process 4 気難しい研究者ギャル
世界の注目の的となった地球外生命体——ブリーチャーと呼ばれ始めた生物の情報は、あらゆる媒体からひっきりなしに入ってくる。
海外の
その最優先行動とは、放電体質遺伝子を有する人間を標的に奇襲をかけている、という総評だった。
この報告が世界中に発信されたことにより、様々な機関が調査を行ったところ、同じような結果が得られた。この結果から考えられることはそう難しくない。放電体質者が多くいる土地は、狙われやすくなる可能性がある。
この情報が多くの人の目に触れたことで、放電体質者を追い出そうとする既定路線が築かれてしまった。
発信元の
しかし、ブリーチャーたちが放電体質者を狙って人々が住む土地へ侵入しているデータが揃っている以上、これを現実として受け止めざるを得なかった。
人々の命と権利の狭間で揺れ動く中で、各国は選択を迫られていた。この選択が国の行く末を決めると言っても過言ではない。国内事情を
ある国は徹底的な棲み分けを行い、放電体質者の命と多くの命の両方を守るための施策を訴える。
ある国は人の間に境界のない様々な交流を保ちつつ、確固たる自衛の強化をより進める施策を訴える。
大まかに二分した施策に分けられたが、詳細な部分では中間の施策を
日本においては人々の不安を和らげる効果を狙い、全国各地に地下シェルター建設計画の一手を打った。
また、水面下で進めている放電体質者で組織する部隊の創設に向け、関原たちが通う研究所があるわけだが、昨今の情勢にあたり、大規模地下空間で新たな人々の生活圏を築く計画も立案されようとしていた。
想定している対象は、当然放電体質者となる。
まだ計画立案段階とあって、当事者に選択的余地をどこまで残すかという具体的な手続きについては、政府内で議論の最中にあった。
ただし、先に新たに創設する部隊への入隊希望者に限っては、地下空間で生活することを条件として提示することが決まり、すでに着手されている。
大規模地下空間建設は着工中であるため、メカトロニクス化学総合研究所に仮の住居として住まわせている。今日も入隊希望者が秘匿されたルートで入ってきていた。
放電体質者か否かを調べるスクリーニングテストを経た人々だけが、研究所内に初めて立ち入りを許可される。
また適正な身元証明書と健康診断書の提出を前もって要請され、立ち入りの際には厳しい手荷物検査が行われた。
すべてをパスした者は研究所内に住むにあたり、地上で生活する部外者との接触を禁じられる。その代わり、生活全般を保障される契約が交わされた。衣食住はもちろんのこと、文化的余暇活動もできるような設備も整っている。
これは大規模地下生活圏新設を見越した試験的運用も担っている。
欠伸をしながら観測管理室に向かう
ラボを受け持つ室長の中では先石が一番若かった。その分研究者として様々な目で注目されてきた。
特徴的な愛らしい猫目と左の目元のホクロ、スラリとした体型を気にするようなごく普通の感性を持ちながらも、研究に捧げる意識は他の研究者にも引けを取らない。
研究に没頭するあまり、化粧もめんどくさくなり、少々髪が乱れても気にしなくなってしまう。眠そうな顔つきからも、身なりに無頓着になっていく様が見て取れる。
部屋に足を踏み入れると、先石の姿を目にした研究員たちが一様に挨拶を投げる。
間延びした先石の挨拶が返されると共に、マジックミラーの向こうを見つめる先石に研究員が集まる。
「室長、マテリアルサイエンスラボから要請があった数種類のパッチテストのデータを送っておきました」
「ご苦労様。今から始めるところ?」
眠そうな声で確認する先石。
「はい。今準備を進めています」
確認された研究員の女性は、観測管理室と隣接する特殊な観測室の向こうに目配せして
観測室に入っていたのは、放電体質者1人と木城だった。木城はクマのあるボサボサ頭の覇気のない男性に検査の説明を行っていた。男性は小さく首肯し、理解したことを示した。
木城は男性に不審げな目を送りながら観測室を出る。検査を理解しているのか心配だったわけじゃない。
あの生気のない男性が戦場に出ようと思っていることが腑に落ちなかったのだ。身軽な体型をしているが、聴覚刺激を抑えるマイク内蔵型特製ヘッドフォンを渡す時、あきらかに手は震えていた。
入隊希望者として受け入れられる条件に、健康診断書が提出されたことは木城も知っている。しかし男性の様子は健康とはほど遠いように感じた。
健康診断書を見ていない木城には推測するしかなかった。
もし行われた健康診断が体の健康のみの検査だったとしたら、彼が入隊希望者として認可されていても問題はないのかもしれない。だとしても、何かしら身体的不調を伴うことは一般的にも周知されている。
疑念でしかない以上、どのみち憶測でしかない。今は気にする必要もないと納得し、観測管理室のドアを開けた。
観測室では、数人の研究員と先石室長が一様に観測室を見ていた。
各方面の雑誌で脚光を浴び、"ギャル准教授"という名で一時期メディアに取り上げられていた。
取材依頼をことごとく断るメディア嫌いだったこともあり、その姿が表に出るのは決まってマニアの盗撮写真などだった。不愛想な取材対応が世間を賑わせたが、彼女への興味は時間と共に薄れていった。
観測室と観測管理室はマジックミラーとなっている。観測管理室からしか隣の部屋を見ることはできない作りになっていた。
先石は鼻に手を添えてすする音を立てる。
「あ~、この部屋のにおいウンザリする」
ここ最近、観測室と観測管理室は急ピッチで改修されたばかりだった。前の部屋では充分なデータを取れないことが発覚し、更に機能的な観測室と観測管理室へと進化させていた。
観測室を見ることができるマジックミラーの前には、長机に取りつけられた操作盤と計測機器が揃っている。
操作盤の前で座る研究員たちは3名。2名の研究員が観測室に設置された観測装置の操作を行い、残る1名がマイクで指示を送っている。観測管理室の様子を眺めていると、木城の背後でドアが開く音が鳴った。
「室長」
研究員の男性が先石のところへ向かう。
「今日入所した放電体質者のバイタル、
「はいはーい。お疲れさん」
「計5名は所定の生活拠点に移送しました。電力検査の日程はどうしましょうか?」
「そうねー。明日の14時にしましょうか。あなた、調整お願い」
先石は木城に視線を振った。
「はい……」
木城は思わずため息を零したくなったが、ぐっと
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