第13話:二人の王女と実験準備と計画と

 学院から帰ってきて、寝る前の用意を一通り終わらせたのち、私は今、交換留学中の自室にいます。そこで、少し次の研究についての理論構築をしているときのことでした。


「ルナー、帰るときに話してたことについて詰めたいんだけどいいかな?」


 フレアのそんな声が扉の向こうから聞こえました。


「はい、大丈夫ですよ。どうせならこの部屋で話しますか?」

「じゃあ、そうしようかな。それじゃ、失礼しまーす。」


 ガチャリと扉の開く音とともに、フレアが私の部屋に入ってきました。その手には初めて出会ったときに使っていた箒と何枚かの紙と色とりどりの石が入った籠を持っています。そして、そのまま、私の隣の椅子に座りました。


「じゃあ早速だけどさ、ルナ。早速魔石から魔力を抽出する方法について考えたいんだけど、いいかな。」

「はい、早速やりましょう。」


 私の返事を聞いてフレアはいそいそと持ってきた籠の中からメモをした紙を何枚かといくつかの石を取り出しました。


「ルナから話を聞いて私の考えをメモしたやつがこれねー。少し見てほしいかな。」


 と、フレアは出したメモのうちの何枚かを渡してきます。内容は、ええと、『魔石から魔力を抽出することについては魔力の回復という形ですでに行われている。しかし、それがどのように行われているのかはわかっていない。現象として抽出自体は間違いなくできていることからそれの再現をできる術式さえ完成させれば魔石から魔力の抽出は可能である可能性が高い。ただ、それを実現するための問題は二つあり、一つはその術式をどうやって作るのかということ。もう一つは魔力を抽出したあとに、それをどう魔法という現象に変換するかということ。前者については魔石から魔力を回復するときに起きていることを意識して確認すれば解決できる可能性が高い。後者の方は、前者で完成させた術式に直接魔法で使う術式を連結させれば解決する可能性が高い。』


 そのあとにはその術式に関係する可能性の高いとフレアが考えた条件が列挙してあります。


「フレア、魔法の発動に術式が必要という話は貴方の話でも講義でもなかったと思うのですが…。」

「あ、ごめん、その説明忘れてたや。」


 そう言うと、フレアは魔法の術式についての説明を始めました。曰く、魔法を使うときには無意識のうちに術式を構成している。その術式はどんな魔法を使いたいかのイメージを記したもの。そして、その術式に則って魔法が発動する、と、こんな感じのようです。


「はあ、これって術式さえあれば物でも魔法が使えるってことなんですか…?」

「そうだよ。一応その説明のためにこの箒を持ってきてるんだから。」


 フレアは籠と一緒に持ってきた箒を持ち上げて言います。


「この箒には空飛ぶときに使う魔法の術式の一部を転写してあってね。その部分についてはこの箒にさえ触れていてかつ使い手が魔力を術式に通せば発動する。だから、この箒があるとかなり空飛ぶのが楽になる、って感じ。だって空を飛ぶ魔法の制御って割と大変なんだもん。」」

「なるほど、理解できました。」

「ということで、今からやることは問題のうちの片方の解決だね。ということで、とりあえず私が魔石を使って魔力を回復するときの術式の解析をしようかなって。と言っても、多分こっちはすぐに終わる…、はず。」

「はず、ですか…。何か手伝えることはありますか?」

「ん-、一応私の様子を見ててほしいかな。術式の解析に全力を注ぐからどうなるかわからないから。」

「いいんですけど…、空飛ぶ魔法の解析、もしかして一人でやったんですか…?」

「うん、まあ、そうだね。なかなか危ない橋を渡ったと我ながら思ってる。じゃあ、今から始めるねー。」


 何かすごく不安になるようなことを言い残してフレアは魔石を一つ掴みました。そして、目を閉じると、何か集中し始めました。

 すると、少しずつではありますが、魔石が小さくなり始めました。それと同時にフレアは何かつぶやいています。魔石の大きさが半分くらいになった頃でしょうか。フレアの頭が少し揺れたかと思うと、体全体が倒れそうになりました。咄嗟に私はフレアの体を支えました。確かに、見てないと危ないですね…。よく空を飛びながらこんなことをしましたね…。

 そうやって支えていると、徐々に小さくなっていた魔石が消失しました。それから少しして、フレアが目を開きました。んーっ、とだけ言って少し伸びをしました。


「ルナ、ありがとね。体、支えてくれて。」

「はい、倒れそうになったので。かなり冷や冷やしましたよ。」

「ごめんねー、心配かけちゃって。でも、これで大体わかったかな。すぐに書き出しちゃうね。」


 そう言ったフレアは何も記されていない紙を取り出し、そこに、さっきつぶやいていたであろうものを書いていきます。


「よし、できた!」


 書き始めてしばらく経ったころ、フレアは書くのをやめたと思うと、満足気にそう言いました。そして、見てほしそうにその紙を渡してきました。…これ全く読めないのですが。


「すみません、何を示しているのかがさっぱりわかりません…。」

「まあ、そうだよね。一応これで魔石から魔力を抽出する術式は書き出せた、はず。で、この後ろに魔法の術式を連結、まあ比較的安全な〈ウィンド・バレット〉あたりにしようかな。」


 フレアはその術式のあとにさらに何かを追加で書いていきます。そうして、書き終わると、


「よし、これで今回のテスト用の術式は完成!あとはこれを刻み込むための道具の用意かな。私がこの術式を使ったところで魔法が使ったのが魔石から得た魔力か自分の魔力か判別できないから道具で発動しないとだし。」

「それはどうやって作るのですか?」

「んー、材質は魔力伝導率のいい、まあ魔力を溶かし込んだ金属とかで、形状は杖みたいな感じで魔石をはめ込む場所を作ればいいかな。その上で術式を杖に刻み込む、そのときに魔法の発動場所も指定するかな。」

「なるほど、それは今すぐ作れるものなのですか?」

「んー、さすがにきついかな、金属の成型がここではさすがにできない。」

「つまり?」

「今日は解散でいいかな。お疲れ様。」

「そうですか、お疲れ様でした。」


 フレアはおやすみ、と言って部屋を出て行こうとします。そこで、私は咄嗟にフレアの手をつかみました。フレアはびっくりしたような表情でこちらを振り返りました。


「どうしたの?ルナ?」

「あの、すみません、何か一緒にいたくて…。」

「もしかして寂しいの?国許から離れてるもんね。」

「あ、いえ、そうではなくて。」

「いいのー、一緒に寝てあげるよー。」


 そう言ったフレアに布団の中に引きずり込まれてしまいます。なんで私はフレアの手を掴んでしまったんでしょうか。確かにフレアは私の夢、というか願いを叶えてくれそうな人ではありますが。その答えは考えてみても今はわかりません。いつか、この答えが見つかるのでしょうか。そうフレアに抱き込まれながらも考えてしまいました。


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