第11話:二人の王女と魔法の実践

 昼食はなんとかフレアのおかげで乗り切れました。次の講義は、ええと、何でしたっけ。


「ルナ、次は魔法学実技の講義だよー。」


 そんなことを考えていたらフレアが答え合わせをしてくれました。


「魔法学実技は実際に魔法を使う講義だからルナは見てるだけになっちゃうかなあ。」

「まあ、仕方がないことじゃないですかね?見てるだけといっても、魔法を見ること自体、楽しみにしていたのでかなり期待しています。」

「楽しみにしててくれたんだ!ありがとね。」


 次の講義の会場に着くと、そこには剣術の講義のときと同じようにいくつかの的が用意してありました。


「今回の講義では主に水の魔法を使うことを目的とします。まず、水属性の適性が高い者と低い者に分かれてもらいます。」

「せんせー、ルナは魔法使えないんですけどどうしますか。」

「そうですね、ルナ王女殿下はフレア王女殿下と一緒に参加してもらいましょうか。」

「はーい、了解でーす。」

「では、適性が高い人はあちらで、低い人はこちらでお願いします。」


 そう教授の方が言うと、それぞれ自分が行くべき場所へ向かい始めました。


「ルナー、こっちこっち。」


 その声のした方を見ると、フレアがそう言いながら手を振っていました。私が近づくと、フレアは近くの籠から杖を取り出しました。


「じゃあ、実際に使ってみるから見ててねー?」


 そう言うと、杖を的に向かって構えた。


「〈アクアバレット〉、〈ウォーターカッター〉、〈アクアショット〉。」


 フレアがそう言ったと思うと、まず、水の弾丸が連続して的に当たり、次いで、水の刃、最後に光線のようになった水が命中しました。的に当たったあとの水しぶきがキラキラとしています。周りの人も魔法を使うのをやめてフレアに注目しています。私のように見惚れているわけではなくて、魔法の発動動作などの挙動を見逃さないように観察しているような感じですが。


「んー、やっぱり視線が少し気になっちゃうなあ。まあ慣れちゃったけどね。」


 そう言いながらも、フレアは私の方を見てウインクをしてきました。私のことを見てと言わんばかりに。そして、すぐにフレアはまた集中し始め、魔法を発動しました。今度は、さっきの三発で終わらず、続けて四発、五発、六発、それでも止まらず、魔法の乱れ撃ちです。まるで最近試作されたと聞いたマシンガンのようですね。それも、大体二十発を超えたくらいで止まりました。少し汗をかいたのか、目の上あたりを手で拭っています。


「ルナー、どうだった?」

「フレアの魔法がどれくらいすごいのかは正直、よくわからないのですが…。でも、フレアの使った魔法はすごく奇麗でしたよ。」


 ふと周りを見渡すと、せいぜい三発連続で使うのが限界に見えます。そこから考えると、フレアの魔法の能力は少なくとも相対的には同年代の中では高い方にありそうです。とはいえ、あくまでそれはここでわかる範囲でしかありません。いっそのこと直接聞いてみますか。


「フレア、貴方って自分の魔法を使う能力についてどう思っているのですか?」

「んー、この講義で浮くレベルで高いとは感じてるかなあ。正直視線の原因も多分私が魔法をどう使っているのかを少しでも盗むためだろうし。」

「やっぱりそうなんですね。周りと比較して魔法を連続して使える数が全然違ったので。」


 そう返すとフレアは少し嬉しそうな、それでいてなんとも言えない表情を見せました。それを消したかと思うと、的へと視線を向け、魔法をまた、使い始めました。


 私がフレアや周りが魔法を使っているのを眺めていたところ、教授の方が実技の終わりを告げるように集まってくださいと言いました。


「最後に、一回無制限で水の魔法を使っていただきたいのですが、フレア王女殿下、お願いできますか。」

「…はい、わかりました。」


 フレアは返事をして再び、的の方へと向かいました。そのときの顔には普段見せるような元気さはあまりみられません。どことなく嫌そうな雰囲気を醸し出しているような感じもします。


「では、あの的にお願いします。」


 フレアが的の前に移動し、用意ができたのを確認した教授の方が合図を出しました。


「ふう。では、行きますね。〈レインスプラッシュ〉!!」


 そうフレアが言うと、突如空中に水滴が百個以上出現し、的に向かって一直線に飛んでいきます。それは一度では終わらず、連続的に行われていきます。それはまるで的にだけ降り注ぐ雨、それも、災害級のものにしか見えません。その魔法を食らった的は原型をとどめていませんでした。講義中にフレアの使った魔法は的に傷をつけはしましたが、ここまでにはならなかったことから、これが本気である、ということがわかります。しかし、これでもまだ序の口である、そんな感覚も抱きました。周りから巻き起こった拍手はフレアへの賞賛のものなのでしょう。


「フレア王女殿下、やはり素晴らしい魔法の腕前ですね。ありがとうございました。では、本日の講義は以上としましょう。お疲れ様でした。」


 それを合図としてこの講義は解散となりました。


「ルナ、次の講義で今日は終わりだよー。」

「次の講義は確か歴史でしたっけ?」

「うんうん、そうだねー。」


 そう確認した後、私たちは講義室へと向かいます。その移動中にさっき引っかかったことについて確認しようと思います。


「フレア。」

「ん、何?」

「さっきの魔法ってフレアの出せる全力なんですか?」

「あー、それかあ。ルナにはバレちゃったかあ。」

「…全力ではなかったんですか?」

「うん。本当の意味の全力ではなかったね。」


 そう言ったフレアは普段は見せないような寂しそうな雰囲気を感じさせました。


「一回講義中に本気で魔法を使ったことはあるんだ。そうしたらどうなったと思う?先生含めてドン引きしちゃったんだよねー。」

「強すぎて、ですか…?」

「そうなんだよねー。私自身はそうでもないと思ってたんだけど、私の感覚がおかしいだけでどうやら世間一般だと魔法については化け物扱いされちゃってるんだよね。今じゃもう慣れっこだけどね。」


 そういうフレアの表情は優れず、孤独さすら感じさせるものでした。しかし、フレアはすぐにそれを引っこめると、それを誤魔化すかのように笑いかけてきました。


「ねえ、ルナは私の魔法を見てどう思った?」

「剣術のときもそうでしたが、やはり、とても美しく、そして、奇麗だと感じました。私も使えたらなって思ってしまうほどに…。」


 私のこの思いは叶ってしまってもいいのでしょうか。空に手を伸ばしてみても、届いてしまっていいのでしょうか。



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