第7話 度重なる現象の合間に見た脳内スクリーン
それは令和3年10月20日の夜から21日の深夜(朝方)にかけて、当時相互フォロワーだったマンデラーの人と呟きのやり取りをしている合間を縫って見たものであった。
相手も呟き返しをくれていたので、女は深夜だというのに相手の都合も忘れ時間を忘れ呟きをやり取りしていたのだった。
《脳内スクリーン》とは、女が気付いた時には数十年も脳内で見続けていた白昼夢のようなものである。
マンガのようなもの、立体的なものがあるので2,5次元とでも言うのだろうか。マンガのコマ割りがなく、画面いっぱいに映像が流れ、台詞はフキダシはなくて、脳内に直接浮かぶ。会話を理解することはマンガを読んでいる時の感覚が近いが、映像は2,5次元ながら映画を鑑賞している感覚に近い。
不思議なことに、自分で想像したり考えて創り上げた覚えが全く無く、いきなりビジュアル付きの登場人物たちが現れて、時には名前を呼び合い、職業も年齢も決まっていて、嗜好品やそれぞれの家族構成までもが揃って出て来ることもある。
最初に脳内スクリーンをみた頃は「こんなマンガや小説を読んだっけ?」であった。
女は文章を読むと必ず脳内で映像に変わる。集中力を要し、その上とでも疲れるので小学校高学年の頃には読書を嫌うようになり、マンガだけを好んで読むようになった。
それなのであまり読書をしない。
マンガの作者を忘れて記憶にある映像を見ているのだろうと思っていた。
令和1年8月中旬を過ぎ(盆休みを過ぎていた)20日頃の夜のことだった。
(あれ?ずっと時代も人もバラッバラだけど、名前が分からない人が出て来るな……まさか、この人たちって……?一つのお話なのかな?分かっている人たちだけ、整理してみようかな。紙に書き出してみよう。誰と誰が分かっていたっけ?)
と、不意に思い立って、約1時間後に人数を数えてみると、なんと41名も出て来たのだった。
氏名年齢が分からない者は10名もいなかった。そこで、女は家族毎に分類して別の紙に書き出してみた。
すると、時代は違えども、全て繋がりのある一つの物語であったのだ。
(え、まさか……?これ、昔読んだマンガか小説じゃないのかな……?こんなマンガあった?まさか私が創ってる?や、でも、私は誰が主人公なのかも知らないし、考えたり想像した覚え無いし?え、でも名前が分からない人がいるから不都合だな……勝手に命名しちゃおうかな?)
映画館で見る、映画予告編のように、ぶつ切りのシーンが会話付でシーン毎にパッパッパッと流れては消えるを数十年繰り返していた。ずっと見続けていれば大体の内容が摑めてくる。
全て受け身で観るだけの脳内スクリーンであったのだ。
もしかしたら自分が、と自覚すると、今度は忘れないうちに大量の会話群を記録するようになった。ずるずると芋づる式に出て来た会話付映像を、次は文章化すれば小説になるのでは?と勘違いも甚だしい思いに駆られるようになり、素人考えの怖いもの知らずな女は令和2年9月頃になると、短い文章を場面毎に区切り、SNSへ投稿を始めたのであった。
その約1ヶ月後にマンデラエフェクトに遭遇した。女は文章化の練習に多少のブレーキをかけた。
それから1年後の真夜中に、呟きの返事を待つ(期待して待つ、というか、返事を貰ったことでまたやり取りを続けられたのだが)間の空いた時間に、ぽつらぽつらと全く知らない登場人物たちが脳内スクリーンに現れたのだ。
若い世代の夫婦だ。男女の幼い子供たちがいる。何やら両親の馴れ初めを訊いている。
夫婦のもっと若い頃だ。いや、違う?同じなのに?違う?らしい。駅構内で別々にスマホで構内を撮影している?しかし、同時に見える場所なのに?何かが違う??
女は混乱した。この人たちは、誰……?女もそうだが、登場人物たちが既に混乱しているのだ。何故だろう。
登場人物たちは皆若い。高校生らしい。何か分からないが、皆一様にスマホやパソコンに向かって、何か書き込んでいる。泣いている者もいた。何故か同じ人物なのに同じ環境にいない……。半狂乱になりそうな者もいる。あ、これはまさか、マンデラエフェクトに関係が?
と、3つ4つがやり取りの合間に流れたのだった。
(何これ!これ、カップルだけど、名前も正体も知らない同士なのに将来夫婦になってて子供がいるけど違うって何?は?わけ分からない!)
女は呟きの返事を書き込みながら、合間に流れた映画予告編の繋がりを探した。バラバラに見える場面は関係があるのだろうか、と、考えた。
しばらくして、相手が眠ったのだろうか、と少し長い時間の間が空いた。
すると、小一時間の間に凄い速さでまるで早送りのように、映画1作分が流れて最初から最後までが現れたのだ。
(あ~、あ~分かった!あ、そうだったんだ、うん、分かった!ええ……何これ……)
全てが一つに繋がって、初めて予告編の意味が理解出来た。
呟きの相手が返事を書き込んだのを確認すると、女は触りだけを書いて知らせた。便利な脳内スクリーンですね、と言われた。
女はじっくりと落ち着いた環境で映画のように観てみたいと思った。
その時はタイトルも流れた。
「マンデラーの恋人たち」
女はその時、実際に文章化しようとは思いもしなかった。
何故ならば、1名につき数名が存在していたから、である。複雑怪奇な物語だった。1人の人物の家族だけで複数存在したのである。それが何名も出て来た。女も混乱していた。
本当にこれらは自らが創り上げたものなのか?2,5次元の映画のように見えるこれらは、氏名年齢がしっかり最初の方から出て来た。
女も登場人物たちと同じく混乱して泣きそうになった。
職場でも私生活でも、まるで思いも寄らぬ現象に苛まれた。
令和3年10月はそうして幕を閉じた。
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