第6話 女の子のカバンってなんでも出てくるよね②
「……サグルっち。頭を上げて。わざとじゃないんっしょ?」
「誓ってわざとじゃない!」
「じゃあ、仕方ないよ。キョウちゃんもそれでいい?」
「……」
朱莉は京子の方を見る。俺がチラリと顔を上げると、京子は真っ赤な顔で俺の方を見ていた。
「見ましたか?」
「……ナニヲデショウカ?」
ここでの正解は「はぐらかす」のはずだ。
「見た」とか「見てないです」とかいうのは自白してるのと一緒だ。
俺のオタク知識がそう言ってる。
「……見てないならいいんです(見たって言ったら責任取ってもらおうと思ったのに)」
「……」
なんか、選択肢を間違えたような気もするのだが、気のせいだろうか?
いや、気のせいだよな。
ギャルゲーと違って、人生はセーブ&ロードがないのだ。
イベントスチルだけ回収してやり直すなんてできない。
もしそんなものがあったら、俺はうちわを受け取った時点まで戻ってやり直してる。
「ささ、サグルっちもたって。一緒にマットで休も?」
「えーっと失礼します」
朱莉が自分の隣をポンポンと叩きながら俺を誘ってくれたので、俺は朱莉の隣に少しだけ距離を置いて腰を下ろす。
「あー。それにしても、すごく稼げたね! もう一万円超えちゃった!」
「そうだな。百体以上倒したし、一万円は超えただろうな」
スローターかよってくらいにモンスターを倒しまくったから、すでに百体以上のモンスターを倒している。
下手したら二百体以上になってるかもしれない。
それでも、モンスターを駆逐しきれていないのだから、『殲滅者』の称号って結構レアなものだったんだな。
俺も京子も持ってるから、そこまで貴重なものだと思ってなかった。
よく考えると、俺は初回のIランクダンジョンで取得して、京子はランクアップ現象の時に取得したと言っていた。
どちらも特殊な状況だったので、普通の状況で取れるものじゃないのかもしれない。
この称号があれば、マップ上にモンスターの位置が表示されるようになるから、結構便利な称号だし、朱莉にもとらせてあげたいなと思っていたが、ちょっと無理そうだ。
「もう六時間経ったのかー。明日も同じくらい潜れば同じくらい稼げるってことだよね。土日は休みだか六時間くらい潜って、平日は放課後の三十分くらいしか潜れないだろうから、二、三千円ってところかな? 普通にバイトするより全然稼げるね」
朱莉は自分のアプリのホーム画面に出ているダンジョンに突入してからの時間を見ながらそんなことを言う。
「あれ? 言ってなかったっけ? ダンジョン内とダンジョン外で時間の進みが違うから、外ではまだ三十分ちょいしか経ってないぞ?」
「え?」
「平日の放課後ならともかく、今日はまだまだ潜りますよ? このダンジョンは攻略しちゃうつもりですし。ダンジョンボスが一番美味しいですからね」
「マジ?」
朱莉は驚いたような顔をする。
もしかしたら、伝え忘れていたかもしれない。
ダンジョン内で十時間過ごして、やっと外で一時間経過したことになる。
今六時間くらいだから、外部の時間は三十六分くらい経ったことになるのかな?
朱莉が気合い入ってたから、今日は八時集合で八時半前にはダンジョンに潜り始めたから、今は九時を少し回ったくらいということになる。
「じゃあ、一日で数万円以上稼げるってこと!?」
「いつもはここまで大量にモンスターは倒さないので。でも、最高で十万をちょっと超えたことがあります」
「十万!」
そういえば、一度だけ十万円を超えたことがあったっけ?
でも、あのときは移動せずにEランクダンジョンを攻略していたから、今は電車での移動時間がある分、そこまで稼げない。
今日はモンスターを倒しまくってるから、記録を更新できるかもしれないが。
「そういえば、これまでの最高金額は一人頭五百万だったな。」
「五百万!!」
五百万円行ったときはイレギュラーが発生していたのがいちばんの原因だったから、Cランクダンジョンくらいまで行かないと一日で五百万稼ぐなんてできないだろう。
だが、Dランクダンジョンでも一日必死に潜り続ければ百万はいくかもしれない。
「(これなら借金返済できるかもしれない)」
「ん? 何か言ったか?」
「え? なんでもないよ!」
今、一瞬朱莉が少し暗い顔をしたような気がした。
だが、朱莉の方を振り返ってみると、朱莉はいつもの明るい笑顔をしている。
俺の気のせいだったか?
「そうは言っても、ここまで稼げるのはサグルさんのおかげですけどね」
「そうなの?」
「はい。サグルさんの忍者のジョブが強いから一撃でモンスターを倒せてますけど、普通のジョブだとEランクダンジョンのモンスターを一体倒すのに十分くらいはかかります」
「ラッキーで手に入れたジョブをそんなに褒められても困るんだが」
実際、忍者のジョブはかなり強い部類に入るみたいだ。
Eランクダンジョンではレベルがほとんど上がらないのがその証拠だ。
「それに、京子の聖女もかなり強ジョブだろ。京子のバフで見習い盗賊の朱莉がEランクモンスターにダメージを与えられてたんだから」
「え? 普通はダメージ与えられないの?」
「ジョブランクがⅨとかになれば話は変わってくるけど、朱莉のジョブランクはまだⅤだろ? 普通はダメージが与えられないはずだ」
本来、見習い職はFランクが適正で、EランクはⅨかⅩの五人パーティでギリギリ挑戦できるくらいのレベルらしい。
しかも、朱莉は攻撃特化のジョブじゃない見習い盗賊だ。
普通ならダメージらしいダメージが与えられないはずだ。
それが、目に見えてわかるくらいのダメージを与えられていたということは、京子のバフがそれだけすごかったということだろう。
聖女のレベルの上がり方はNINJAよりもゆっくりなので、すくなくともNINJAよりは強いジョブなんだと思う。
「(そっか。じゃあ、一人でダンジョンに潜っても大して稼げないのか)」
「え? なんて?」
「なんでもない! そうだ! 私、クッキー焼いてきたんだ! みんなで食べない?」
「お? 食べる食べる。朱莉のクッキーは結構美味しいんだよな」
朱莉は結構な料理上手だ。
特に、お菓子系が美味しい。
俺は少しだけ心に引っ掛かるものを抱えながら、朱莉がくれたクッキーに舌鼓を打った。
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