process 8 気がかり
久しぶりのサーフィンを楽しんだ2人は遊泳スペースから離れ、海の家を模したフードコートにいた。
関原はソーダフロートのみ。木城は焼きトウモロコシにたこ焼き、トロピカルキャロットスムージーという対照的な配置だった。
関原は木城に教えられながら波乗りにチャレンジした。何度かやっていくうちに乗れるようになったが、木城の悪戯のせいで水を飲んでしまった。更に波にもさらわれ、水の中で回転しまくり、気分はダダ下がり状態。食欲もなくなっていた。
「酔い止めあるけどいる?」
「いや、いい。じっとしていれば収まる」
関原は木城の食いっぷりに胃もたれしそうだった。
ゆったりとしたボサノバが流れるフードコートでは、老若男女問わず飲食を楽しんでいる。さながら海の家の雰囲気が再現されており、お客店員共に水着やその上にシャツ1枚といった軽装が散見された。
こんな地下でも地上と変わらない生活をできるようにと、創意工夫を凝らす人々がいてこそ成り立っている。たった2年ほどで栄えた基地の様子は、直接建設に関わったわけじゃないが、少し感慨深いものがあった。
「ねえ」
唐突に木城が話しかけてくる。
「ん?」
木城はおしぼりで口元を拭くと、前のめりになって関原を見つめる。
関原は木城の挙動を
「浜浦所長のこと、あなた聞いてる?」
店内に流れるBGMのせいもあるが、聞こえづらい声量で尋ねる。
関原は間を置いて考えてみる。内緒話をしなければならないような心当たりはなかった。
「知らないな」
「
「おかしい?」
木城は真面目な口調で語る。
「午前中の会議に参加しなくなったり、改良
「そういえば……」
「ん?」
「あ、いや、それと関係があるか分からないが、最近浜浦所長と食堂で一緒に食事を取ったんだ。食事を終えて帰る時に、浜浦所長が突然ふらついて」
「大丈夫だったの?」
「大事にはなっていないよ。笑って大丈夫って言ってたし」
木城は姿勢を正し、頬づえをつくが、その表情は晴れやかじゃない。
「浜浦所長、どっか悪いんじゃない?」
「どこかしら悪くても不思議じゃないさ。もう70近いんだ」
関原は肩透かしを食らったと言わんばかりに気を緩ませる。
「ただの老いじゃないと思うけど……」
「そんなに心配なら聞いてみればいいじゃないか」
木城はさげすむような視線を容赦なく浴びせる。
「なんだその目は?」
「聞いたわよ。聞いたけど老体を酷使し過ぎただの、夜中にレトロゲーに白熱し過ぎただの、適当な理由ではぐらかされるのよ」
「じゃあ突っ込まなきゃいいんじゃないか。知られたくない持病があるのかもしれないし」
木城は足を組み、難しい顔をする。
「それだけならいいんだけど……」
不安はよぎるも、時間は過ぎ去る。関原も木城もやることが目の前に山積している。
楽しげな周囲の声とバカンス気分に浸れるBGMが飽和していた。青いソーダに乗る丸々と実ったアイスは、天井で太陽の光を彷彿とさせる大きな電灯の熱にうなされるように、少しずつ溶けていた。
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