第3話 令和3年10月8日はマンデラ1周年記念だな①
女はその日特に気合いを入れないようにして、仕事が終わった後に1年前と同じく街へ買い物に出掛け、最終列車に乗り込んだ。
前年からじわじわと近寄り始めた感染症の為か、インフルエンザの予防接種に関心が例年よりも高まり、院長のポリシーである「免疫力をどの時期にピークにするか?先ずは10月初旬は早すぎ」を覆せねばならない事態となった。ワクチンの安定供給が難しく、かかりつけ医での希望している患者全てには行き渡らないと言う旨を薬品会社の担当者が言った。また、どの医療機関でも同様であるため、入荷して平等に分配するので、例年の7、8割程度になるだろう、と。早めに接種を開始した方が良いだろう、とも。
既に9月中旬から窓口や電話での問い合わせが相次ぎ、クリニックでも入荷の確証が得られない為、◯◯頃に再度連絡を入れて貰いたいと告げる対応しか取れない有様だった。
そして、入荷が決まると予約受付を開始して、人数調整をしながら予防接種を早めに開始したのだった。
そんな背景もあり、女はいつも以上に疲労が溜まりに溜まっていた為、最終列車だというのにもかかわらず、乗車して少し経つと眠り込んでしまった。
SNSではフォロワー達が『乗った?今どこ?』『どんな感じ?実況中継求む』『違和感は?』などと書き込んでいたが、女は『もう乗っている』くらいしか答えたられず、そのまま最寄り駅手前の駅近くまで熟睡してしまった。
(そうだ、去年は降りる時に慌ててたなあ……。駅が真っ暗で不気味だった。道も全て違和感だらけだった。あの時は家も家じゃないみたいで……ああ、今日は駅舎が明るい。よかった。家に着いたら、◯◯ちゃんが生き返ったりしてないかな)
2月に急死した飼い猫を思い出しながら最寄り駅に降りた。
そこでSNSを開いて、数名が心配をしているように感じられた。
自宅へ戻る道すがら、時折スマホを眺めてはため息をつき、違和感も懐かしさも感じられないことに落胆した。
我が家も然り。愛猫は少なくなったまま、老母も相変わらず。1年前はあんなにも違和感が感じられたのに、慣れたのだろうか。
しんみりとしてしまうのは昨年の状況を思い出してしまったからなのか……。女にはいまいちピンと来なかった。
令和3年10月8日は金曜日であった。
翌日の土曜日は午前中は仕事をし、午後は残りの買い物をするべく街へと出掛けた。
いつもは土日に翌週に必要なものを買い出しに行くのであるが、一部を金曜日に済ませた為に土曜の夜と翌日にいくらか時間に余裕が出来た。
……後に、このことが引き金になるとは夢にも思わない女であった。
SNSではマンデラーのフォロワーたちが収集した情報を良くタイムラインに載せて紹介しており、時には動画サイトのリンクを貼ることがあった。
女は、7月以前はそんなリンクを踏んで動画サイトへ飛び、視聴しようとした。
しかし、不思議なことに、無意識に右手が動画再生を止めてしまうのだった。一度ならず幾度も繰り返すので、これは見てはいけない?と思い直し、諦めるようになった女であった。
一周年記念で多少浮ついていたのだろう。苦手なスピリチュアル系が薄い傾向にある動画を数本、土日の空いた時間に見てしまった。
(あ、この二人の動画なら見られるみたい。もうどうでもいいや、って思えるのは変わらないな……なんで今までは見始める前にストップがかかっていたのかな?もう見ても大丈夫なのかな……無意識だから分からない)
そう不思議に感じながら、女は夜、布団に入り、いつものように眠りについた。
女はマンデラエフェクトに遭遇してからしばらくすると、ストレスのせいか真夜中に目覚めてしまうことが習慣化していた。
いつもの如く真夜中にハッ、と目が覚めた。日付は月曜日になっていた。
何の気なしに、ふと、真横に置いてあったスマホを手にした。
そして、何かに誘導されたかのように、SNSを開く。何故かタイムラインを眺めるでなく、とあるマンデラーのフォロワーのDM(ダイレクトメール)の箇所を開いたのだった。
何故、そこを開いたのかが分からない。しかし、女は自然といつもは開かないページに進んだのだ。
それは6月29日に初めてDMをやり取りしたA氏のページだった。
僅か数ヶ月間で多量な情報をやり取りしていた。女はスクロールを始めると、妙な違和感を感じた。
(え?あれ?戻れない……?あれ?最初の場所に行かない?なんで?スマホがスクロールしない?)
がばっと起き上がり、スマホを両手に持って確認する。スクロールは出来る。出来るのだが、いつまで経っても最初の会話……6月29日の場所に戻れない。と言うよりも、それが見当たらない。
「えっ!?な、なんで?消えた!?えっ!ちょ、っと、これ途中までしかないよ!」
真夜中であるのに言葉が口から思わず発せられる。
A氏のDMは、何回確かめても、初回の6月29日のものから途中の部分が綺麗さっぱり消え失せていた。
令和3年10月8日以降、女にはそれまであまり経験の無かったマンデラエフェクト現象が立て続けに起きることとなる。
スコーンと抜けた感覚は、ある意味女が世界線を移動し始めた感覚であったのかもしれない。
後に女はそう自分を慰めた。
これは序章であった。
10月は次々と妙な体験に襲われた。
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