部いらないから、君たちにあげるよ。
私からしたら、ゴミみたいなモノだし。拾うのめんどい」
女は近くに落ちていたクリスタルを蹴飛ばした。
その行為にシンキは怒りをあらわにする。
「てめぇ。ふざけるなよ!」
「あれ? なんか怒ってる? 私なにか怒らせることしたかな?
まだ、何もしてないと思うんだけどなー」
「ゴブリンさんたちを、どうして殺したんですか?」
シトリーが女に一歩近づき問う。
その顔はいつもの微笑ではなく、感情を消していた。
一方の女は、不敵に笑っている。
「どうしてって。ゴブリンは殺すモノでしょ?
殺す以外に、どうしろっていうの?
まさか、お友達になって仲良しになるとかって、言わないよね?」
「ここのゴブリンさんたちは、森の奥に帰る予定でした。殺す必要はなかったんです」
「予定を知ってるってことは、もしかして友達だったのかな?」
「そうです」
「へえ、すごいね。ゴブリンたちと意思疎通するなんて、びっくり。
そのグリフォンも君のお友達なんだ。
さっきは、攻撃してごめんね。てっきり野良だと思ったから。
ペットだとは知らなかったよ」
女はシトリーの後ろにいるフランメリーに視線を向けた。
その視線は、獲物を狙う獣のようにギラついている。
トウヤは、地面に足をこすりワザと音を立てて、自分に注意を向けさせた。
「最初に、待ちくたびれたって言ったよな。俺たちを待ってたのか?」
「そうそう、ゴブリン退治はついで。本命は君たち」
「俺たちになんの用だ。見たところあんたは、かなりレベルが高いようだけど」
「私の名前はナルメア。レベルはハンドレットオーバー」
ハンドレットは英語で100を意味する。
ナルメアのレベルは100以上。100から199の間。
ファンタジアの時は、プレイヤーのレベルキャップは100だった。
VAMになってレベルキャップは引き上げれて、現在は200になっている。
もしレベル200ならば
「俺はトウヤ、レベルは11だ」
「あら、可愛い」
ナルメアはクスリと笑った。
「あんたから見れば俺たちはザコだ。そんな俺たちになんの用がある?」
「端的に言うと、私
「ザコ専門なのか?」
「うふふ、結果的にそうなっちゃったね」
「俺たちはゴブリンと強さは大して変わらない。殺しても面白くないだろう」
略奪型。アイテムを奪うためにプレイヤーを殺す者。
死闘型。実力が拮抗した対人戦を楽しみたいと思う者。
快楽型。プレイヤーを殺すのが、ただ楽しいと感じる者。
復讐型。相手を恨んで、復讐をする者。
依頼型。誰かに金で依頼をされてプレイヤーを襲う者。
このナルメアはどの型のPKなのだろうか、トウヤは思考する。
まず略奪型はない。トウヤたちは初心者だ。
上級者が欲しがるアイテムを普通は持っていない。
グリフォンという珍しい魔物を仲間にしているが、グリフォンを仲間にしたのはほんの十数分前。
待ち伏せしていたナルメアは、直前までその情報を持っていなかった。
死闘型はもちろんない。レベル差がありすぎる。
ただしトウヤがサブアカだと知っているならば、可能性はある。
快楽型。これは一番可能性が高い。いわゆる初心者狩りだ。だがこれも違う。
彼女は「結果的にそうなった」と言った。つまり本意ではないのだ。
トウヤたちがどのレベル帯かを知らなかった。
例えレベルが高くても、最初から殺そうと決めていた。
復讐型。ナルメアとは初対面なのだから、一見無いように思える。
しかし初対面なのは、仮想世界の話であり、現実世界では知り合いの場合も考えられる。
その場合、ナルメアは悠斗たちと同じ学校にいる可能性が高い。
そして依頼型。間接的な復讐型とも言える。
金か、それに類する報酬でPKを依頼された。
この場合、依頼主のレベルが低いから依頼したとも考えられる。
だが、おそらく依頼主は自分の身元を隠したいのだ。
トウヤたちの知り合いの可能性が高い。
「そうだね。初心者狩りって何が面白いのか理解できないよ。
実力が拮抗した者同士の戦いの方がずっと楽しい。
そういう意味で、君たちが初心者なのはがっかり」
「じゃあ、見逃してくれないか?」
「うーん、ごめんね。それはできないんだよ」
「誰に依頼された?」
「…………」
トウヤの問いに、ナルメアは押し黙る。
おそらく図星なのだろう。
ナルメアは依頼型PK。だが彼女の本質は死闘型。
純粋に戦いを楽しんでいるプレイヤーだ。
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