第5話 令和3年10月8日はマンデラ1周年記念だな③

 翌日、女はA氏に動揺しながらもDMが殆ど消えてしまったと報告をした。

 「え、全部消えたの!?」

 「違う!最初はAっちが私の情報確認の為にくれたでしょう?シフトしたかも、って呟いた次の日!あれからが消えちゃって、最初にあるのがデスラー総統の顔が青くない、白い、ってヤツになってるの!ほら、スクショ見て!」

 と、DMの頭にある画像を示した。

 「え、めっちゃ最近のやつやん!殆ど全部じゃ……他の人とのDMは?どうなってる?有る?」

 「うん、確認したけど、消えたのはAっちのだけだった……気味悪い……もしかしたら、動画を見ちゃったのが原因かな……」

 「いつも見ないと言って避けてたのに見たの?」

 「うん、スピ系があまり濃くない人のものを幾つか……どうしようかな……」

 「そっか、参考にして書いてるって言ってたもんね。しかし女っちのマンデラは妙な方向に向いてるね」

 「うん、まあ、呟いたやり取りのスクショも少なからず有るけど……後は記憶だけが頼りかな……参ったな」

 そんな泣き言を言った女に、A氏は思いも寄らぬ言葉を発した。

 「確認したら自分の所には最初から消えないで有るからさ、スクショしてDMに送ろうか?あった方がいいでしょう?」

 「……えっ?マジ?でも……(それは願ったり叶ったりだけども)あんなに大量な……それはご迷惑過ぎて……(自分では考えられないし)大変だからいいよ」

 「時間がかかるけど、隙間時間を見つけてやってみるよ。小説の続き、書いてね」

「えっ、本当にいいの?(無茶苦茶あるけどいいのかな……多忙な人なのに)」

 「待ってて。やってみるから」

と、A氏は僅かな時間を生み出しては、せっせと初回からのDMの履歴をスクショしては再送信を繰り返し、大量にあった履歴を僅かな間に消え失せた全てを女に渡したのだった。

 「凄い……!早い!助かります!有難う!今度は私もスクショして保存するね!うわ、凄いとしか言えない……っ」

 有能で多忙な者ほど仕事が早い(かつ丁寧である)と言われる通説は本当だったのだ、と女は納得した。しかしながら、女の方は有能でも多忙(暇ではないがA氏に比べて)でもない為、このA氏の再送信DMを保存するのに随分と時間をかけてしまった。

 時間が掛かったことにより、更なる現象が起きた。

 

 そのDM消滅事件を挟んで、職場では不可思議な現象が立て続けに起こる。無かったが現れ、有るはずのないが現れたのだ。医師も看護師も奇妙な心持ちになった。

 女はこの現象が起きたことにより、世界線移動は単独でも集団でも有り得るのだと考えるようになる。これら全てが令和3年10月8日以降、同月内に出現したのだ。

 まず、DMが消える前の9月下旬頃の

ことだ。職場では紙製の薬袋の他に数種のビニール袋を使用している。

 院内で使用する備品や日用品は専門業者に注文するか、院長が購入するか、女がレジから出金して近所の商店で購入するかのパターンしかなかった。また、それぞれ購入先は重複しない。在庫管理も医師、看護師、女と品物について役割分担が異なり、不可侵のようなルールが存在していた。

 いつもならば、女は備品の在庫が切れる前に必ず購入していた。が、この頃、9月下旬から10月いっぱいはそうもいかなかった。

 需要と供給がままならないインフルエンザの予防接種の問い合わせが例年以上の激しさを増しており、留守番をしている女はおいそれとはクリニックを離れられなかった。

 以前ならば昼休み時間に買い物に行ったことだろう。だか、貴重な休み時間を数分でも失いたくはないと感じる程度に疲弊していたのだ。

 「女ちゃん、5番が在庫ラスト1だからね」

 「あ、うん、後で買って来るね」

 数日後。

 「女ちゃん、あと半分位で最後のが終わっちゃうけど」

 「あ、ごめんなさい。まだ買ってない」

 また、数日後。

 「珍しいね。女ちゃんが在庫切らしているなんて」

 「うん、なかなか行けないんだよね。行こうとすると電話が鳴るんだもの。もし終わっちゃったら、7番で代用してくれないかな?ダメ?」

 「7番?ちょっと大きすぎるんだけど……」

 「大は小を兼ねるをしておいて下さいよ」

 3週間が経過した。既に10月中旬になっていた。女はまだ購入していなかった。

 「女ちゃん、有難う!やっと買ってくれたんだ。よかった!」

 看護師は、備品が置いてあるスペースを指して、満面の笑みを浮かべていた。

 女は耳を疑った。

 「は?何を?」

 「何、ってコレだよ。5番の袋」

 看護師が妙な発言をしている。と言うか、手にしているモノは3だ。

 「え、ごめんまだ買いに行けてな……ちょっと、、どこから持って来たの?」

 「え、女ちゃんが買って来てくれたんでしょ?ほら、ここにまだ

 と、計3個の5番の品物全てを取り出して女に見せた。

 女は目も耳も疑った。目の前には購入出来なかったモノが見えている。ソレは一体何だ?いつも使用しているモノと酷似しているが、いや、同じ商品だ。

 「……え……私まだ買ってないよ?3週間ずっと」

 「え?何を言ってるの?3個もあるじゃない?」

 「や、だからね、まだ買いに行けてなかっ……たのに何でここにあるの!?」

 「女ちゃんが買ったんじゃないの?忘れてるの?」

 「まさか!まだ行ってないもの!何で何でここにある……ゲッ、マジ何で!?」

 「じゃ、じゃあ院長先生が買って来てくれたの?」

 「いや、違うと思う。ここに入っていることすら知らないと思うよ」

 「え、だってこれいつも使ってるのと同じだから……じゃあどうして3個もあるの?」

 女はハッ、と我に返った。

 あったはずのDMがいきなり消えた。

 無かったはずのモノが突然現れた。

 まさか!まさかとは思うが、自分と看護師は

 マンデラエフェクトに遭遇してから、女はこの看護師には軽くマンデラエフェクトについて話を振っておいた。

 女は、まずは近場から、同級から、身近な親戚や、知人の医療従事者や、職場に定期的に訪れる業者など。相手を選んで幾つかお決まりの質問を投げかけていたのだ。

 「ほら……コレがなんだよ。ほらね、気味悪いでしょう?」

 看護師は、信じられないといった表情を浮かべて、手にしたビニール袋と女の顔を交互に見つめている。理解し難いが、飲み込めたらしかった。

 「え、前に女ちゃんが話してたのこと?」

 「そうだよ、きっとソレなんだよ。ほらぁ、信じられないことが起きるでしょう!コレがそうなの!」

 「やだ、それは女ちゃんだけでしょう!」

 「だから違うって!東京タワーがいつの間にか赤と白に塗り直されてた、って言ったのはどこの誰だった?アレね、建設当初から赤白だってよ。私は赤一色だったけどね!」

 看護師はそう質問に応えたのだ。塗り直されていた、と。

 怪訝そうな顔をして、手の中の品を見つめる。両者共に引きたくない、引かずにはいられない記憶と現実のせめぎ合いが起きている。事実は事実だ、現実だ。


 その数日後、今度は医師も交えて奇妙な現象が起こることになるとは、露ほども思わない二人であった。

 この間にも、女のSNSでは異常現象が起きていたのだった。

 

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