process 8 ファーストカンファレンス
草柳から本題が発せられたにもかかわらず、みなが厳しい顔をしていた。
「パワードスーツは各分野ですでに活用されてる。陸自でも配備されているでしょ?」
髪留めで団子ヘアにした女性が疑問を呈する。
「パワードスーツ、もといアーマーランサーは陸自で採用される軍用スーツ。ブリーチャー出現に伴い、改良を施しているところです。ですが皆様には、特殊な人たちの力を最大限発揮させるスーツを開発していただきたい」
「特殊な人?」
関原は眉を寄せて呟く。
「まずは見ていただいた方がいいでしょう」
そう言うと、草柳は床を足でタップした。ゴールドの画面が床から飛び出し、宙に浮かぶ。
一面ゴールドだった画面は、枠だけをゴールドに変え、中央部に薄いグレーの膜を見せる。少しずつ精彩なビジュアルを再現し、映像となった。
画面に映し出されたのはとある一室。高い天井が設けられた白い部屋の中に1人の男が入っていく。
中年の男性隊員だろうか。ウェットスーツのようなものを身に纏っている。ヘルメットも着け、完全防備だ。
人が1人寝られる台に仰向けになると、ぞろぞろと人が集まってくる。白衣を着た人々が台に寝た男から少し離れ、何か作業をしている。頭に丸みを帯びた円柱型の機械が、男の周りを囲んで配置されていく。
「あれは?」
「
草柳は手前の老齢男性の素朴な疑問に答える。
しばらくすると、研究員らしき人たちが部屋から出ていった。
『観測を始めます』
男性の声がマイクを通して開始を告げた数秒後、台に寝かせられた男の体から激しい光が放たれた。
映像を初めて見た関原たちは、大小様々な驚きの反応をする。台に寝かせられた男は雷を放ちながら、小さく体をけいれんさせている。
青い光の電流の筋は克明に複数の筋を現しながら、一貫して天井へ向かっている。体から
「これは一体、何をしているんですか?」
しびれを切らした若い金髪の女性が疑問を投げかける。その表情には若干の疑念が垣間見られる。
「人体実験……と思われましたか?」
草柳はそう疑われることを分かっていたという風に、金髪の女性を
「この映像だけを見れば、そう思われるかもしれません。ですが、彼は我々とは異なる、特異的性質を持ち合わせていました」
「帯電体質」
小さい声ではあったが、関原の呟きは会議室の中の視線を集めるには充分な声量だった。草柳は眼光鋭い瞳を画面に戻す。
「似たような例は実際に以前から報告がありますが、ここまで電力を出せるとなると、帯電体質だけでは説明がつきません。正確には、発電細胞を持った人間、放電体質とでも言いましょうか」
「ということは……インドの少年がたった1人で化け物を4体も倒した話は、マジなのかい?」
ロン毛の男は片手を口元に添え、半信半疑で聞く。
「1人かどうかは定かではありませんが、インドの少年が政府に
草柳が画面に手を触れると、宙に浮かんでいた画面が消えた。
「同時に、日本国内でも発電細胞を持った人々を十数名確認しています。彼らには同意のもと、研究にご協力していただいております。イギリスの先進科学技術開発センターの報告によれば、彼らの放つ電撃は、現在世界で猛威を振るう地球外生命体に有効な武器になる可能性が高い。我々は彼らの能力を用いて、人食の地球外生命体に対抗する軍隊を創設するために動いています」
すると、草柳の口調が途端に歯切れの悪いものになる。
「ですが、開発部は迅速な対処を求められる現状を踏まえ、既存の武器の転用や改良に力を入れています。そのため、私たちが立案した計画に充分な人員を配置できませんでした。そこで、外部から
草柳は深々と頭を下げた。この研究に携わるということは、数々の避難を承知でやらねばならないということだ。
最低限の安全を確保している、と言えるならどれだけ楽だろうか。
未だに地球外生命体のほんの触りくらいしか分からない状況で、発電細胞を持った人間の力を使い、戦力にするための兵器を作ろうなど、どんな危険があるのか見当もつかない。
それでもなお、開発を進めようとする政府と矢面に立つ草柳に、集められた者たちは少なからず嫌悪感を抱いた。そして何より、尊敬に値する浜浦教授が、この研究の協力を承諾したことが関原には信じられなかった。
「力を貸すのは構いませんが、いくつか質問させていただけますか?」
お団子ヘアの女性は厳しい顔つきで緊張感漂う静粛な空気を打ち破る。
「なんでも聞いてください」
「では早速……」
目の下にくっきりクマを浮かばせている男は軽く手を挙げた。
「どうぞ」
「その特殊な人たちに適合し、かつ発電細胞を活かしたスーツを作製する、ということだったな?」
草柳は頷く。
「ある程度構想はあるんだろ? 今の口ぶりだと、すでに解析してるようだし」
「現在研究のためのデータを集めています。このデータを
「フ、簡単に言ってくれるね」
ロン毛の男は薄い笑みを携えて呟いた。
「攻撃性能に防御性能、そして機動性。実用の域にまで達するためには、地球外生命体に有効かどうか、または放電体質の人々の力を極限まで高めたものにする。あらゆる戦闘フィールドを想定して、製作する必要が出てくるだろう」
老齢の男性、古和覇田は長机に肘をつき、顔の前で組んだ両手をおでこにつける。
「電気を使うなら電撃が手っ取り早いだろう」
クマのある男は不気味に微笑んで椅子の背にもたれる。どこか楽しんでいるように見えなくもない。
「電撃を採用するにしても、実際に地球外生命体に使ってみないと武器として実用的か分からないですから、初めに試作のスタンガン銃などで効果を確かめた方がいいです」
お団子ヘアの女性が手首につけられたスマートウォッチに触れる。視線を落とした拍子に、右耳で片翼のピアスが揺れていた。木城は目に留めると、まじまじと見つめた。
「となると、実際に地球外生命体と相対しなければならないのだが、瞬殺されてしまうのは致し方ないだろうな」
ロン毛の男は覇気のない声で推測を述べる。
「無人機を使用すればいいでしょ。連隊で仕掛ければ攻撃を入れられるはずだし」
若い金髪の女性は長い髪を触りながら提案していたが、枝毛を見つけて顔をしかめた。
草柳は呆気に取られていた。草柳が進行する間もなく会議が始まっており、入る隙間も無くなっていた。
茫然する草柳は困惑のあまり浜浦教授に視線を投げる。浜浦教授は微笑み返すだけだった。
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