process 9 クリスマスイブ
世界は時の川に流れゆく。強弱あれど波紋は起こる。生命たるもの世界が受ける波紋から逃れる術はない。悲しみもあれば喜びもあり。生命は世界と共に時の川を進む。それがこの世界に生まれし者の
世界は時の川に身を任せる以外にない。
世界は生命を育むゆりかごであり、光の守護。それ以下でも、それ以上でもない。
舵は時の流れが原則。しかし世界が
莫大なエネルギー体である世界の舵を取るのは、言うまでもなく神の領域に踏み込むも同義。世界にとって微生物に等しい個の生命では、世界の舵取りができるはずもない。
方法は1つ。生命の意思の集約により生まれし力こそ、世界を動かす力となる。
たとえ激流に呑まれようとも
基地内にも多くの人たちが希望ある未来へつなげるために日々動いている。その一助となれるよう関原も様々なオーダーをこなしていた。
今日は久しぶりの残業だった。関原は攻電即撃機保管室に出向く。今回は3台の
いつもなら2人でやる仕事だ。しかし今日は違う。12月24日、家族や恋人と過ごす日とあって、早く帰りたい人が続々と出る。今日の修繕担当で家族持ちが関原以外全員だったこともあり、今日の夜勤は1人でやることになった。
三日月を模した支軸に支えられて鎮座する大きなカプセル。それが大きな部屋の中にずらりと並んでいる。人が入れるカプセルとあってサイズは大きい。カプセル表の透明なプラスチック板が蓋となり、隊員はそこから中に入って
部屋の奥では大きなモニターにここで行われる作業予定が常に表示されていた。リアルタイムで予定を伝えてくれるため、関原が攻電即撃機保管室に入ったことで22時に入っていた修繕工事が緑に変わっていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
整備士の職員とすれ違い、挨拶を交わすと、機着子宮器を見ていく。機着子宮器の中にはカプセルのプラスチック板に故障中の文字が表示されていた。
最初にどれが故障しているのか確認した後、関原は持ってきた工具を床に置き、さっそく修繕工事に入った。
2時間後、関原はドリルドライバーを床に置く。
額の汗を拭い、立ち上がる。攻電即撃機保管室内の管理室の窓をノックする。
「修繕を終えました。動作確認をお願いします」
小さなガラス窓の奥でタブレットを見ていた技術士の男は声を出さず頷く。
関原は管理室前を離れ、攻電即撃機保管室の扉へ向かう。だがその歩みが突然止まった。関原は機着子宮器が並ぶ部屋を眺める。体を半身にし、モニターへ視線を投げる。モニターには攻電即撃機保管室で行われる整備予定表が表示されている。
すでに攻電即撃機保管室は完成し、モビリティバランスを整えるメンテナンスも終了していた。
あとはシステムの恒常性を整えるメンテナンスか、不具合の起こった機着子宮器やスーツファンクションマウントの修繕くらいなもの。それが毎日のようにある。そう記されている。
微弱な稼働音がささやき合っている。そこに靴の音が主張する。今しがた声をかけた技術士がどこかへ行こうとしていた。
「すみません」
関原に声をかけられ、足を止める。
「機着子宮器はどれくらいの頻度でメンテナンスをしてるんですか?」
「週に2、3度くらいだな。それがどうした?」
「多過ぎませんか?」
技術士の男は
「そういう設計だろ? まあここ最近は、少し増えてるけどな」
関原は難しい顔をして視線を上げる。モニターに表示される今後のメンテナンス、修繕スケジュールは、隊員の巡回に合わせられている。この寒い時期ならブリーチャーたちも活動が停滞する。
すると、関原は改まって技術士の男に向き直る。
「すみませんが、すべての機着子宮器とファンクションマウントを点検させてもらってよろしいですか?」
「はあ?」
技術士の男は
「関原、予定にない作業は原則禁止されてる。明日のスケジュールにも、隊員の巡回にも差し支える」
「迷惑はかからないようにします。スケジュールは予定通りにしてください。それと、整備部にはこちらで連絡しておきますのでお構いなく」
技術士の男は勝手なことを言う関原に呆れて舌打ちをし、攻電即撃機保管室を出て行った。
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