第12話:二人の王女とヘカテリアの歴史と信仰

「次の講義って歴史なんですよね?」

「そうだね、まあ、ルナは軽く聞き流すだけでもいいよ?この国の歴史だから。」

「はあ、それでいいんですか…?」

「いいのー、この講義は一応必修だけど試験はないし。代わりに割とがっつり調べたりしないといけないレポート出さないとだけどね。」

「そういう感じの講義なんですか…。」


 講義室で席に着いてフレアと話していると教授の方が講義室に入ってきました。そして、その方は少し周りを見回して、講義を始めました。どうやら、この国の歴史のうちでも、成り立ちの部分のようです。


 曰く、この国の前身となった村は魔物の脅威に常にさらされており過酷であった。その村の者はみな、魔物から身を守るために力を求めた。そして、村のある若者は精霊に祈りを捧げた。すると、精霊はその若者に力を与えた。それが魔法である。彼はその魔法を使って、村に迫った魔物の一団を殲滅した。村の者は彼に感謝すると同時に、彼の真似をしだした。そう、精霊に祈りを捧げたのである。結果として、その村に住む者はみな魔法を使えるようになり、魔物の脅威から十分に村を守れるようになった。すると、その村のことを聞きつけた他の村の者が守ってほしい、と庇護を求めに来た。そのときにはその村は最初に精霊に祈りを捧げた若者を長とし、その若者を「始祖」と呼ぶようになっていた。「始祖」は、その求めに応じ、他の村を守れるように村人を向かわせ、守らせるようになった。そのうちに、「始祖」のいる村は周りの村を自然と吸収していき、少しずつ、しかし、着実に大きくなっていった。大きくなっていくうちに、その村は街、都市、最後には国になっていった。その国の者はみな精霊に祈りを捧げ、大なり小なり魔法が使えるようになっていった。「始祖」を始めとした特に魔法が使える者は魔物討伐において中心となって戦っていった。そうして、その者たちは皆をまとめるようになっていき、貴族となっていった。そして、「始祖」はその貴族をまとめ上げ、国の頂点となった。彼がこの国、ヘカテリア王国の最初の王である。


 これは、この国の成り立ちであると同時に魔法の成り立ちであるように感じます。精霊というものも出てきました。魔法を与えた存在と考えればいいんですかね。フレアが昨日してくれた魔法の話ではそんな話は出てこなかったような気がするのですが…。


「フレア、フレア。精霊ってなんですか?」

「あー、それね。少し説明がいるかな。」


 今日のすべての講義の終了後、王城へと戻る道中で聞いてみました。


「ええとね、精霊ってのは歴史的には魔法を与えた存在である、っていうのはさっきの講義で聞いたよね。」

「そうですね、この国の最初の王になった人が祈りを捧げた、と。」

「そうそう。だけどね、その精霊が実際に存在していた、あるいは存在しているのかはわからないんだよね。」

「わからない、ですか。それは精霊の存在を確認できていない、ということですか?」

「そうだね。魔法が使えるようになったのがこの国の始まりである、というのは事実の可能性が高いんだけど精霊が与えたのかどうかはわからない。少なくとも、見たことがある人はいないんじゃないかな。」

「ああ、そういうことですか。」

「まあ、この国には精霊信仰があるからねー。」

「精霊信仰、ですか。」

「そう、魔法が使えるのは精霊のおかげであり、その精霊に感謝をしようって感じの宗教っぽいものだねー。この国だと大なり小なりみんな信じてるかなー。少なくとも、この国で魔物の脅威から身を守れてるのは魔法のおかげだから、それを与えてくれたと考えられてる精霊に感謝しよーって感じでね。」

「フレアはどうなんですか?」

「んー、少しは信じてるよ?ただ、それほどでもないかな。この国だと特に貴族でこの考え方が強かったりするんだけどそこを考えると私は異端ではあるねー。」

「それは大丈夫なんですか…?」

「うん、まあ大丈夫かな。そういう人の前では敬虔な信仰者のフリしてるし。」

「はあ、そうなんですか。」

「私にとって魔法って探求の対象だからねー。」


 そう言ったフレアは先を見据えるような目をしていました。


「魔法っていうのは私の夢なの。魔法の可能性を見てみたいの。」

「フレアにとって魔法はそうなんですね。」

「そうなのよ。精霊の有無なんて関係ない、魔法は私に可能性を見せてくれる。その先に何があろうとたどり着いてみたいんだよね。」


 そう言うフレアはまるで子供みたいな、それでいて、楽しそうな顔をしていました。夕暮れに照らされるその顔につい目を奪われてしまいそうです。


「ねえ、ルナ。そういえばルナは魔法に対してどう感じてるの?」

「私がですか?それは、そうですね。憧れ、ですかね。」

「憧れ、ね。そうなのね。」


 そう言ったフレアは足を止めたかと思うと、ガシッと私の肩をつかんで顔を見合わせてきました。


「ルナ、なら私を手伝ってよ。」

「と、言いますと?」

「私が魔法の探究をするのを手伝ってほしいかな!」

「でも、私、魔法使えないですよ?」

「それでもいいのよ!貴方なら問題ない!」


 フレアは目を輝かせて私を見つめてきます。


「ルナには新しい発想をもらいたいんだよ。貴方の視点から見た、ね。」

「なるほど、確かにそれならまだ可能ではありますね。」

「うん、だから、これからしばらくの間でいいから私に付き合ってね!」


 私はその問いかけに迷いなく首を縦に振りました。


「さあ、そうと決まったら早速力を貸してもらってもいいかな?昨日貴方が言っていた魔石の件について検討がしたいんだよね。」

「はい、喜んで。」

「,あ、はっきりと笑った。初めて見たな、そんな顔。」


 どうやら、私は普段は外に見せない感情をつい嬉しくて、外に出していたみたいです。まあ、それでもいいですかね、フレアの前ですし、ついそう思ってしまいました。

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