process 3 師
本日の講義を終えた関原は、ロボット工学科の研究室にいた。ノートパソコンの画面と向き合っている。
広々とした部屋の中はたくさんの物で
艶やかな黒の机が奥まったところに4つほど並んでいる。そこから3段の段差を下り、6つの机が並んだ場がある。普段学生が席に座って講義を聞いたり、実験を行ったりするところだ。
静かな研究室の中にキーボードを打つ音が響いている。教壇の近くの机で黙々と作業をしていた。部屋の端に置かれたデジタル時計は19時10分を告げる。
その時、研究室のドアが開く。
研究室の内壁に沿って長い階段が続いており、吹き抜けになっている。
関原は視線を上げ、入ってきた人を捉える。白髪の男はふんわりと微笑み、手を上げて応えた。
「やあ、関原君」
「お疲れ様です。
関原は席を立って振り向き、浜浦教授に挨拶を返すと、「ああ、いいからいいから。作業を続けて」と立ち上がろうとした関原を制する。
関原は堅苦しい態度をほどき、椅子に腰を下ろす。
「頑張るのもいいが、あまり詰め込み過ぎるなよ」
「はい」
浜浦教授は階段を下りながら関原に優しい言葉をかける。
「君たちが熱心に研究に取り組んでくれているおかげで、私は毎日が楽しいよ。この前の君の発表、シティセキュリティにおける移動監視カメラの活用は非常に面白かった」
「ですが、衛星測位システムの
関原は滑らかな指さばきでキーボードを打ちながら省みる言葉を返す。
浜浦教授は愛用する机に持っていた本を置いた。
「木城君の鋭い指摘は的を射ていたのは事実だ。しかし、アイディアとしては実用的であり、再現可能なものだったよ。IoTソリューションの応用も視野に入れていれば、可能性は未知数だった」
浜浦教授は部屋の端にある流し台へ向かい、銀色コップと円筒状の筆記用具入れに入っているコーヒースティックを1つ取る。
「君も木城君も、ロボット工学科創設史上、
コーヒースティックの端を千切り、中身をマグカップに入れる。電子ケルトからマグカップにお湯を入れた。
「君も飲むかい?」
「いえ、大丈夫です」
浜浦教授はクスリと笑みを零し、小物入れからスプーンを取り、マグカップの中をかき回す。
「君たちが未来を作っていくはずだ。私は老い先短いが、まだまだ研究したいことがたくさんある。君たちもロボット工学の新時代を築いてくれると、私は信じてるよ」
「光栄です」
関原が画面に集中したまま答えると、浜浦教授は2回頷き、あったかいコーヒーをすする。
数分、浜浦教授はコーヒーをじっくりと味わい、しばらくして深い吐息を漏らすと、研究室のホワイトボードの前にある愛用の机にマグカップを置いた。
「私はコーヒーを飲み終わったら帰るけど、君は今日も泊まるのか?」
浜浦教授はポールハンガーにかけていた自身のショルダーバッグを取る。
「いえ、1時間ほどしたら帰る予定です」
「そうか。帰りは暗いところがあるから気をつけるようにな」
関原は一旦手を止める。
「はい。ありがとうございます」
浜浦教授に視線を投げ、お礼を述べた。
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