第11話 コンテストとスマホ不具合と替え歌と
女は連続ドラマの1話分を視聴している感覚で少しずつ書き始めた。
職場では、インフルエンザの予防接種と院内の大掃除と年末年始の休診による諸々のしわ寄せが重なって多忙を極めていた。
そんな中で女は小説を投稿しているサイトで、コンテストが存在することを知った。
呟くタイプのSNSではフォロワーやフォロイーが殆どマンデラーになり、女は別な場所で非マンデラーの人々に「マンデラエフェクト」は「都市伝説」などではなく、精神疾患でもなく、また、「あたおか」(頭がおかしい)な記憶障害でもなく、現実に(ネット内のみならず現実世界でも)起こっている現象だということを知って欲しいと願うようになっていた。
(コレ……いいかも……マンデラーじゃない人たちの目にマンデラエフェクトの文字だけでも見て貰えるかな?)
全てを知って欲しいわけではない。
ただ、ワードだけでも1人でも多く認知して欲しかったのだ。
(そうだ、編集者の人、1人でもいい。その人がマンデラエフェクトを知らなかったら、尚更いい。タイトルだけでもマンデラーは入っているから。締め切りはいつだろう?)
女は目的意識が異なる為、ジャンルと締め切りと文字数くらいしか確認しなかった。
「十万字?ってどれくらい?」
体験小説を書いた時と、脳内スクリーンの映像を文章化した時の1話ずつの文字数を調べてみた。女は文字数を意識したことは殆どなかったのである。
(千五百から二千くらいかな?え、じゃあ沢山書かないといけないのかな?今、どれくらい書いた?1話が二千くらいかな?)じゃあもうちょっとシーンを長めに……見えるのか?私)
意識して連続ドラマを脳内で見ているわけではなかった。自然に切れた所で「終わり?ここで切れるのかな?」と書いていた。本当に自分で意識したつもりがなかった。
既に数話分を書いていた。
(2月1週末か……レセプトと重なるな。間に合うかな?ま、取り敢えずやってみよう)
取り敢えずやってみる。女には自信が有るとか無いとかの精神が欠けている。何事も「やってみて、得手不得手があるし、出来るものならば出来る。出来ないものは出来ない」と、期待も希望も持ち合わせない。そして無理や努力をしない。であるから、普通は躊躇するものを見境なく手を出しあっけなく頓挫したり細々と継続させたりと生きて来たのだ。五十路を過ぎても同じだった。学習能力も持ち合わせていない。
締め切りの違いや、読者選考などは目に入らなかった。1月末が本来の締め切りであった。この時点では女は理解していない。
(そうだ!登場人物たちがフォロワーさんたちと似たようなマンデラ現象を体験しているから、その人の体験をお借りしてリアル度を増すってのはどうだろう!それか、そのまま書いてみるとか?)
それは、いつも訪れる場所で銀行のATMがいきなり現れ、新しいか古いかをチェックする為に埃を吟味するというマンデラーが埃を発見したので世界線移動が克明になったと呟くと、その銀行の職員(行員)から清掃を行うのでどちらのATMか教えて欲しいと返事が来たあの話だ。女は一部始終を呟くサイトで実際に見ていた。確かにDMにて場所を移し連絡しあっていた。
その本人や、関係するマンデラーに連絡を取り、出来れば読んで欲しいと頼んだ。
書き進めて行くうちに、プロットという設計図を作成していない女は、だんだん自分で整理、把握する必要に駆られ、「まとまりを書いた後で塊を紙に書いておく」という逆説的なプロットを作りながら投稿を進めるようになった。
(ああ、ここで現在の2人の過去が終わるのか。てことは、その次が初代たちの過去?)
なんとも奇妙な創作方法だ。最初から全て出来上がった作品が脳内スクリーンにて上映されるので、まとめて文章で読んでみたいと欲した為に書き始めたら、映画ではなく連続ドラマ化したものを1話ずつ書き留める羽目になり、この作品は1名につき少なくとも4、5名は現れる。誰がどこの世界線で、現在で、過去の話であるのかが、映像を見ている
まとまりを書き上げてから、ここは主人公たちの過去話、こちらは初代たちの過去話、というように、軽くノートにまとめた。多少は整理がつくようになった。
女は次がどんな人物たちでどんな世界線の彼らが登場することまでは、映画早送り版では詳細に見えていなかった為に、その後に見えた幾つかのシーンや、書きながら見えたシーンを追加する際に「もしかしたら、コレ……十万字じゃ足りないかも?」と肌で感じ始めるのだった。
エピソードと呼ぶものだろうか。主人公たちだけではなく、脇役の世界線違いの過去話などが枝分かれして多量に流れて来た。
(あ、ダメだ。端折らなきゃ繋がらないし、進まない。端折るって、どこを?うわ、ここまで来たからコレを十万字で終わらせるには、上っ面しか書けないけど……まあ、しょうがない。初めてだもの。上手くいかなくて当たり前だもんね。よし、やるか)
女は締め切りを頭に入れながら、書き進めた。後は現代の主人公たちが現在の世界線の今を生きるところまでを書けば終わり、という所までに辿り着いたのだった。
もう一度応募要項を確認した女は、目が点になるどころか、消失点の如く消えそうになった。
「は?え?ウソ!!締め切りって1月末なの!」
読者がいるとはいえマンデラーのフォロワー数名しか頭にはない。
慌てふためいた上にサイトに入れないというアクシデントが締め切り2日前に起きた。泣きっ面に蜂である。
女は機械オンチであるのでSNS上にて騒ぎ立てると、頼もしいフォロワーが「再起動」を教えてくれ、女は再び書き続けることが可能になった。
しかし時は既に遅し。
再起動くぐり抜け見上げた朝焼け空に
誰がのたまうか締め切りが明日と容赦なし
延ばせとも言えずにただ書き連ねて
ことある毎に
と、心情を替え歌で綴ったとて、現実は虚しく時は過ぎ、締め切りを越えた日付に十万字に到達し、物語を完結させたのであった。
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