第5話 女の子のカバンってなんでも出てくるよね①

「よっと」


 俺が一撃を加えると、敵モンスターはボフッと音を立てて煙になる。

 そして、メッセージウインドウが現れた。


――――――――――

色欲の醜鳥(E)を倒しました。

経験値を獲得しました。

報酬:177円獲得しました。

――――――――――


「サグルさん。お疲れ様です」

「ありがとう」


 京子がいつものように飲み物とタオルを渡してくれる。

 俺はそれを受け取って、飲み物で軽く口の中を湿らせた。


「サグルっちお疲れー! 次は――」

「朱莉、ちょっと待て」

「どうしたの?」


 朱莉は不思議そうに首を傾げる。


「ここまでぶっ通しだったし、そろそろ休憩しないか?」


 ダンジョンに突入してからここまでずっとバトルを続けてきている。

 一階層のモンスターは倒し尽くし、すでに、二階層のモンスターも九割方倒しきっていた。


 倒しても倒してもモンスターはポップするから、二階層でモンスターを倒しているうちに一階層のモンスターは半数くらい復活してる。

 だから、倒し過ぎてしまったのはどうでもいい。


「……」


 チラリと京子の方を見る。

 京子は結構疲れているように見える。


 戦闘系のジョブについている俺たちと違い、京子の聖女のジョブは体力を底上げしてくれない。


 もうすでに六時間以上歩きっぱなしだから体力的にキツそうだ。

 ちょっと前から急激にキツそうになってきた。


 おそらく、少し前にSPが尽きて、そこからは気合いでついてきていたのだろう。

 SPが尽きると、フィジカル的なジョブの恩恵も受けられなくなるからな。

 MPやHPが残っているから、魔法を使ったりはできるんだが。


 今日は朱莉がどんどん進むからいつもよりペースが早いし。


「ご、ごめん! キョウちゃん! 大丈夫?」

「え、平気だよ! まだまだ大丈夫!」

「絶対大丈夫じゃないじゃん。フラフラしてるよ! 休憩しよ! 休憩!」


 俺が視線を送ったことで、朱莉も京子の様子に気づいたようだ。

 焦ったように休憩を提案する。


 京子はいつものようにやる気アピールをしてくるが、どことなく元気がない。

 友人の朱莉にはそれが空元気だとわかったようだ。


 朱莉じゃなくても気づきそうだが。


「……ごめんね」


 朱莉は鞄から可愛らしい花柄のランチョンマットを取り出して通路の端に敷き、テキパキと休憩の準備をする。

 京子は少しぐったりとそのランチョンマットの上に腰を下ろす。


 朱莉もランチョンマット持ち歩いてるんだな。

 女の子の必須アイテムなのか?


「本当にごめんね」

「ううん。大丈夫だよ。ありがと」


 朱莉は鞄から取り出したうちわで京子を仰ぐ。

 そんなものまで入ってるのか。


 やっぱり女の子の鞄が異次元ポケットっていう説は本当だったのか。


「アカリちゃん。ありがとう」

「これくらいどうってことないよ」


 京子は風を受けて気持ちようにしている。

 本当に疲れてたみたいだ。


 少し頬も上気しているし、俺の予想以上に疲れてたのかも。

 よくみると、朱莉も若干汗をかいている。


 俺が思ってた以上に朱莉も疲れてたのかも。

 俺も朱莉のこと言えないな。


 よし、サービスで、二人ともに風を送ってあげよう。


「貸して、俺が煽ぐよ」

「え? サグルっちは疲れてないの?」

「俺は平気だよ」


 実際、俺は全く疲れていない。

 SPだって残っている。

 というか、京子がついてこられるレベルのスピードであれば、移動でSPが減ることはない。


 忍者のジョブの場合、戦闘でもSPを使うから、SPがなくなってたら戦闘に支障をきたす。

 やばそうだなと思ったらもっと早くに相談する。


 京子の場合、SPがなくなっても問題なく魔法が使えるので、戦闘に問題ないと思い、休憩を提案できなかったのだろう。

 いや、最後の方は朱莉も戦闘に参加していたから、いちばん運動量が少ない自分が最初にへばるわけには行かないと思ったのかもしれない。


 そんなこと気にせずに休憩の提案をしてくれればよかったのに。

 俺たちと京子ではジョブの恩恵が全然違うんだから。


「朱莉も京子の隣に座って」

「……うん」


 俺は少し強引に朱莉からうちわを受け取り、朱莉を京子の隣に座らせる。

 そして、三歩ほど下がった。


 朱莉は少し不思議そうな顔をしているが、これくらい下がらないと風が強くなりすぎてしまう。


 ではお見せしよう。忍者×NINJAのフィジカルというものを!


「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!」

「「おぉぉぉぉ!」」


 俺の発生させた風が二人に当たる。

 扇風機で言えば、強ってところだ。


 二人の髪の毛が風に靡いている。


「すずしー」

「すずしーね」


 朱莉もなんだかんだ言って、体がほてる程度には疲れていたのだろう。

 二人とも風を気持ちよさそうに受けている。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺は調子に乗って風の勢いを上げる。


「え?」

「ちょ、きゃ!」

「あ」


 強くなったかぜは京子と朱莉の髪を今まで以上に靡かせた。

 

 風によって動かされたのは髪の毛だけではない。


 風は京子と朱莉のスカートを舞いあげる。

 二人の純白とピンクのデルタが俺の目の前に……。


「「きゃぁぁぁぁぁぁ!」」

「すいませんでしたぁぁぁぁ!」


 俺はその場でジャンピング土下座を敢行した。

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