第15話 コンテストの内容に変化あり。女と当たり屋と引き寄せ
それは9月下旬のことであった。
女は小説を投稿しているサイトにて、次回のコンテストの知らせを目にした。
前回は長編部門にエントリーをしたものの、数日前のスマホの不具合により規定文字数に数千字足りなかったし、完結出来なかった。
女は「タイトルだけでもひとりでも見てくだされば御の字」という姿勢で臨んでいた為、とても満足していた。
読書を嫌い、標準仕様では小説を書くことが出来ない(通常とは真逆の創作方である)素人の文章を誰が読もうと思うのか。いや、思うまい。女は脳内映像を見て書いている。推敲をしようと書いた文章を再読しても、それは脳内映像の再視聴になってしまう為、推敲が推敲たり得ない。
(ああ、また12月から始まるのか。私には関係ないかな。今年の頭に頑張ったのか?よく十万字も書いたな)
自分とは無関係だというスタンスで応募要項を眺めていた。長編部門と短編部門があるというのは前回と変わりない。
意識せずに眺めていると、とある言葉に目が奪われた。
(……ん?私小説?って?自分のことだよね……?え、何、これ!誰にも信じて貰えないような話?実体験?)
誰にも信じて貰えないような話。実体験。そんな文字羅列に目が釘付けになる。
(ちょっと待って……去年、こんな部門、応募要項、あったっけ……?)
あまり深く考えずに十万字を(締め切りには間に合わなかったが)書けば応募可能とだけを見て、書いて投稿をした女だ。前回の応募の詳細など、記憶の彼方に羽ばたいている。確か長編部門と短編部門とがあった。
(え、何、これ、どうしよう?どう見ても考えても私のマンデラ現象としか思えないんだけど……?)
女は思い込みが激しいことを自覚していた。
(うーん。でもなあ。もうマンデラエフェクトとは無縁だと思いたいし……でもなあ。こんなにバッチリ当てはまることなんかめったに……あるか。私は色々な事が真っ正面からやって来る人生なんだった。2割を受け止めて来た。これも2割の内か?それとも避ける8割に入れて無視するか?)
他人がチャンスと呼ぶモノを、女は「当たり屋」と称して8割を避けていたにもかかわらず、生まれながらの環境の割には恵まれていた。
例を挙げよう。一筋縄ではいかない引き寄せだと思われる。
女は43歳の年に英検3級を受けた。一次を満点で通過し、二次に進んだ。その二次試験の際、パッセージと呼ばれる問題用紙を受け取る前に面接官と軽く会話を交わすのだ。氏名や受験級の確認を済ませ、どの交通手段により来校したか等を聞かれたのちに、彼がふと呟くように言った。
「読書は好きですか?」
読書?女は大嫌いである。ここで瞬時に膨大な感情が脳内に浮かんだ。本は読まないが、マンガならば大好きだ。本が嫌いだと言ったならば理由を問われるかもしれない。そこに繋げる会話力が無い。また、言葉を濁して適当な受け答えもままならない残念な実力である為、ここは素直に正直に行かねばならない。
「はい、マンガを読むのが大好きです」
「マンガ?」
「はい……」
面接官が驚いた口調でオウム返しに尋ねた。四十路の女の回答がトンチンカンな方面に飛んでしまったのか、不安に駆られた。
面接官はそれ以上踏み込んでは来なかった。女は安堵した。
「はい、あなたのパッセージです」
「有難うございます……!」
問題用紙を受け取って、女は凍りつく。
「……マンガですね」
「……はい……」イエスとしか言いようがなかった。
そのパッセージのタイトルが「マンガ」であったのだ。女は問題用紙のタイトルを当ててしまったのであった。そして、問題用紙を使用した試験の後、それに関連した内容の試験に進むのが常だ。なんてことだろう。まさしく女の趣味丸出しな試験になってしまった。試験と呼ぶよりは、四十路女の趣味の世間話と化していて、時間も他の受験生よりも掛かっていたのだ。女は焦った。まだ終わらないのか、と。
その二次も満点を取り、社会人枠の3級の成績優秀者として日本商工会会頭賞を頂き、「全国表彰なんてこの先二度とはないかもしれないから冥土の土産に行って来れば?交通費全額支給なんでしょ?」のアドバイスを受けて出席したのだった。案の定、他の回の(年3回あるために表彰者は各級3名)受賞者は欠席であった。
そちら(会場)でも引き寄せと思われる出席者に出会った。割愛するが。
英会話スクールに通ったのも、英検を受けたのも、ロシア語を内科医から教えて頂き、ロシア語検定を受けたのがきっかけになっていた。
また、ロシア語に興味を持ったきっかけが中学生時代に出会ったマンガであった。自分は探したり求めた覚えがない。が、地方紙に「ロシア語を教えます」という記事を偶然見かけたり、生徒の1人が職場の院長先生の医大の恩師(名誉教授)であったり、またその人はエスペラント語の世界的権威でもあり、エスペラント語にも誘われたが当時は女にはロシア語だけで手一杯であった為に断ったのであった。ロシア語を教わった女医のご主人もまた医師であった。その人は、女のバイオリンの教師と実業中学(商業)の同級生であった。
他人がチャンスと評するモノは女にとって当たり屋だ。真っ向勝負のように真っ正面から向かって来る。そう、感じるので、女は8割方を避けていた。全てを受け止めてしまったら、一体全体どうなってしまうのかが恐ろしかったのだ。女は自分の世界を閉じて生きることに幸せを味わう人種であるのだから。
(どうしようかな。私の場合はこうやって向こうからやって来るんだよ。探してないのになあ。うーん。避けるか受け止めるか)
マンデラエフェクトを経験してから2年が経とうとしている。無関係になりたくて、マンデラーのフォロワーたちとは疎遠にして貰い、日常生活の目の端には現象の報告の記事や文字は映らない。
(これはチャンスと呼ぶモノなんだろうな。多分。私は2年経つけど、まだ知らない人が沢山いるだろうな。どうしよう。もし応募するとしたら、「世界が何処かで変わってる」がどストライクだな。でもなあ。去年の7月ぐらいの体験談で強制完結させちゃったしなあ。あれからハードな体験があったのに……DMほぼ全消し事件とか乾電池事件とかビニール袋事件とか。あれから1年か。マンデラから2年。なんだ、時代が私に追い付いたんじゃない!そうだよねそれだよね。うん、そう思うことにしよう!)
続きを書こう、とは思った女だが、既に完結させたモノを如何様にして書き続けてよいかが分からない。
(そうだ、一応Aさんに相談というか報告させて貰って……どんな風に私のことを思っているかが怖いけど、あの方が一番体験を共有してネタを頂いた人だから、これは無断では応募したくないから)
女は悩んだ末にA氏に相談を持ちかけた。
再び現象が起こるなどとは微塵も思わずに……。学習機能が皆無であった。
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