第9話 恋人達の戯れ?

 このアキバ特区の王城には、高級官僚しか出入り出来ぬ喫茶室がある。ロココ調の雰囲気が漂う落ち着いた場所だ。

 喫茶室の奥の壁には重厚な木製のドアがあり、中は電波暗室の作りで、密議に使用されることが多い。

 ドアがノックされた。

「どうぞ」と答えるとロングスカートの気品あるメイドが深々と頭を下げ、

「夜美様がおいでです」

「いいよ。入るように言ってくれ」

「待たせた?」

 純白のワイシャツにタイトな黒のズボン姿の夜美が現れた。手に持っていた上着をメイドに手渡し、クリーニングに出すよう言った。その腰には黒鞘の日本刀が刺さっている。「いや。僕も今来たところだ。まずは一服しよう」

 僕はブルーマウンテンの珈琲を頼み、夜美はエスプレッソを頼んだ。

「悪かった。会議が長引いた」

「待ってないと言ったろ? デザートはいらないの?」

「間食はしない主義なのよ。アルゴでならいくら食べても太らないのに、習慣は変えられないわ」

 そう言って夜美はクスリと笑った。その笑顔で僕の心は晴れやかになる。

 お辞儀をして、メイドが退席した。すると夜美はテーブル越しに顔を突き出してくる。

「なに、ジロジロ見てるのよ?」

「―――いや、宝塚の男役の主人公みたいだって思ってさ」

「―――そう?」

 夜美はワイシャツを両手で摘まんで持ち上げ、小首をかしげる。愛らしい仕草だなと僕はにやけてしまう。

「……なによ?」

 そんな僕の態度に、夜美がジト目を送って来た。

「なんでもないよ。ただ、僕はモデルに恵まれたと思ってね」

「そんなの蓋を開けないと分からないわよ」

 夜美はにべもない態度で答えるのだった。


 アトリエに入り、カギをかけ、僕は夜美をデッサンしやすい場所に立たせた。

「こう、振り返りざまに木の葉を一枚切り落とすって出来る?」

「こうかしら?」

 夜美は正面を向いた立ち位置から、すらりと抜刀したかと思うと、斜め右背後の空間を斬って見せた。僕は風に舞う木の葉を夜美が確かに真っ二つにするのを見た。

「その姿勢で止まって」

 そう指示を出し、手早くデッサンする。

「今の姿勢を覚えておいてね。じゃ、脱いでくれる?」

「―――。随分と気楽に言うわね」

 そう呟きとも文句ともつかぬ口調で夜美は言うと、顔を僕から避けて、ワイシャツのボタンに指を向ける。脱ぎ終わると、近くの椅子に白いワイシャツを放り投げる。僕はドキリとした。夜美のブラジャーは白いシルクの極上品だった。僕は知らず知らず、夜美の脱衣の様子を録画していた。アルゴでは目はカメラとして使える。教えられなくても僕は本能的に録画機能を使っていた。

 夜美はズボンのベルトに手をかける。

 ズボンを脱いで現れたのは、やはり高級なシルクのパンツとガーターベルトだった。夜美のEカップのおっぱいはつんとそびえ立つロケットオッパイで、運動で鍛え上げている腹筋は縦に割れている。おしりも高くつんと挑発的に上がっている。僕は生唾を飲み込んだ。

 夜美はブラジャーのホックへ手をかける。ピンと立ったピンクの乳首が僕の目を貫く。そこで、夜美は両胸を腕で隠して、僕へ向き直ると言った。

「あなたも脱ぎなさいよ」

「―――へっ?」

「わたしだけ裸なんて不公平じゃない? あなたも裸になりなさい」

 有無を言わさぬ迫力でそう言った。

 僕がズボンを脱いで、パンツ一丁になった時、夜美はパンツも脱ぎ捨てオールヌードとなっていた。夜美は腕組みした両手で乳房を隠している。下半身はさらけ出している。恥毛が意外と濃い。燃え上がるような恥毛はその面積からして剃毛されている様子だった。 夜美は麻薬捜査官が被疑者を裸にさせているような表情で、腕組みをして、僕を見据えている。

 トランクスに手をかけて、僕は一瞬、躊躇した。

 僕の一物は夜美の裸体を見て、ギンギンと腫れ上がっているのだ。そんなもの

夜美に見せて大丈夫かと思ったのだ。

「どうしたの? 早くなさい。ギャラリーを待たせるものではないわ」

 ままよ。つっかえ棒の様な一物の抵抗を受けながら、僕はトランクスを脱ぎ捨てた。僕は性的に一番元気な十八歳だ。一物はほぼ垂直に勃起して、亀頭が臍の下の腹に当たっている。アリスお姉さんの言葉が本当なら、僕の一物は随分立派な代物らしい。

 僕は全裸で夜美に向かい合い、その瞳を見た。一物がビクンと脈打った。夜美を貫きたいと訴えているようだ。

 夜美は驚愕の表情を浮かべて、みるみる顔を赤くしていく、と思ったら、今度は青ざめ、能面の様な表情となる。

「……ダマシタナ……」

「はい?」

「よくも、騙したなぁーー!」

 夜美は素早い動作で抜刀すると斬りかかって来る。

 僕は慌てて剣風を避けた。よく避けられたものだと思う。

「騙したって、なんのことだよ!」

「勃っているじゃないか! 絵を描く時は欲情しないと言いながら―――それに、その大きさ! アルゴに特注して改造したのだろう! このゲスが!」

「サイズは標準だぁー!」僕は迫ってくる夜美から必死で逃げながら叫ぶ。このような状況でも、僕の息子はいきり勃っている。走るのに合わせて前後左右に激しく、その刺激に、僕の思いなど無視して息子はいきり勃つ。

「斬り落としてくれる!」

「どの部位をだぁーーー?」

 思わず叫んでしまう。

「だいたい、思い通り勃起させたり、小さくさせたり出来るもんじゃないいだよ! 女性の乳首と同じだ。ちょっとした刺激で勃つことだってあるんだよーーー!」

 走りながら息も絶え絶えになりながら、僕は半ば鳴き声で叫んでいた。

「―――ウソ!」

 夜美は呆然とした表情で、立ち止まり、刀を下ろしてつぶやく。

 好機だ。

「本当だよ。電波暗室モードを解くから、のりちゃんに通信で訊いてみなよ」

「……してみる」

 夜美は放心した状態で立ちすくみ、目を閉じる。首を頷かしたり、傾げたりしていた夜美は、目を開けると呆然と僕を見つめ、いきなり裸のまま土下座した。うなじから尻への美しいシルエットが否応にも目に入る。

「すいません。全て貴方の言う通りでした。むしろ、勃っていなかったら、女として見られていないから、落ち込むべきだと言われました」

「いや。問題が解決して良かったです。はい」

 恐怖から解放されて、僕は変な敬語で応じてしまった。

「それで、のりちゃんが、試させて貰えと言ったこと。確かめて良いですか?」

「いいですけど、なにをするんです?」

「ちょっと失礼するわね」

 夜美はひざまついた姿勢でじわじわと近づく。近い。近い。距離が近い。オッパイが揺れるのに気を取られていたら、右手を伸ばして、そっと僕の一物を握った。掌の柔らかさと温かさに、息子が反り返る。

「ふひやぁ~」

 情けない声が漏れた。

「わぁ! のりちゃんの言う通りだあ。また、大きくなった。凄く熱くてドクドクしてる!……えっと、優しく触って上下に動かすんだったけ?」

 夜美は僕の肉棒をしごき始めた。アリスお姉さんの責めから何とか逃れたばかりだ。たまったものではない。

「ちょっと、止めて。我慢できなくなる」

 僕は夜美の手を払い、思いっきり後ろに引いて、電波暗室のキーをかける。

「いったい、のりちゃんは何を」

「握ってみって、大きくなったらスター・ドラゴンさんは、わたしを愛してくれている。萎えたら女扱いしていない証拠になると……」

(全く、性的に未熟な夜美をからかいやがって)

 僕はのりちゃんへの怒りを感じながら、イーゼルへと戻る。

 夜美は僕の横を歩いて、先ほどの位置へと戻り、ポーズを取るが、その視線はちらちらと僕の股間へと注がれた。デッサンが終わる頃、夜美の内股は濡れて光っていた。

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