第9話 張り込み捜査は無茶苦茶大変③

「この家に取り立てに来るようになったのも唐突でしたよね?」

「そうだな。一週間前までは動きを見せてなかったはずだ。先週は竜也の部下たちが何してるかわからず都内を探し回ってたからな」


 二人の話を要約すると、やはり、借金取りたちは離婚してからは有村家の方には取り立てに来ていなかったらしい。

 取り立て要員もタダじゃない。

 お金のないところには取り立てに来たって意味がないし、収支はマイナスだ。


 うちの社長という取り立て対象がいなくなり、警察官の人たちは一時的に借金取りたちを見失っていたそうだ。


 状況が変わったのは一週間前。

 夜中、有村家に借金取りたちがやってきて、扉の前で大声で喚き散らし始めたらしい。

 110番を受けて警察が駆けつけると、借金取りたちは一斉に逃げ出し、追いかけた警察官は何故か彼らを見失ってしまったそうだ。


 状況が社長の時と一緒だったため、その時捜査にあたっていた刑事さんたちが張り込みを始めると、翌日も借金取りたちはやってきて、同じ半グレグループだとわかった。


 それから一週間。

 毎日夜中に借金取りたちはきているようだ。

 嫌がらせのように毎日だ。


 近隣の家に張り込ませてもらったり、有村家で待ち伏せをしてみたり、手を替え品を替え検挙しようとしてみたらしいが、いつもうまく逃げられてしまう。


 袋小路に追い込んだりはしているのだそうだが、何故かいつもかすみのように消えてしまう。


(それってまさか……)

「(ドンドン)借りたら返すの当たり前!」

「(ドンドン)有村美香さ〜ん。ア・リ・ム・ラ・ミ・カさ〜ん。いるのは分かってるんですよ。出てきてください!」

「今日もきやがった!」

「一体どこからアパートに入ったんだ!?」

「行きましょう!」

「はい!」


 車に乗っていたは一斉に車外に出る。

 そして、そのままの勢いであかりの家に向かって駆け出した。


「って。斉藤部長!? 起きてたんですか!?」

「あの憎らしい声が耳に入ってきたら熟睡してても跳ね起きるわよ!」


 俺は『隠密』のスキルを最大限に発動して彼らの後を追った。

 俺の予想が正しければ、もしかしたら少し出力を抑えた今の『隠密』スキルでは借金取りたちに気づかれてしまうかもしれない。


「お前ら! 今日も来やがったな!」

「げぇ! サツだ!」

「逃げるぞ!」

「待て!」


 警察官が姿を現すと、三人の借金取りは一斉に逃げ出す。

 借金取りたちは階段を上がっていく。

 上には逃げ道なんてないはずなのに。


「待てー!」


 警察官はそんな借金取りたちを追いかける。

 だが、借金取りたちは逃げ足が速く、ぐんぐん離されてしまう。


(俺にとってはどっちもそこまでは速くないけどな)


 俺は警察官たちを追い越して、借金取りたちに肉薄する。

 そして、借金取りたちの会話が聞こえてくる距離まで近づいた。


「急げ! 早くダンジョンを探せ!」

「待ってください! さっき入ってたFランクダンジョンが攻略済みになってて」

「ならEランクダンジョンでもいい。どうせモンスターとは戦わずに脱出するんだ」

「それもそうっすね」

「あ、でもDランクダンジョンはやめろよ? Dランクダンジョンだと潜った場所のすぐ近くにトラップがある場合があるから」

「ひぇ! ありました。Eランクダンジョン潜ります!」

「おぅ!」


 次の瞬間、五人ぐみの借金取りたちは忽然と姿を消した。

 俺はその場所に立ち止まる。


(間違いない。借金取りたちは探索者だ)


 借金取りたちは探索者で、ダンジョンに逃げ込んだから警察官は彼らを見失っていたのだ。

 おそらく、ダンジョンに潜って、すぐに出ることで、ダンジョン脱出直後はパーティメンバ以外から見えなくなるという保護システムを利用して、逃げおおせているのだろう。

 警察の目を掻い潜って朱莉の家の前に現れたのもどこかでダンジョンに潜って、保護が効いているうちに家の前まで移動したに違いない。


 そう考えてみると、社長のところに取り立てに来ていた時も、社員たちの視線を盗んで勝手に会社に入ってたこととかあった気がする。

 取引先の情報なんかもダンジョン脱出直後は他者から見えなくなるのを使って社内に潜り込み、資料を勝手にみたに違いない。


「くそ! また逃げられた!」


 すぐに後ろから三人の警察官が追いついてきた。

 斉藤と呼ばれていた女性の警察官がいなくなっていて、男性の警察官が一人増えている。

 確か、佐々木さんだったかな?

 この人も倒産した会社で見たことがある。


 女性警察官は朱莉のところに行ったのかもしれない。


「毎日毎日。一体どうやって逃げ切ってるんだ!」

「この辺に隠し通路でもあるんっすかね?」

「鑑識の人に探してもらったが、そんなものは見当たらなかった」

「じゃあ、このあたりの家に隠れてるってことっすか?」

「いや、そう思って、捜索してみたが、あいつらは見つからなかった」


 どうやら、いつも今みたいな感じで逃げられているらしい。

 今日、偶然探索者だけだったというわけではなく、いつも探索者の借金取りが来ており、同じ方法で逃げ仰せているということだろう。


(それならやりようもあるんだよな)


 俺は明日やることを考えながら家路についた。

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