process 2 ネクストステップ
太陽と月が目まぐるしく顔を覗かせる日々はとうの昔のことのようだ。
地下生活が長いと、今が朝か夜かの区別をつけるのに、必ず時計やらタブレットを見なければならない。住めば都と言うが、ただ慣れてしまっただけというのが関原の感想だった。
未開地を開拓したかのような地下は、関原が予想していたよりも大規模なものだった。商業施設に学校、市役所に警察署、病院、幼稚園、福祉施設まである。
地下特有のこもりがちな空気は皆無。まだ住人が少ないこともあり、通路で見かける人々はまばらだ。しかし移住者は確実に増えている。
政府は1つのメッセージを打ち出した。
放電体質者————俗にウォーリアと呼ばれる者は、東西に建設された地下生活圏の移住を推進する。ただし、自主的な移住であることを大前提とする。
地上での生活を選択するウォーリアは、放電体質者が無意識に発している微弱な電磁波を遮蔽する物品の着用を薦める。
人権に配慮した形を取るため、防衛省管轄の地下施設に強制移住させないことにした。
一時的な保護は行うが、万全の体調の際に当事者に選択権を委ねることが法的に約束された。とはいえ、未だにウォーリアへの偏見は強く残っている。
世間の冷たい空気を感じたくないがために、地下生活を決断する者も多い。自分のためだけでなく、離ればなれになった家族のために、知人や友人のために、意を決して住み慣れた地を捨ててやってくる者もいる。
そうした悲しみや不満を口惜しくぶつけられることもよくあった。誰もが本心からこの地下施設に住みたいと思っているわけじゃない。それを肝に銘じて、当事者と接することが重要だと思い知らされた2年だった。
ウォーリアと
家電製品がよく故障するようになり、遺伝子検査に行く者。
能力を自認し、悪戯や暴力沙汰で警察の厄介になった者。
そして、ブリーチャーに狙われた者。
先月は5人の放電体質者が東防衛軍基地にやってきた。
その中で、日本特殊防衛軍の分化組織、東防衛軍の対ブリーチャー専門部隊、通称
当然、多少年齢制限を敷いているが、陸海空の自衛隊の入隊希望制限より大幅に枠を広げていた。そうでもしなければ、ただでさえ希少なウォーリア遺伝子を持つ者が早々に入隊を希望し、充分な人員を確保できなかった。
厳しい審査の下、枠を広げることにお墨付きを貰えたが、あんな化け物と戦いたいと思う物好きは簡単に集まりはしない。
始動して間もない
ブリーチャーたちも一筋縄にはいかない。数匹のブリーチャーならば新兵器の魚雷を打ち込み、沖合まで追いやれることもあるが、基本的に集団で行動するブリーチャーは、
巨大な
艦艇などの迎撃は犠牲のリスクが高過ぎるとの見解もあり、海にいるブリーチャーは、上空または設置型自動迎撃魚雷による
新たに無人艦隊を製作するようだが、果たしてどれほどの効果があるのかは定かではない。
いずれにせよ、ブリーチャーたちは日本にも牙を剥いていた。待ったなしの情勢は未だ変わらない。終息の兆しも見えず、長期戦の空気が根強くある。
安定した
課題はメカトロニクス化学総合研究所のチームだけでは対処しきれない。外部の協力機関も続々とブリーチャーの対抗策しかり、放電体質者と一般国民の間に深く刻まれた
関原も製作側に回っている。しかし
隊員の緊急出動・訓練に出向くための部屋、またそれらに必要な移送機を整備する場所を造り出す必要があった。
複数の部屋にかけて様々な役を担う機械を配置する、大がかりなシステムを構築するだけでなく、部屋を丸ごと機械の機能を付与させる計画を実行していた。
浜浦所長を始め、門谷、葉賀、古木屋、古和覇田が会議を重ね、計画を立案、作成した。予算委員会の合意も取れ、製作真っ只中にあった。
部屋に張り巡らされた足場を伝い、作業員が上り下りをしている。簡素な
昇降機にも数に限りがあり、重い物を運ぶために設置されたもの。昇降機を待っていては行列ができてしまう。建築や製造に携わることの多い者にとってはなんてことのない体力仕事だが、研究職に馴染んだ体には
関原は袖で汗を拭い、仕上がりを確認する。
天井裏の床に横たわる巨大な物体。長さもさることながら、太さも充分ある。巨大な多関節アームロボット。
多関節アームの
出来上がった多関節アームは、壁面の穴から出ている突起につなげ、吊り下げられる。大きな天井裏に並べられている姿は圧巻の一言に尽きる。
突起につなぐことにより、コンソールとの通信が可能になり、自動制御できる。
作業現場では運搬ロボットや組み立てロボットも稼動させているが、人の手がなければ進まない作業が間にあるため、スムーズな流れとはなっていない。焦らず確実にやっていこうという所長の言明もあり、落ち着いて作業していた。
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