第39話 悪党に名乗る名なんてねぇよ。仕返しが怖いからな②

「ついたぞ」

「……」


 車が止まると、被せられていた袋が京子から取り払われる。


 京子が連れてこられた場所はどこかの廃倉庫だった。

 今が夕方なせいもあってか、すごく不気味に見える。


「降りろ。逃げようとしたって無駄だからな」

「……」


 京子は返事をせずに車の外に出る。

 車の外に出ると、京子の逃げ場を塞ぐように五人の男が立った。


 京子はの男からできるだけ距離を取るように立ち位置を少し変える。


「こっちだついてこい」


 先導する男の後についていくと、古い倉庫に案内された。


 倉庫の中には電気がついており、胡散臭いスーツ姿の男が高級そうな椅子に座っていた。


「ようこそ。お待ちしてましたよ」


 その男は椅子に座ったまま大袈裟に両手を広げて京子に対して歓迎を示す。

 京子は眉を顰めるが、男は気にする様子を見せない。


「初めまして、矢内京子さん。私は金田 ハジメと申します」

「……」

「おや、ダンマリですか。悲しいですね」


 金田は大袈裟な手振りで嘆く。

 嘘くさい様子から、本気で悲しがっている様子は窺えない。


 京子は警戒心をさらにあげた。


「まあ、立ち話もなんですから、座ってください」


 そう言って、金田は自分の目の前に置かれた貧相な椅子を指す。

 この椅子に座れということなのだろう。


 正直、汚くて、地面に座ったほうがマシなように見える。


「結構です。早く帰りたいので、用件を早く言ってください」

「そ、そうですか。あなたには仕事をしてもらいたいんです。なーに、簡単な仕事です。その上、報酬はたんまりでる。マージンとして私たちも一部いただくことになりますが、どうです? 受けていただけますか?」

「お断りします」

「はぁ?」


 京子が断りを告げると、男は本気で驚いたような顔を見せる。

 この男はあんな要求を京子が飲むと思っていたのだろうか?


「こ、断ると言われましてもね。私たちは京子さんのお母様から京子様に働いてもらう了承は得ているのですよ」

「!!」


 流石の京子もショックを受けた。

 あんなのでも母親だ。

 京子にこんな酷い仕打ちをするとは思っていなかった。


 京子は全身の力が抜けるかのような感覚を受け、その場で倒れそうになる。

 金田はそんな京子の様子を見て、勝利を確信したかのように笑みを見せる。


「……」


 その時、倒れそうになった京子の背中に、京子の後ろに立っていた男が誰からも見えない角度で手を添えた。

 その手から、熱が流れ込んでくるかのように、京子に力が戻っていく。


 京子はしっかりと立ち直った。


「お受けいただけますか?」

「いえ。お断りします」

「ッ!! このっ!」


 金田は激昂しそうになるが、一度深呼吸して、怒りをおさめる。

 まあ、片眉毛がぴくぴくしており、怒りが抑えきれていなかったが。


「……し、仕方ありませんね。それなら力尽くでやるしかないようです。出てこい!」


 金田が声をかけると、物陰から数十人の男がのっそりと姿を現す。

 男たちは手に手に武器を持っており、全員、結構な手だれに見える。


「!! ケンタ! ケンゴ!?」

「「キョウコ」」


 出てきた男たちの中には、一週間前に京子を見捨てたケンタとケンゴの二人がいた。


「おや、お知り合いですか?」

「「……」」

「ケンタ。『答えろ』」

「はい。こいつと昔一緒にパーティを組んでダンジョンに潜ってたんです」


 ケンタが金田の問いに答えると、金田が渋面を浮かべる。

 相手が探索者だと厄介だとでも思ったのだろう。


「ジョブは?」

「見習い僧侶です」

「……なるほど。なるほどなるほど」


 金田は京子が見習い僧侶と聞いて安心したような顔をうかべる。

 そして、何かに得心が行ったように何度もうなずいた。


「見習い僧侶ですか。回復系の職業ですね。だから私の『隷属化』の効果が薄かったんですね。しかし、見習い職でも弾くとは。相性の問題でしょうか? 回復系のジョブの相手にスキルを使うのは初めてなので、盲点でした」

「隷属化?」

「そうですね。せっかくなので教えてあげましょう。私も探索者で『奴隷商人』のジョブについているんですよ。彼らは私のスキルを使って作った奴隷です」


 金田がそう自慢そうにいうと、ここにいる探索者たちは金田の方を睨みつける。

 今にも金田に殴りかかりそうな様子だ。


 だが、誰一人動くことはない。

 金田に隷属しているというのは本当なのだろう。


「私のスキルで言うことを聞かせられないなら仕方ないですね。力ずくでいうことを聞いてもらうしかありません。あまり商品が傷つくのは望ましくないのですが、私の奴隷にはいませんが、知り合いに僧侶のジョブの探索者がいます。死なない程度の魔法や打撲であれば彼に治してもらえば大丈夫でしょう」

「こんな場所で魔法スキルを使うことはできないんじゃないですか? ほとんどが魔法使い系のジョブに見えますが」


 出てきたものたちはほとんどが杖のような形状の武器を持っている。

 おそらく、魔法使い系のジョブなのだろう。

 魔法使い系のジョブはフィジカル面より魔力などのファンタジー方面の力が伸びる。

 彼らをここに呼んだ意味はないように思える。


「おやおや、知らないんですか。ダンジョンGo!の効果はスキルなんかにも適用されるんですよ。火魔法は自然発火扱いになるし、水魔法は水漏れ事故として処理される。警察がどれだけ調べてもね」

「!!」

「どうです? 私に隷属する気になりましたか? 今ならまだ許してあげますよ? お仕事だって、気持ちいいことをしてお金をもらうだけの簡単な仕事です。あなたも見習い僧侶なら、探索者がどれだけ強いか知っているはず。ここにいる探索者たちに袋叩きにされるのは嫌でしょう?」

「お断りします」

「そうですか。残念です。……やれ」


 金田が指示をすると、探索者たちは一斉に京子の方に襲いかかってきた。

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サポーター向けに限定ノートを公開しました。

今まで出たダンジョンについての情報をまとめただけの物です。

読まなくて大丈夫でかつあったら便利なも乗ってなかなか難しかったので、こういう物を出してみました。

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