第7話 もしかして、俺の体、改造されちゃってる?①

「……Eランクダンジョンでもなんとかなりそうだな」


 Eランクダンジョンに突入して、数回戦闘をこなしてみたが、特に問題は感じない。

 『暗殺』スキルが決まれば一撃で終わるが、決まらなくても五、六回攻撃を決められればモンスターは倒せる。

 一度攻撃を喰らってみたのだが、ちょっと痛いが動けなくなるほどでもないくらいだった。

 称号『無敵の人』のおかげというのもあるかもしれないが、Eランクくらいなら余裕を持って探索できそうだ。


 そして、何より、Eランクのダンジョンは簡単には攻略されない。

 今日、午後に入ったあたりからEランクのダンジョンも気にはしていたが、渋谷の周りに十個あったEランクのダンジョンのうち、攻略されたのは一つもなかった。


 これは入ったダンジョンはそのまま攻略したい俺としては結構嬉しい。

 それに、ダンジョンの深さはFランクダンジョンの五倍の五階層になり、下の階層ほどフロアが広くなっているので、ダンジョンの規模は百倍くらいになっている。

 だが、マップもモンスターの場所もわかる俺にとってはそこはそれほど苦にはならない。

 最短ルートを通れば今までの五倍程度で攻略できるのだから。

 報酬が十倍になっていることを考えると、差し引きプラスだ。


「それに、Eランクからはドロップアイテムも出るみたいだしな」


 三度目の戦闘の時に、リザルト画面に『ドロップアイテム』という項目が出てきた。


 恒例のヘルプを確認してみると、Eランクダンジョンからドロップアイテムが獲得できると追記されていた。

 ドロップアイテムは『ダンジョンGo!』のショップを通して売ることもでき、Eランク以上ではこのドロップアイテムがいちばんの収入の柱になるらしい。


 俺が獲得できたのは下級回復ポーション。

 HPヒットポイントを定量回復するものだ。

 どうやら、隠しパラメータというか確認できない数値としてHP、MP、SPも設定されているらしい。

 これも何かの称号を得たら見れるようになるのだろうか?


 ちなみに、ドロップアイテムは『ダンジョンGo!』のアプリ内に保管されており、いつでも取り出すことができるようだ。

 ……もう何も言うまい。


「さて、そろそろ二階層にーー」

「きゃぁぁぁぁ!」

「!!」


 どこかから悲鳴が聞こえてきて、俺は一目散に悲鳴の聞こえた方に駆け出していた。

 女の子が困っていたら、命を擲ってでも助けなさいって母さんに教えられて育ってきたからな。

 考えるより先に体が動いてしまう。


 一直線に駆け抜ける途中、二人組の男性とすれ違ったような気がするが、『壁走』を使って天井を駆け抜けたので、多分気づかれなかったと思う。

 突風が駆け抜けたくらいの感覚かな?


 おかげで、悲鳴が聞こえてから数秒のうちに女性のいる場所にまで辿り着くことができた。


「ジャァァァァァァ‼︎」

「!!」


 俺がその場所に着いた時、女の子が蜘蛛型のモンスターに弾き飛ばされ、壁に叩きつけられたところだった。


「ジャァァァァァァ!!」


 モンスターは追い打ちをかけるように女の子に襲いかかる。


「させるか!」

「ジャ!?」


 俺は咄嗟にモンスターと女の子の間に体を滑り込ませる。

 そして、モンスターの攻撃を小太刀で受ける。

 くっ、さっきのモンスターより強い。


「でも、受けれらないほどじゃない!」

「ジャジャ??」


 俺は小太刀を振り抜いてモンスターを弾き飛ばす。

 モンスターは俺を格上と見て警戒している。

 だが、今更警戒したって遅い。


「『一閃』!」

「ジャジーー」


 俺はさっき得たばかりのスキルをモンスターに向かって使用する。

 スキルを使うと、時間がゆっくりになったかのような、空気がねっとりと絡みついてくるような感触を受ける。

 だが、それは勘違いだ。

 時間が遅くなったんじゃなくて、俺が速く動いているのだ。


 加速した時間の中で、俺はスキルに導かれるままにモンスターに向かって駆け、すれ違いざまに小太刀で一撃を加える。


――ボフ!


 俺の背後で、モンスターがいつものように霧になった音が聞こえた。


――――――――――

色欲の飛蜘蛛(E)を倒しました。

経験値を獲得しました。

報酬:122円獲得しました。

――――――――――


 どうやら、新しいスキルは『暗殺』スキルと同等くらいのダメージは出してくれるらしい。

 これで倒しきれなかったら相当ダサいところだった。


「そうだ! 女の子!」


 俺は女の子に駆け寄る。

 女の子はかなりひどい状態だった。

 手足は曲がっちゃいけない方向に曲がっており、口の端からは血が滴っている。

 おそらく、内臓も結構ダメージを受けているのだろう。


「あ、あり……ゴフ」

「無理に喋るな。えーっと、どうしたらいいんだ?」


 俺は高卒ではっきり言って知識があまりない。

 こういう場合、どういう応急処置をしたらいいのかわからない。


 いや、医者でもないとこんな状況では適切な対処はできないか。


「! そうだ!」


 俺は『ダンジョンGo!』のアプリの中から、さっき手に入れた下級回復ポーションを取り出す。

 ヒットポイントを一定数回復するというものだ。

 取り出した下級回復ポーションは栄養ドリンクくらいの瓶に入った液体だった。


 彼女は飛蜘蛛に苦戦していたということはまだ弱いはずだ。

 弱いということはヒットポイントも低いはず。

 もしかしたらこれで傷が治せるかもしれない。


 頼むぞ! ファンタジー!


「これ、飲んで」

「ゴフ、で、でも、これ、高いって、ゴフ」

「このまま死なれた方が困る。だから飲んでくれ」

「……(こくり)」


 女の子はゆっくりとポーションを飲み干す。

 すると、女の子はみるみるうちに回復していった。

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