第40話 悪党に名乗るななんてねぇよ。仕返しが怖いからな③

「うおぉぉぉぉ!!」


 最初に京子に殴りかかったのはケンタだった。

 ケンタは金田の指示で妹を襲う手伝いをさせられていた。

 明るかった妹はあの日以来部屋から一歩も出てこなくなった。

 本当は悪いのは竜也の部下になってしまった自分だと気づいているが、誰かに罪をなすりつけないとどうにかなってしまいそうだった。


「お前のせいで、お前のせいでぇぇぇぇ!!」


 続くようにケンゴの火魔法が京子に向かう。

 ケンゴもケンタのように祖母の家を窃盗に入る手伝いをさせられた。

 夜中の犯行だったが途中で祖母が起きてきてしまい、実行犯の一人がケンゴの祖母を殴り倒してしまった。

 ケンゴの祖母は今集中治療室で治療中だ。


 他の探索者たちは京子に同情していたためか、初動が遅れてしまった。

 だが、二人は元々京子に恨みを持っていたので、迷わず攻撃に出た。


 その様子を見て、金田はしまったという顔をする。

 殺してしまっては商品としての価値がなくなってしまう。


 だが、金田の制止の命令が届く前にケンタとケンゴの攻撃が京子に届いてしまう。


「「うらぁぁぁぁぁぁ!!」」

ーードン!!


 ケンタの剣が京子に突き刺さり、ケンゴの火魔法が爆炎を撒き散らしながらケンタごと京子を炎で包む。

 ケンタたちの恨みで力が上がったのか、爆発音が倉庫内に響く。


「バカが」


 相当な威力の攻撃をしたのだろう。煙で京子とケンタの姿が金田からは確認できない。


「なに!?」


 爆炎の中からケンタの驚いたような声が聞こえてくる。

 金田は何が起こったのかと訝しんだが、その答えはすぐにわかった。


 爆炎の中から出てきたケンタの剣は一本の丸太に深々と突き刺さっていた。


「木遁・身代わりの術」

「!! 誰だ!」


 金田は声のした方に振り向く。


「悪党に名乗る名前なんてねぇよ。仕返しが怖いからな」


 そこには、京子を抱き抱えた黒ずくめの男が立っていた。


◇◇◇


「京子、大丈夫か?」

「はい。サグルさんがずっとそばにいてくれましたから」


 俺は朱莉から連絡を受けて、すぐに行動に移った。

 どこに行けばいいか分からなかったので、一瞬途方に暮れそうになったが、プライベートダンジョンのことを思い出した。


 プライベートダンジョンは脱出の際、自分が元いた場所と同じプライベートダンジョンの管理者がいる場所の二種類が選べる。

 俺はそれを思い出すと、すぐにプライベートダンジョンに潜り、京子のいるところに脱出した。

 予定通り、京子がのせられたバンに脱出することはできた。

 なぜか車の屋根の上に出たので、しばらくの間、ハリウッド映画のように屋根の上に張り付いて走行する羽目になったが。


 ただ、これは良かった点もある。

 車の中にいきなり出現すれば間違いなく見つかっただろうが、屋根の上なので誰にも気づかれなかった。

 おかげで、どうして京子が攫われたのか調べることができた。

 今後同じことが起きないようにどうしてこうなったのか調べる必要があったからな。


 敵さんがペラペラと詳細を喋ってくれたので、状況もちゃんとわかったし。


(しかし、京子の親が関わっているとは。これは少しめんどくさそうだ)


 どうやら、今回の誘拐事件には京子の親も関わっているらしい。

 最近、毒親という話は聞くことがあるが、ここまで酷い親がいるとは思わなかった。


 これは、当分の間は学校の送り迎えとかもした方が良さそうだな。

 車でも買うか?

 営業で使うから、免許は持ってるんだよな。


「今日のサグルさん。すごく忍者っぽかったです」

「そうか?」


 俺はできるだけ明るく京子に応える。

 忍者っていうより、NINJAって感じだったけどな。


 車の上に転送されたので、車が信号で止まった隙に俺は隠密のスキルを使って姿を隠し、車の中に潜入した。

 そして、中にいる一人を昏倒させて入れ替わったのだ。

 その時、忍者で手に入れたけど、全然使ってなかった『変化』のスキルを使った。

 京子にもその時に助けに来たと教えた。

 変化で声まで変わっちゃったから、信じてもらうまで少し時間がかかったが、しばらくすると、信じてくれたらしく、だいぶ落ち着いたみたいだった。


(即席メンバーだったのか、誰にも気づかれなかったしな)


 変化のスキルで変えられるのは見た目だけだ。

 性格や行動までは模倣できない。


 いや、ある程度は模倣できるのだが、それには相手の観察が不可欠となる。

 バンの中の一瞬でそこまで観察することは不可能だった。


 だが、京子をさらったメンバーたちはそこまで仲が良くなかったのか、一人入れ替わっても気づかなかった。

 そのためこうして、アジトまで障害がなく来られたということだ。


「ふ、ふふふ。かっこよく助けに来たつもりかもしれませんが、無駄な抵抗はやめた方がいいですよ? この場所の周りには私の奴隷がたくさん配置されています。逃げられると思っているんですか?」

「そんなのやってみないとわからないだ、ろ?」


 俺は京子を降ろすと、一気にケンタのそばまで移動する。


「な! 瞬間移動」

「普通に走っただけだ、よ!」

「がは!」


 俺としてはできるだけ早く動いただけのつもりだったが、ケンタにはみえなかったらしい。

 俺はケンタを裏拳で吹き飛ばす。

 ケンタは吹き飛んでいき、壁にめり込む。


 よし、生きてるな。


「げぇ!! ケンタ!」

「お前もだ!」

「ごぼはぁ!」


 次にケンゴの下へと移動し、できるだけ手加減してアッパーを叩き込む。

 ケンゴは天井に突き刺さり、ぴくぴくと震えるアートに変身した。


 こっちも生きてそうだ。


「な、なぁ!」

「ちょっと手加減が難しそうだが、なんとか殺さずに対処できそうだな」

「お前ら! 何してる! こいつを殺せ!!」

「!!『火球ファイアーボール」「『斬撃』」「『水球ウォーターボール』」「『突進』」


 金田の周りにいた探索者が一斉に俺に向かって攻撃をしてくる。


(遅いな。Eランクダンジョンのモンスター以下だ)


 探索者たちの攻撃はEランクのモンスターよりもゆっくりに見える。

 これなら回避するのは簡単だ。


 俺は火球を紙一重でかわし、剣での攻撃を弾き返す。

 水球の軌道を曲げて火球とぶつけて相殺し、突進の攻撃はそのまま壁へと突っ込ませた。


「さて、さっさと終わらせますか」


 俺が探索者たちを全員昏倒させるまで一分もかからなかった。

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