第4話 令和3年10月8日はマンデラ1周年記念だな②

 女は真夜中に混乱して動揺して心臓が全力疾走後のように跳ね上がった。

(なんで!?どうして無いの!?なんで途中からしか無いの!?どうしよう!ここDMのやり取りも参考にして、記事や体験小説を書いているのに!!)

 女は大昔から《脳内スクリーン》と呼ぶ、とある映像を見続けていた為、それを文章化しようと練習をしていた。その矢先だったのだ。マンデラエフェクトと言う奇妙な現象に囚われてしまったのは。

 文章化の練習は一旦置いておき、女が取った行動は「こうも自分と周囲の記憶が異なるなんて今まで無かった。それはSNSも、リアル世界もそうだ。自分の記憶が薄れ行く前に、鮮明なうちに内外に見せておかなくては。記憶の書き換えが起きたら大変だし。何しろ証拠が残せない。証明も出来ない。自分の記憶だけが頼りだが、証明する手立てが皆無だ。また、自分の都合の良いように記憶をねじ曲げて作り替えるとも聞いた。脳がそう働くらしい。それを避けたい。あくまでも事実を書き残す。それをしたい。またいつ違う世界線に移るとも限らない。保険だ、備忘録だ。違う世界線の私も同じ行動を取っているかもしれない。そうすれば、またいつ違う世界線の私の文章を読んだマンデラーさんたちが現れるかもしれないから……差異が明白になるだろう。でも、こんなのは普通誰も信じないと思う。マンデラエフェクトを体験した人でなくては信じられないだろう。そうだ、現代ファンタジーとしておこう。9割を事実、1割フェイクで濁して……まとめて書いておこう!マンデラーさんたちだけでなくて、非マンデラーさんにも読んで頂こう!実際起きたことなんだから!」と、ファンタジーとして体験小説を書き始めたのだった。何かある度に直後に呟き、それを別のSNSへ記事として少しずつまとめ、最終的に体験小説として挙げたのだった。証拠は残せないが、タイムラインを多少は見てくれている(と勝手に解釈した)マンデラーのフォロワー数名が証人となるはずであると睨んだのだ。

 (それにしても、なぜ途中からしか無いの?そういえば、B さんが男性から女性に変わっていた時、私とのDMが全部消えていた、と言ってたけど……はBさんとは一度もDMではやり取りしていなかった。と言うことは……?Bさんが、こちらへ移動して来た?え、じゃあ私が移動したの?でもでも……あんなにもうマンデラとは無関係みたいな、解放感を味わったのに?スコーンって抜けた感覚があったのに……抜けた?……?)

 真夜中の静けさとは別の暗闇の静音が取り巻いている。スマホだけが無意味に明るく女を照らしている。その明るさとは逆に、真の闇が目の前を覆う。女は期待に胸を躍らせ、膨らませていた想いを打ち砕かれた、と自覚した。

 (まさか……?私が移動したの……?もうどうでもいいや、なんて考えたから……?だからまだ東京タワーが赤白だったの!?)

 8月初旬には既にマンデラエフェクトとは自分は無関係だと決めつけられるくらいに胸の内の何かが軽かった。それならば元の世界線に戻れるかも?と、何の根拠もなく思い込んでいた。まだかまだかと待ち構えていた。

 どうやら、勘違いであったようだ。5歳下の従兄弟の急死にショックを受けた女は、あの日を境に何か精神的なものを要因として影響を及ぼし、世界線移動をしてしまったのかもしれない。

 思い返すと、令和2年7月下旬に長年一緒に働いた同僚(別職)が退職した。その後の職場環境や業務について精神的肉体的に相当ストレスが掛かっていたことは確かだ。マンデラエフェクトは、その3か月後に起きたのだ。

 (まさか……精神的なが影響している……?偶然じゃない?これまでの出来事は悲しいことが多かった。その前後で何かあった?動揺に動揺を重ねただけだと思っていたけど。悪いことなんかこれっぽっちも考えていなかったのに?フォロワーさんたちからマイナス思考になっていると決め付けられているし?心配とかしていなかった。不安にも思わなかった。心配とかは悪い方へと引きずられてしまうから、全くそっち方向へは意識を向けてない。考えてない。しいて言えば、いきなり別世界に放り投げられた感覚だから、私の意思に反して外部から何らかの力が働いたと推測して、怒りまくっていた……それは認める。世界では妙な実験を行っているようだし、世界線とは別にして、別次元の存在がこちらへ影響を与えているとも聞く。多次元宇宙とかアセンションとか私には関係ない!ハイヤーセルフとか、宇宙人が未来人とか私には関係ない!私はあのままでよかった。三次元でいいんだから……何にもなくて、世界を閉じた世界でいいのに!そのことに関しては譲れないのに!)

 次第に明けていくであろう夜空を空気に感じ、芋づる式に思い出された怒りを覚えながら再び眠りについた……眠りにつけた女は職場では心臓に毛が生えていると言われている。真偽は定かでない。


 同日中にA氏に報告することを心に決めて目を閉じた。

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