第4話 Dランクダンジョンはトラップだらけ③
「なんだ、朱莉か」
「ははは! 驚きすぎー!」
「びっくりさせるなよ」
「本当ですよ」
話しかけてきたのは朱莉だった。
そういえば、朱莉の家もこの辺りにあるんだっけ?
京子を毎朝迎えにきてるしな。
いきなり声をかけられたのでめちゃくちゃ驚いてしまった。
「ごめんごめん。でも、前。詰めた方がいいよ」
「「あ」」
俺たちの前には人が数人入れそうなくらいのスペースが空いていた。
しかも、前の人が次の会計だ。
結構長いこと会話に夢中になっていたのだろう。
後ろに朱莉が並んでいることにも気づかなかったくらいだ。
俺たちは慌てて列を詰めた。
「すまん。助かった」
「アカリちゃん。ありがとう」
「いいよいいよ。それより、何か夢中になって話してたみたいだけど、ダンジョンGo!って何? スマホゲームの話?」
「「!!」」
俺たちは喉元まで出かかっていた「見つけたーー!!」という大声を必死で噛み殺した。
***
「すごいすごい!」
「この辺にはあまりモンスターがいないみたいだけど、あんまり遠くに行かないでくれよ」
「わかってる〜!」
朱莉はそう言って曲がり角の方まで走っていく。
ほんとにわかってるのかな?
「でも、アカリちゃんがダンジョンGo!の適合者で良かったですね」
「そうだな」
スーパーで朱莉とあった後、俺たちは朱莉を捕まえてダンジョンGo!の話をした。
最初は半信半疑、いや、三信七疑くらいの朱莉だったが、京子のススメでアプリだけはインストールしてくれた。
そして、翌日の今日、一緒に新宿の歌舞伎町へとやってきて、Eランクダンジョンに潜っているところだ。
やっぱりこの辺が一番ダンジョンが多い。
……煩悩、多そうだもんな。
「ダンジョンとか好きそうだとは思ってたが、めちゃくちゃはしゃいでるな」
「朱莉ちゃんは結構趣味が男の子っぽいですもんね」
朱莉は見た目はギャルだが、性格は結構男の子っぽい。
好きな食べ物はハンバーグとカレーだし、いつもいろいろなところを走り回っている。
確か、中学までは陸上部だったはずだ。
高校に入ってからはキッパリ辞めちゃったらしいけど。
今通ってる学校には陸上部がないらしい。
女子校だしな。
仕方ないか。
それでも、今も走るのは好きで、たまに近所の河原とかを一人で走ってるらしい。
……それにしてもはしゃぎすぎじゃないか?
「ねぇねぇ! モンスターはどこにいるの?」
「朱莉。はしゃぎたい気持ちはわかるが、一旦落ち着け」
「そうですよ。とりあえず、ジョブを設定してください」
「そうだね! 見習い盗賊にしたらいいんだっけ?」
朱莉は京子の指示に従ってジョブを設定してしまう。
「……あ」
「サグルっち? どうかした?」
「……いや、なんでもない」
無職の状態だと色々と称号が取得できるのだが、まあ、いいか。
無職じゃないと手に入らない無敵の人はそこまで有用な称号じゃないし、他の称号はジョブをセットした後でも頑張れば取得できる。
「あ! もしかして、あっちの方にモンスターがいる?」
「わかるのか?」
「うーん? 何となく?」
ジョブをセットすると、朱莉は一方の通路を指差し、モンスターがいると伝えてくる。
確かにその通路の先にモンスターがいる。
ジョブ忍者の俺ではぼんやりとしかわからないのに、朱莉は結構しっかりとあっちにモンスターがいると理解しているようだ。
やはり、朱莉の見習い盗賊は俺の忍者より探索能力が高いらしい。
これはDランクダンジョンのトラップの対策にも期待が持てそうだな。
「よし、じゃあ行こう!」
「ちょっと待った」
俺はズンズンとモンスターの方へと向かっていく朱莉の肩を掴んで止める。
「どうかした?」
「わかってるか? 朱莉。とりあえず当分は京子と一緒に後ろで戦闘を見ておくんだぞ?」
「……はーい。わかってまーす」
「……」
本当に大丈夫か?
そこはかとなく不安なんだが。
「大丈夫だって。行こ行こ!」
朱莉だって子供じゃないのだ。
多分大丈夫だろう。
もし、前に出そうなら俺が守ればいいのだ。
庇護対象が一人から二人に増えたとしても、Eランクダンジョンなら十分に対処できる。
Eランクダンジョンではトラップはないし、モンスターは一体ずつしか出てこない。
危険なものが常に一つなら、そっちの方を気にしておけばいいだろ。
念の為に、京子の方にアイコンタクトを送る。
京子も俺と同じような懸念を抱いていたのか、こくりとうなづいてくれた。
そして、すっと一歩朱莉の近くに近づく。
多分危なそうなら聖域を発動するつもりなんだろう。
京子がちゃんと対処してくれるなら、大丈夫だ。
最悪、朱莉の方だけ気にしておけば、京子は多分自分の身は自分で守れるだろう。
Eランクダンジョンにはもう潜り慣れてるしな。
「……わかった。行こうか」
「レッツゴー!」
俺たちは京子に引っ張られるようにして、モンスターのいる場所へと向かった。
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