第3話 Dランクダンジョンはトラップだらけ②
「買い忘れはないか?」
「お米、お味噌、お醤油。はい。大丈夫です」
「よし、じゃあレジに行くか」
ダンジョンを攻略して、地元に帰ってくると、ちょうど六時を回ったくらいの時間になった。
この時間はスーパーが混む時間帯だ。
仕事帰りにスーパーに寄る人が多いからだろう。
レジには長蛇の列ができている。
なんか、いつもより心なしか列が長い気がするな。
もし買い忘れがあったら、買い直すのはとても大変そうだ。
「結構時間がかかりそうだな」
「そうですね」
俺たちがレジの列に並ぶと、前には十人弱の人が並んでいた。
しかも、みんな結構な量を買い込んでいる。
中には、カートを引いて、カゴ二つにいっぱいの商品を入れている客もいる。
そのせいか、レジの進みはかなりゆっくりだ。
この感じだと、レジに辿り着くまで十分弱ってところかな?
「そういえば、今日は金曜日か」
「そうですよ」
レジが混んでいるのもみんな買う量が多いのも、多分今日が金曜日だからだ。
金曜日は土日に使う分も一緒に買おうとする人が多いから、一人一人の買う量が多い。
そのため、一人当たりの会計の時間が長くなってしまい、結果的にレジ前に長蛇の列が出来上がってしまうのだ。
会社を辞めてから一ヶ月も経っていないが、すでに曜日感覚が怪しくなってきている。
いや、会社を辞める半年前くらいから休日出勤が常態化して、曜日感覚がバグってたっけ?
アニメもサブスクリプションサービスで見るようになってから、曜日なんてあんまり気にしていないし。
「明日は土曜日だから、ずっとダンジョンに潜ってられます」
京子は気合十分という感じで拳を握る。
やる気満々みたいだ。
人の多いところでダンジョンの話を始めたが、どうせ探索者じゃない人にはダンジョンの話は理解できない。
謎技術によって、探索者以外の人が探索者同士でダンジョンの話をしているのを聞くと、ダンジョンGo!とかモンスターとかの単語が聞き取れないようになる。
話全体も靄がかかったかのようになるそうだ。
その結果、何の話をしているかわからないけど、二人で会話してるっぽいというふんわりした感じの印象を周りに与えるらしい。
ヘルプにそんなことが書かれていた。
何でも書かれてるよな、ヘルプ先生。
何の会話をしているかわからないため、緊急の用事でもなければ話しかけられることもない。
もし、探索者がいて俺たちの会話が聞き取れたとしても、相手がどれだけの実力かわからないので、話しかけてきたりはしないだろう。
俺たちも、探索者っぽい人たちがダンジョンの話をしていると思われる場面に出会したことはあるが、声をかけようとは思わなかった。
もしかしたら、全然関係ないアプリゲームの話とかしてるかもしれないしな。
実際、ダンジョンGo!の話をしてるのかなと思って耳を傾けてみると、アプリゲームの話だったってことは何度かある。
それに揉め事になったりしたら厄介だ。
探索者はダンジョン外でもジョブの力が使えるから、ちょっとした小競り合いでも大事故になりかねない。
(そんな感じだから、パーティメンバーを探すのはめちゃくちゃ大変なんだけど)
パーティメンバーを探す場合、普通は同ランクのダンジョン内で会うのを期待するか、掲示板みたいな場所で仲間を探すらしい。
それ以外となると、ダンジョンがたくさん発生する場所でそれっぽい感じの人に声をかけまくるしかない。
どちらにせよ、何らかの手段ですでに探索者をしている人を探すしかないのだ。
ケンタが京子を見つけた時みたいに、ダンジョンに関係ない人の中から適合者を見つけるっていうのは本当にレアなケースだ。
つまり、パーティメンバーを探そうと思うと、ダンジョン内をウロウロしたり、ダンジョンが発生しやすいところで人探しをする必要がある。
当然、その間はダンジョンを攻略するわけでもないので、時給も出ない。
ダンジョン内をウロウロするなら途中でモンスターを倒したりできるかも知れないが。
「……京子ってお金に困ってたっけ?」
「いえ? 毎日数万単位で稼いでますので、お金には全然困ってないですよ? 出費もそれほどないですし。サグルさんもそうですよね?」
「……そうだな」
俺と京子は同じパーティで常に同じダンジョンに潜っているので、報酬の額は同じだ。
十分に稼げているから、京子が学校に行ってるうちにダンジョンに潜ったりもしていない。
つまり、二人ともこの土日は休んでも問題ないということだ。
「……この土日は探索者を探しに行かないか?」
「斥候職の人を探すってことですか?」
「Dランクダンジョンに潜るのには必要だろ? Eランクダンジョンじゃもうレベルも上がらなくなってきたし」
「……そうですね」
俺の忍者のジョブはレベルこそ少しずつ上がっているが、いまだにランクⅡにならない。
NINJAもランクがⅡになったあたりからレベルがほとんど上がらなくなった。
最速ダンジョン踏破者の称号があるにも関わらずだ。
京子も聖女になってからほとんどレベルが上がっていないらしい。
Eランクダンジョンのモンスターでは経験値が足りないのだろう。
つまり、強くなるためにはDランクのダンジョンに潜る必要があるということだ。
現状維持でもお金には困らないが、探索者という危ない職業をやっている以上、強くなっておくに越したことはない。
(金田たちがまた来るかもしれないしな)
あれから一週間ほど経つが、金田たちはあれ以来現れていない。
諦めてくれたならそれでいいが、俺より強い探索者を仲間に加えようとしているなら厄介だ。
俺より強い探索者なんてたくさんいるだろうし、その中に金田たちみたいな半グレもいるかもしれない。
もしもの時のためにももっと強くなっておいた方がいいだろう。
「やっぱり、パーティメンバーを増やすのは気が進まないか?」
「いえ。そんなことは」
京子は仲間に見捨てられた過去がある。
だから、仲間を増やすことにあまり積極的ではない。
できれば京子があまり怖がらない女性の仲間を増やしたいな。
俺の肩身が狭くなるけど、それは仕方ない。
「そうですね。いつかは増やさないといけないですもんね。でも、どうやって探しましょう?」
「そうだな。とりあえず、歌舞伎町あたりで――」
「お二人さん」
「「うわ!」」
会話中に突然後ろから声をかけられ、俺と京子は飛び上がるようにして驚く。
振り返ると、そこには朱莉が立っていた。
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